第30話 球技大会
今日はみんなが待ちに待った球技大会だ。
教室中のみんながそわそわしてるし、やる気に満ち溢れている。
男子では、ここでかっこいい所を見せて、女子達から注目を浴びたい、彼女が欲しいなどそんな雰囲気が伝わってくる。
「おはようございますっ」
「お、おうおはよう……」
瀬川の姿はポニーテールに、ハチマキをしている。
普段とは違うその姿に、胸が締め付けられるような……。
そんな感覚だった。
「みなさん、凄い気合ですね」
「そりゃあな、テストとかで溜まったストレスを誰の文句もなく吐けるのは学校ではこの行事くらいだからな」
「そうですね……」
「それに、みんな異性によく思われたいと思ってるんじゃない?」
俺がそう言うと、瀬川はじっと見つめてくる。
「な、なんだよ……」
「一真くんも思っているんですか?」
「い、いや……俺は別に」
「そ、それは――――」
「二人とももう始まるよ」
瀬川が何か言いかけた時に、矢島の声がそれを遮る。
矢島の声に助かったのか、俺はなぜか安堵していた。
「なによ、鼻の下伸びてるわよ」
「伸びてない、お前の方こそ木崎見てニヤニヤしてただろ」
「な、な、し、してないからっ!」
「はいはい、そうですか」
俺がやれやれって感じで言うと、矢島は飛び蹴りでもかますのかと思うほどの殺気を出してくる。
煽りすぎたか……でもニヤニヤしてたのは本当だからな。
「あ、瀬川ちゃん」
「はい?」
「今日のお昼にあるからね? あの件」
「あ、はいっ」
「大丈夫? この前に言ったやつだけど」
矢島になにか瀬川は確認を取られて、俺の方をチラッと見た後に、頭を縦に振っている。
「大丈夫ですっ!」
「気合入ってるね~」
「はい! 今日はお祭りですからっ」
お祭りか~と俺は心の中で軽く感じていた。
斗真との勝負や絵馬との約束も何もかもを投げ捨てたいと思った。
「一真くんっ、行きますよー?」
瀬川が振り返って、微笑みかけてくる。
俺は自分の席から立ち上がり、瀬川の方へ歩く。
「何か考え事ですか?」
「いや、大したことじゃないよ」
「そうですか、何か悩んでることあったら相談してくださいね」
たしかに、ボーっとはしていたが、悩んでいるとかそういうのじゃない。
ただなんかいいな、そんなことを俺は考えていた。
◆
開会式が終わり、教室に戻る途中で斗真が俺のことを待っていた。
ニヤついたその表情はまるでこの状況を楽しんでいるみたいだった。
「やぁ兄さん」
「なんだよ弟」
いつも通りの挨拶を交わし、俺と斗真は数秒無言になる。
「緊張してる?」
「別にそこまでかな」
「よかった、じゃないと勝負にならなそうだからね」
「勝負にならない?」
俺はその言葉にすこしカチンと来て聞き返してしまった。
「緊張なんかして、動きがガチガチなら勝負する価値ないからね」
「そうか、なら諦めてくれたら楽なんだけどな」
「じゃあこの間の約束はナシだよ」
とこの間の交渉材料を出してくる。
「ボクの気が変わらないように気を付けてね」
「わかってるよ」
「じゃあ楽しみにしてる」
そう言って、振り返ることなく、手を振って去って行く。
いまここから俺たちの勝負が始まった。
幼馴染に振られたダメ兄の隣に転校してきたのは昔遊んでた男の子なんだけど本当は女の子だったらしいです 楠木のある @kusunki_oo
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