第4-21話 懇願

エルフの郷からやってきたのは【光】の精霊・ヴェルファウの腹心を名乗る精霊・カンデオだった。




『――【火】の精霊よ!郷の光霊たちを何処へ幽閉したのだッ!!!』


「何処へ幽閉って?そんな人聞きの悪い。日本の事を知りたいようだったからニホンの良さを感じられる場所を教えてあげただけですよ?いやぁ数日足らずじゃ伝えきれなくて」



炎の仮面冒険者は悪びれる様子もなくあっけらかんと答える。


本気で日本観光するなら数日で終わる訳ないので嘘はない。




『――では郷の光霊たちは今何処にいるのだ?』

「うーん。今は何処のあたりだろ?」

『――ふざけておるのかッ!』

「この建物の外に出ればわかるかも?」



防衛省の研究開発棟――麗水海咲カスタムのオペレーションルームの外に出て空を見上げれば――。



『――こ、これは【夜】か!?』



カンデオにとっても数千、数万年ぶりであろう夜に驚愕した。



「生まれたての精霊たちしたら初めて経験する【夜】に魅入られるよねそりゃ。夜を追っかけて地球一周するコまで出てきたのは驚いたけど」

『――ち、地球?』

「じゃあ麗水ちゃん。『エルフの郷の光精霊様向け地球&世界地図についての説明映像』をお願い」

「了解です」


遮光ゴーグルを装着した麗水ちゃんが屋外でも映写可能な映像資料ホログラムの準備を始める。


光の精霊カンデオは小一時間、地球教習を受ける事となった。



『――大陸が球体になっておる……だと……!?』

「それ聞いたコたち皆地球一周しようとするんだよね。迷子にならないように先導ジェットドローン用意してさ」

「領空侵犯にならないようにルート設定するのは大変でした」

「貴方も地球一周旅行してみますか?」

『――もうよい。【火】の精霊に愛されし者、其方そなたの言葉に害偽がない事はわかる』



カンデオは炎の仮面冒険者から害意・欺意を感じる事はなかった。



「炎さん、第15班の光の精霊さん達が地球一周から帰ってきたみたいです」



ドローンに先導されてまるで天の川のような光の集合体が防衛省内の敷地へ近づいてきた。



『――あっカンデオ様だー。皆、カンデオ様の前でアレ、やってみよー』



カンデオの存在気づいた光の精霊たちが陣形を組む。


光の模様が夜空に輝く。




『――アレはなんだ?』

「星座の物真似ですかね?」

『――星座?』

「まあ東京の空だとあんまり見えないですけどね」


「アレは南天の夜空に輝く秋の星座――【鳳凰座】ですね。不死鳥火の鳥をモチーフにした星座です。日本では鹿児島県より南部じゃないと見れないそうです。以上麗水ペディアでした」


『――美しいものだな』



夜空で輝く光の精霊達の姿にカンデオは感嘆する。



「秋の星座……」



季節の変わり目を感じた炎は彼女の猶予はいつまでだろう?とふと我に返る。



『――火の鳥と言われたらワタシも黙ってはいられないわね』



イルフェノの焔皇としての誇りに火がついてしまったようだ。



炎の猫が燃え上がり、分離した炎がまさしく炎の鳥――鳳凰として夜空に舞い上がる。



『――火の精霊に負けないぞみんな!』



光の精霊達も小さな光を寄せ合い、星座から光の鳥――星鳥へと変化する。



「すんごい。これショート動画にしちゃ駄目でしょうか?」



遮光ゴーグルを外し、ぽつりと呟く麗水ちゃん。


記録に、後世に、残したくなるような幻想的な光景だった。


防衛省の省庁ビルの窓からも見物客が増えていく。




『――楽しそうにしよって。我は郷へ帰る。光霊たちはもう少しニホンで遊ばせてやってくれ』



カンデオはエルフの郷へ帰ろうとする。



「あの!」

『――なんじゃ?』

「イルフェノ」

『――わかったわ』



夜空に舞う鳳凰が変化し、周囲からの視線を阻む炎の壁となる。



『――ッ!?なんじゃやっぱり火の壁で幽閉するつもりか!?』



炎の猫はある一人のどこにでもいそうな成人男性に変化する。



「ほ、炎さん……!?」


炎の仮面冒険者の正体は知っていたが、本人の姿を直視するのが初めてだった麗水ちゃんは驚きを隠せない。



男は地面に膝をつき、手をつき、頭を下げてカンデオに懇願した。




「どうしても命を助けたい子がいるんです。お願いですどうかッ!世界樹の力でその子を助けてあげてもらえないでしょうか!?なんでもしますからッ!!!」



カンデオは目の前の人間の懇願にどう対処すべきか思案する。



『――よもや精霊と【同化】出来てしまう人種がおるとはな……【火】の精霊よ。其方も同じ覚悟があると受け取って良いのか?』

『――ええ。つがいの願いがワタシの願いと受け取ってもらって構わないわ』

『――あいわかった。ヴェルファウ様もこれほどの【火】がなんでもすると言うのであれば御一考の余地をくださるかもしれんな。言質は取ったぞ?二言は無いな?』

『――無いわよ。早く郷へ帰って【光】に伝えなさい』

『――愛されし者よ。顔をあげよそして立て』



「はい」



炎の仮面冒険者は再び炎の壁を同化し、炎の猫と化す。




『――その命を救いたいという人間を郷へ連れてこい』

「いいんですか?」

『――我の気持ちが変わらんうちに来ることだな。さらばだ』



光の精霊、カンデオはエルフの郷へ帰っていった。





     ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




後日――。原宿ダンジョン127層――。



「うーん。これは……」



最初に訪れた時は白一色の光に包まれた森だった場所は―――。


赤、青、紫、緑、黄色、桃色、水色、橙――と森全体がクリスマスツリーのように多彩な光を放つようになっていた。



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※この炎の仮面冒険者を読んでくださっている読者の皆様いつもありがとうございます、メリークリスマス。


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推しのダンジョン配信者を死なせたくないので炎の仮面冒険者始めました~日本初の100層踏破者は毎回コメント欄がツッコミの嵐 煌國粋陽 @aimbureburem24

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