第4-19話 やはりこの天才、仕事が出来過ぎる
127層で対峙したエルフの集団から『【光】の大精霊は【火】も【闇】もエルフの郷に招き入れるつもりはない』と宣言されてしまう。
同行していたダークエルフ達もいきなり光の矢を放たれた事で戦闘態勢に入る。
一触即発の剣呑とした雰囲気に待ったをかけたのはエルフのゼランだった。
『待てッ!ゼロウス!!』
『ゼランッ!!』
エルフ集団のリーダー・ゼロウスもゼランの存在に驚く。
そしてふたりは離れた距離から大声でなにやら話している。
『――――――――――――――ッ!』
『――――――――――――――ッ!』
『――――――――――――――ッ!』
『――――――――――――――ッ!』
『ふたりは何話してるの?』
炎の仮面冒険者はイルフェノに念話で尋ねる。
『――この人達は俺の命の恩人だッ!だから矢を向けるのはやめてくれッ!まあワタシ達の印象を良くしようとしてくれてるわ』
エルフの郷から【魔力心臓疾患者】に有効かもしれない世界樹の樹雫を譲ってもらえるかどうかはゼランの説得次第。
警戒されている部外者が何を言っても逆効果なのは火を見るよりも明らかなので一先ずゼランに託し、炎の仮面冒険者は撤退を決めた。
郷のエルフ達に日本の事を知ってもらう為に日本の動画が見れるタブレット端末をゼランに渡す事にした。
エルフ族として聡明なゼランは既に簡単な端末操作も習得している。
撮影ドローンも一機、ゼラン専用として設定し直した。
「ゼラン。お願いだ。綾覇ちゃんを助けてやってくれ……」
炎の仮面冒険者は深く頭を下げ、ゼランに懇願した。
『勿論だ。命を救われた恩義の前に種族の壁なんて関係ない。私の最善を尽くす』
こうして炎の仮面冒険者一行はエルフの郷が存在する127層から撤退した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
原宿ダンジョン70層。クラン【炎麗黒猫】拠点、クランマスタールーム――。
何窓でも同時視聴を可能にする為の大量のモニターに囲まれた中、ワーキングチェアにどっかり体重をかける炎の仮面冒険者。
普段、
「ああ。ゼランの説得が却下されたら綾覇ちゃんになんて言えばいいんだぁぁぁ……」
絶対助けると宣言したのに駄目でしたなんて言えない……。
「もし駄目だったらこっそりエルフの郷に潜入して……」
良くない事だとは重々承知しているが人命がかかっているのだ。
『――駄目よ。そんな手段で世界樹の樹雫を手に入れても、その樹雫にアヤハを癒す力はなくなるわ』
「だよなぁ……」
イルフェノからの諫言に少しでもそんな考えが過ぎった事を炎は反省する。
『――安心なさい。世界樹や精霊の救いが必要な者を見殺しするようには精霊は【できてない】から』
「そうなのか?」
『――もし創造神から託された精霊としての使命を放棄するような傲慢な【光】がいる郷ならワタシがそんな森、全て焼き払ってやるわ』
「俺よりもヤバい奴いた」
イルフェノの言葉を聞き、少し安心したその瞬間――。
クランマスタールームが突然、赤く明滅した。サイレンが響く。
「これはッ!?防衛省からのエマージェンシーコール!?」
『炎さん、大変ですぅぅぅぅ!!!』
スピーカーから防衛省の麗水ちゃんの声。
「どうした!?何があった!?【魔族】の襲撃ッ!?」
原宿ダンジョンからの【魔族の地上侵攻】に関してはほぼ解決したと言っていい状況のはずだった。
『違いますッ!!』
「じゃあなに!?」
『それが……それが……』
『光の精霊に防衛省のネットワークが
「は?」
炎は彼女の言葉を理解するのに時間を要した。
「光の精霊が防衛省にハッキング?どうやって?」
炎もゼランに渡したタブレット端末や撮影ドローンの事はすぐに頭に浮かんだが、タブレットもドローンも無線だ。
ただでさえ複雑な構造をしているダンジョンの階層を光の精霊が正解ルートを選択して何十層分も進んでこれるとは思えなかった。
『えーとですね……炎さんのダンジョン配信チャンネルって多いときは百万人すら超える視聴者さんが集まったりするじゃないですか?』
「ありがたい事にね」
『それだけの視聴者さんがアクセスしたら当然、回線も混雑してラグとか生まれてしまうんですよ……』
「まあね」
『炎さんのダンジョン配信をよりクリアな解像度で届けられるようにッ!ラグもなくッ!!多くの視聴者さんに楽しんでもらう為にッ!!ダンジョン専用
「麗水ちゃん仕事し過ぎッ!!!!」
要するに光の精霊たちが一直線で防衛省のネットワークに侵入できるルートを麗水ちゃんが用意してしまったらしい。
『キャッ!?』
「麗水ちゃんどうした?」
『眩しすぎて目を開けていられませーん』
「すぐ行くからッ!!今どこ!?」
『防衛省の敷地内にある研究開発棟ですぅ』
「地上かよ……」
炎の仮面冒険者はクランマスタールームを飛び出し彼女の救援に向かった。
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