第二章 双子の兄弟

第29話 朝のランニング

 あっという間に時間が過ぎて、もう球技大会目前まで迫った。

 俺は斗真の約束通りサッカー選択となった。


 俺がサッカーに参加すると言った時のクラスの奴らの驚いた顔は今でも忘れられない。


 俺がサッカーに参加することを喜んでくれたのは木崎と矢島、一番嬉しそうだったのは瀬川だった。


 球技大会に向けて俺の生活は変わった。

 放課後はすることもないので、ランニングくらいはしているし、風呂上りはストレッチなどもしている。


「あれ、今日は朝も走るんですか?」


 ちょうどゴミ出しに行こうとしていた瀬川にばったりと会う。


「あぁ、なんか早く起きて落ち着かないし」

「ふふっ、健康になりすぎてるんじゃないですか?」

「いや、いいことだろっ!」

「はい、いいことですよ? でも一真くんとは思えなくて可笑しい気持ちです」


 バカにしてるだろっと思ってしまうが、瀬川のこの表情を見ていると、別にどうでもよく感じる。


 てか、なんなら朝から瀬川の顔を見れてやる気が出るくらいだ。


「んじゃ、行って来るわ」

「はい、行ってらっしゃい……あ、明日は私も走っていいですか?」

「え、どうして?」

「ダメですか?」


 上目づかいでシュンとした表情をされると、断るわけはいかない。

 というよりも断れない。


「いや、悪いってことはないけど、疲れるよ?」

「いいんです、体形維持とか大変なのでこれでも走ったりはしてます」

「すごいな……」

「元々、身体動かすの好きなので」


 知っているでしょう? といったニュアンスで話してくる。

 あぁ、知っている。瀬川は身体を動かすのが好きだ。


 俺は瀬川と昔本気でドッジボールやサッカーをした仲だからな。

 明日は一緒に走るのかとか思いながらその日はいつもより長い道を走った。


「おはようございます」

「おー……」

「どうかしました?」


 彼女のランニングウェアの姿に見惚れてしまった。

 髪の毛はお団子の様に邪魔にならないようにしている。


「いや、似合っていると思って」

「本当ですか? あ、ありがとうございますっ……」

「い、行くか」


 褒めたの間違いだったかなとか思いながら、変な空気になってしまったことを後悔する。


「体力をつけるためですか?」

「え?」

「あ、すみません、走っていることに対してです」

「う~ん、体力もそうだけど、一番は怪我をしないことだよ」


 俺がそう言うと、珍しく瀬川が感心していた。

 それはそれで俺に失礼だと思うんだが。


「すごいですね、そこまで考えているとは」

「昔サッカーをやってたからって今練習して勝てるわけない」

「それはやってみないと……」

「やったことある人間だからわかるさ、1年や2年、ちゃんとやってきたやつに何もしてなかった奴は勝てない」


 俺はピシャリと会話の幕を下ろすように言葉を吐く。


「ペースとか大丈夫?」

「平気ですよ、これくらいならまだまだいけますっ」

「そ、そうか……ははは」


 俺このペースが本当に限界なんだけど。

 まだまだいけるってなんだよ。


 俺はこの時自分の体力のなさに絶望しかけた。


 ていうか、朝だから人はあんまり多くないが、この姿を他人にあまり見せたくない。


 自分の姿じゃなく、瀬川の姿を見せたくはない。

 彼女のランニングウェアがピタッと体のラインにくっつき、スタイルの良さが出ている。


 特に胸とかふとももとか、お尻とか、本当に……。

 健全な高校生にとってこのスタイルは怪物級にすごい。


 着やせするタイプなのだろう、普段ブレザーに隠れている巨乳が露呈している。


「どうしたんですか? さっきから私の方を見て」

「い、いや……別になんでも」

「さっきから怪しいです、視線もエッチだし」

「んなっ! そ、そんなことは」


 俺が動揺しているのがバレて、ジトっとした目を向けられる。


「あの……この格好はスタイルの良さがバレてしまうのでやめた方が良いかと……」

「一真くんの前で以外着ることもないですし、その必要もないです」

「そっか……」


 なぜか、その言葉を聞いてホッとしてしまった。

 そ、そう変な男が寄ってくるかもしれないからその心配を。


「ふふっ、安心しましたか?」

「……俺の心の中を読まないでください」

「ごめんなさい、本当に思ってるとは」

「いや、ほんと、勘弁してくださいっ」


 俺はその日はもう何も喋らない方が良いと感じた。

 瀬川はものすごく楽しそうにランニングしてたけど。


 それでも俺もこういう一緒にランニングとか運動するのは悪くないなと思えた瞬間だった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る