一章 急に動き出すなんとやら

第一話 迷宮─1

 十万年前、王と神が三千年もの歳月を巡って繰り広げた大規模な戦争があった。


 後の世で「王神大戦」と称されるいくさは、十万年の歳月を経てもなお、悲惨な過去を色褪せることなく現代に語り継がれている。



 約十万年前の戦争で王は神々に争いの火蓋を切って落とした。それは完全な王の意志であり、世界を自分の支配下に世界を征服するという巫山戯た思想によって引き起こされた争い。

 最初こそ慈悲深い当時の神々は唯の人の子の戯言とみなし沈黙で返したが。

 

 それは王の残虐性と脅威によって破られる事になった。

 争十を引き起こした王は、どこかの国々王では決して無く、頂点、生物の最終進化点に君臨する生物の王。


 簡単に言えば、王は世界を脅かす程の……神と同等の力を持っていたのだ。


 神々は王に対処すべく。神々は王の残虐から世界を守護するべく、十六の英雄を遣わせ王の討伐を英雄に命じた。

 紆余曲折うよきょくせつは合った物の結果として王は英雄達と相打ちをする形で敗れ、王の野望、世界征服などという巫山戯た想いは潰えることとなった。


 本来ならこの英雄たちの命を文字通り懸けた戦争は後世に賛美として讃えられる筈で、そうであるべきなのだが。


 王はそれをただで許しはしなかった。


 王は確かに戦いに敗れてその野望を叶えることは出来なかった。だが、しかし、それは十万年前の当時、敗北した時点での話。

 「王は戦争で敗北した」これは紛れもない事実だ。結果として英雄は死に三柱の神々は痛手を負ったとしても勝利したことには変わりない……この戦争で大事なのが勝利する事であるならば大いに喜ぶべきなのだろう。


 前提が間違っている。王は、王神大戦で敗北したなのだから。

 英雄は王を討伐することは叶わず負かしただけ、神々はこの事実を嘆いた。


 王は十万の年月が経過した今も生きている。

 神々は嘆く。王が生きている事実に、王を討伐するほどの力を持つ英雄達が王を討伐する想い叶わず命を落としてしまった事に。

 もし、もしあの時、王を殺せていたら、神々は嘆く。

 

 王はただ敗北するだけに留まらず、神々の力であった筈の事象の書き換えを可能にし有るもの現象を生み出した。

 今も何処かで発生するその現象はすべて王の創り出したソレの性質を受け継いでおり。神はこの世界の事象ではないソレの対処しなければならない。


 「永久牢獄」そう名付けられたそれは王神大戦の後の影響で創造された城塞。ダンジョン化と呼ばれる自然現象の元になった建造物の事を指す。


 この世界には、元々存在する筈の無かったある事象が存在する。

 ダンジョン化、或いは異空迷宮化と呼称される自然現象の事だ。

 ダンジョン化、迷宮化という現象はある特定の範囲、特定の建造物が複雑な構造を持つようになり、日ごと或いは数時間毎に構造の性質と構造そのものを変質させる現象だ。

 変質する形は不特定で一度として同じ構造は作らないという事だけが分かっている。

 ダンジョン化は酷い物だと外観からは全く想像のできない構造をすることがあり、中には世界の法則性すら無視する物も存在する。


 王が産み出した城塞、永久牢獄は一番最初の迷宮化した建造物として記録されている。


 永久牢獄内部は千の階層に分けられており。階層の一層毎には違う形で城塞の外観からはとても想像できない広大な自然がその全てに自生している。

 城塞内に存在する自然は侵入したものを襲う性質を持っている。

 城塞の中の自然で産れた生命も然り侵入者に牙を向く性質を持つ。

 広大な土地、自然が存在する永久牢獄は城塞外の世界の法則と違う法則で成り立っている、城塞内で自生する生命達はすべて、弱肉強食では無く排他的原理で成り立つ。

 部外者を襲い、内外者を助ける。だからこそ城塞内の生物たちは自然現象も含めて、部外者に牙を向ける。

 王の造り上げた、城塞はこの世界の法則を変え、新たな事象『ダンジョン化』を生み出した。

 

 十万年間、多岐に渡る探索者たちが攻略を目指したのにも関わらず。十万年たった今でもその城塞は攻略されず、十万年たった今でもその迷宮の攻略を目標に探索者たちの足は絶えない。

 永久牢獄、王が住まう城塞型の原初の迷宮で何かが起こる予感を迷宮内にいる一人の少女は抱えていた。

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