第4-20話 防衛省、光る
東京都新宿区市ヶ谷――。
目立たぬよう炎の
「これは……」
防衛省の省庁ビルの窓がところどころ明滅している。
そして四方の空へ【光】が飛んでいっている。
『――光の精霊を追いかけるのは骨が折れるわね。まあ精霊に骨はないのだけれど』
「精霊ジョークは今いいから」
まだ夜ではないので防衛省の外はそこまで騒ぎになっていないようだ。
対照的に防衛省で勤務している人達はまさに非常事態で敷地内を動き回っていた。
「……これ麗水ちゃん、本当に防衛省、クビになるかも」
炎は麗水ちゃんがいる研究開発棟を目指す。
いつもの猫の姿になり炎の仮面冒険者の来訪を伝えるとあっさり通された。
案内されたのは防衛省のオペレーティングルームのような場所。
もしかするといつも麗水ちゃんはこの場所で撮影ドローンの操作を行っているのだろう。
炎がオペレーティングルームに入ろうとした瞬間、光の精霊が入れ違いで出て行った。
「うわぁ……」
オペレーティングルームの中は光精霊でピッカピカだった。
「眩しッ!」
「あっ炎さん」
遮光ゴーグルを装着した麗水ちゃんともう一人、まさに官僚然とした男性が炎の方へ近づいてくる。
「貴方が炎の仮面冒険者殿ですね。初めまして。私は防衛省の事案対処統括責任者の一人――
「初めまして。仮面冒険者――炎です。あのー。事案対処統括責任者というのは?」
「防衛省は日々、サイバー攻撃等の脅威に晒されています。そういった対処など機密情報保全の為、プロフェッショナルな存在が必要不可欠です。それが事案対処統括責任者です」
「江中さんは日本の平和の為に電脳世界で戦っていらっしゃるんですね。今回はこんな光精霊の騒ぎを起こしてしまい、大変申し訳ありませんでした。あの……防衛省の機密情報が漏れたとか大事になってしまってるんでしょうか?」
恐る恐る尋ねる。
「御心配なく。特別防衛秘密(機密)≪TOPSECRET≫、特別防衛秘密(極秘)≪SECRET≫、省秘≪
江中は炎の仮面冒険者を安心させるように懇切丁寧に説明した。
「元々このオペレーティングルームは麗水がカスタム自作した場所ですので防衛省の機密情報へのアクセスなんて最初から出来ない場所なんです」
確かに防衛省の省庁ビルとは離れた場所に研究開発棟そしてこのオペレーティングルームは存在していた。
「麗水に機密情報なんて任せられませんし」
「はは」
防衛省の人達も彼女の扱い方を心得ているようだ。
「それなら麗水ちゃん、騒ぎの責任を取らされてクビ……にはならないですか?」
麗水ちゃんの進退を尋ねた瞬間、江中の雰囲気が変わった。
「何を仰います?懲戒解雇で責任を取れ?この騒ぎで防衛省職員の皆に迷惑をかけた分、それ以上の働きをするまでこの女は防衛省から解放しませんよ?」
「ひぃぃぃぃぃ!!!」
江中の言葉に震えあがるプラチナブロンドの天才開発者。
(この人、笑顔だけど内心めっちゃ怒ってる……頑張れ麗水ちゃん)
炎の仮面冒険者は自分のクランを立ち上げておいて良かったと心底思った。
「それにしても光の精霊がこのようにネットワークに侵入できるなんて。今まで問題にならなかったのが不思議なくらいだ」
「まあ精霊は基本、犯罪行為に加担はしないので。
「そうですか」
江中があるモノに視線を向ける。
「ただこの状況をどうにかしていただけないでしょうか?」
視線の先にはダンジョン配信を行う為の極太のダンジョン専用
ケーブルは既に防衛省のネットワークから切り離す為、切断されていた。
その切り口から光の精霊が度々顕れ、今も防衛省の建物内、更には東京の空へと飛んで行っている。
「見た感じとても煌びやかで華やかですし、この切り口を広場に移して防衛省の新名物にしてみては?」
「防衛省をイルミネーションスポットにしないで頂きたい」
提案が却下されたので炎の仮面冒険者は【精霊術師】として解決策を探る。
「ねえ?」
炎は光の精霊に話しかけた。その言葉に精霊が反応する。
『――なに?』
「どうして森人の郷から『ニホン』に来たの?」
『――ヴェルファウ様がこの魔導具の光景は真か、確かめてこいって』
どうやらエルフの郷を庇護している【光】の精霊の名はヴェルファウというらしい。
ゼランに渡したタブレット端末から日本の動画を見て、敵情視察に光の精霊たちを派遣したようだ。
『――もう行っていい?』
「いいよ。『ニホン』を楽しんできなー。あ。そうだ」
炎はまずエルフの郷の光の精霊達に日本の事を気に入ってもらう事にした。
なので色々な【アドバイス】をした結果――。
数日後――。
これまでの光の精霊達とは明らかに霊体の格が上がっている光の精霊が防衛省のオペレーティングルームに現れた。
『――【火】の精霊よ!郷の光霊たちを何処へ幽閉したのだッ!!!』
精霊誘拐犯扱いされる事になってしまった。
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