第4-18話 これも闇医者?


原宿(東京)ダンジョン126層――。



「そろそろゼランが暮らしてたエルフの郷があってもいいんだけどなぁ」



121層から125層を隈なくマッピング地図把握したものの、エルフの郷は存在しなかった。


他種族を寄せつけない森人の郷の特殊な結界もエルフのゼランなら当然発見出来る。


だがゼランからも125層までにはエルフの郷は存在しないと断言されてしまった。


ゼランを拉致して120層の魔族都市まで運んだ【魔族】も130、140層から120層まで移動したとは考えにくい。


120層の【城の主】だったサキュバス・アイウェールの影響圏もせいぜい130層までだろうという見立て。



炎の仮面冒険者の凸撃?により120層から逃げ出した魔族による【瘴気魔獣】も124層までだった。


それでも126層にも【魔族】は存在する。



【魔族】を戦闘不能状態にするのは『彼女』――。




――――――――――我が悠久の闇の中で眠れ




魔族達の頭部が漆黒の球体に包まれ、事切れたかのように戦闘不能に陥る。


力を取り戻した闇の精霊・ベオスクリタの精霊技だった。



そんな『彼女』は今、何故か女医の格好している。


漆黒の女医さん。


力を取り戻すべく東京の闇空と同化していたベオスクリタは日本人がどんな種族か観察し続けた。


東京の不夜城ともいえる繁華街で自身の欲望を満たす人間の姿に最初はカルチャーショックを受けたらしい。


それでも深夜の救命救急センターで運ばれて来た重症患者の命を必死に守る、とある女性医師の姿が一番印象に残り、リスペクトしているようだった。


それが漆黒の女医さん誕生秘話。




現在126層にいるのは炎の仮面冒険者(焔霊剣皇イルフェノ)、エルフのゼラン、女医姿の闇精霊・ベオスクリタ、ベオスクリタに従うジャルナを始めとするダークエルフが十名ほど。



マッピング地図把握担当として戦闘用3D-AI海咲ちゃん。



離れた場所から無人階層探索ドローン操作役として防衛省ダンジョン対策支部局、麗水ちゃんも参加している。



ゼランを攫った張本人であるサキュバス・アイウェールはエルフの郷には入れないだろうと判断で不在。




「126層にもエルフの郷はなかったか。じゃあ下の階層へ」




127層への階段を降りている途中で――。





『――エルフの郷はこの階層にありそうね』



イルフェノの思念が炎の仮面冒険者の頭内に響いた。



『本当か?』

『――ええ。闇の精霊も【樹】と【光】の精霊の存在に気づいてるんじゃないかしら?』



今はどこの誰だか分からない都内病院勤務の女医さんの顔貌をしている闇の精霊――ベオスクリタも頷いた。



「やった……よぉぉぉしッ!!!」



『彼女』たちの返答に炎の仮面冒険者はこれで綾覇の命を救えると歓喜し、思わず声を上げてガッツポーズをした。



『――ただ気になるのはワタシ達、歓迎されるのかしら?』

「え?イルフェノは【樹】の精霊から世界樹には近づくなって言われたヤツ?」


『――それよりも【闇】の精霊を郷から追い出したっていう【光】よ』

「でもゼランは闇の精霊にエルフの郷に戻ってきて欲しいって」


『――森人ひとりの意志が郷の総意だとは思わない方がいいわよ。とにかくこの階層は今までとは違うから警戒して』

「わかった」



イルフェノの言葉から炎の仮面冒険者も警戒を強める。


ダンジョンの階段を降りきり、127層の光景が一同の視界に入る。




121層の紫に染まった昏い瘴気の森とは打って変わってまばゆい程、緑鮮やかな森が広がっていた。




『此処だッ!!!この森が私の故郷――森人の郷に違いないッ!!!』



エルフのゼランも確信を持ったようだ。



森の中も所々、光のカーテンのような木漏れ日が地面を照らし、視界がはっきりとしている。


鳥の囀りも心地良く、魔物の脅威とは無縁に思える階層だった。




「この階層なら気持ちよく森林浴できそう」



炎の仮面冒険者が雄大な自然美に感嘆しながら森の中を進んでいると――。



「うわッ!?」



目の前に【魔族】の亡骸が。



どうやら弓矢で撃ち抜かれたらしい。



「エルフも結構強いんだな」



ゼランはその魔族の亡骸を見て、首を横に振る。



『これは光の精霊の恩恵だ』

「そうなんだ。それでどっちに進めば森人の郷に辿り着けるかゼランはわかるのか?」



ゼランに郷への案内を頼もうとしていたその時だった――。




『――来たわ』




イルフェノは瞬時に自身を巨大化させパーティーを守るように炎の壁を創りあげ、闇の精霊ベオスクリタもダークエルフを守るべく巨大な漆黒の球体を変化した。



これまでは幻想的な木漏れ日を演出していた、樹々、葉々の隙間から光のナニかが超高速で飛んでくる。


それが矢だと認識するも、矢がイルフェノやベオスクリタに直撃する・迎撃される直前でなんと軌道が変わる。


光の矢が戻っていった先を視線で追うと、森の樹々の太幹の上に立っているエルフ達がいた。




「……なんか物騒なお出迎えされたみたいね」



これはひと悶着ありそうだと炎の仮面冒険者は溜め息をつく。



『―――――――――――――ッ!!』



エルフの集団を率いているリーダー的存在と思しきエルフが何かを伝えてきた。




『イルフェノ。あのエルフはなんて言ってるの?』

『――【光】の大精霊様とやらは【火】も【闇】もエルフの郷に引き入れるつもりはないみたいよ』

『マジか……アク禁かよ』





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