第4-17話 お化け屋敷はじめました
東京都臨海公園――。
すっかり日も暮れ、本来なら遊びに来た家族連れや学生グループ、そして【東京海底ダンジョン】から帰還した冒険者達も帰り始める時間帯だが、行列が出来ている。
彼らの目当ては臨海公園の空地部分に期間限定で誕生した
何故このお化け屋敷に脚光が集まっているかというと――。
≪炎の仮面冒険者がプロデュースしたお化け屋敷ってどんなんだろ?≫
≪なんか【友達とわーきゃーコース】【家族連れ団欒コース】【カップルラブラブこわこわコース】【おひとり様向け精霊と仲良くコース】とか色々コースを選べるらしいぞ≫
≪客層で変化するお化け屋敷とか初めてじゃね?≫
≪あの花魁サキュバスもいたって!≫
≪サキュバスに魅了されてぇ!!≫
≪サキュバスが原因で破局したカップルもいるらしいぞ≫
≪草。なんで彼女連れてった?≫
≪カップル
≪2人の愛が試されるお化け屋敷≫
≪でもなんで急にお化け屋敷始めたんだろ?≫
≪さあ?≫
と炎の仮面冒険者が何故か始めた期間限定お化け屋敷がまたもやSNSでバズっていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
――俺は冒険者ノゾム。学生冒険者だ。
どうしてもあの花魁姿のサキュバスを生で見てみたいピュアな男子高校生。
だけど【カップルラブラブこわこわコース】じゃないと見れないらしい。
だから助っ人を呼んだ。
「なんでこんなのが兄貴なんだろ?」
溜め息をついている少女は俺の双子の妹――ノゾミだ。
「兄貴の願いを叶えるのも妹の務めだろ?」
「まさかサキュバスに会う為に恋人のフリをしてくれなんて言われるとは思わなかったわ……」
「お前だって炎の仮面冒険者のお化け屋敷、行ってみたいって言ってただろ?」
「それはクラスの子達の間で話題になってたから……」
「お前が友達と遊ぶ為の小遣いをあげてるのは冒険者のお兄ちゃんだろ?」
「うう……」
日頃の行いが良いと妹は兄に逆らえないのだ。
「じゃあ入るぞ。すいません。【カップルラブラブこわこわコース】で!!」
そのホラーハウスに足を踏み入れた者を歓迎するのは漆黒の闇だった。
「やべぇ。真っ暗で何も見えん」「怖い……」
すると突然、蝋燭に火がつき、一直線の赤絨毯、そして赤絨毯の両端に蝋燭がずらりと並んだ一本道が闇の中に現れる。
「おお。すげぇ」「わぁ」
恐る恐る先に進もう者に近づいてくるのは炎の
「おおお。うわあああああ」「兄貴、ビビりすぎ。それでも冒険者?」
突然、目の前に垂直落下してくる炎の蜘蛛。
「きゃああああああ」「お前だってビビってるだろ?」
カボチャ頭の
「なんかハロウィンっぽい」
赤絨毯を歩き終えると炎の文字が現れる。
「なんだ?『これより風の精霊による闇中浮遊タイムです。どうか取り乱す事なく楽しんで』って。うおおおおおぉぉぉおおお!!!」
突然身体が重力から解放されたような感覚に陥る。
真っ暗闇の中での浮遊。
「お兄ちゃーん!!!」
最近は反抗期だけどたまに兄貴呼びからお兄ちゃん呼びになる妹、嫌いじゃない。
浮遊移動が終わった?と恐る恐る目を開けば、そこは臨海公園の上空だった。
ライトアップされた観覧車よりも高い位置に俺は浮かんでいた。
「ノゾミ。大丈夫か?」
「お兄ちゃん……」
「目を開けて見てみろ。凄いぞ」
「こわいよぉ……え?すご」
ノゾミも恐る恐る目を開くとその光景に感嘆した。
海の向こう岸には煌びやかに照らされた日本最大の
ビルやホテルの灯りには人々の営み、団欒が想像できる。
だが東京湾の夜景に感動していられるのも束の間。
今度はいつの間にか現れた井戸への落下が始まる。
「うぎゃあああああああ!!!」
井戸の底で減速し、事なきを得ると、今度は謎の黒髪の女が。
「諭吉がいちまーい。諭吉がにまーい」
怪談『皿屋敷』に登場する皿女・お菊ではなく、『脱サラスパチャ女オタク』が登場する。
「アナタも推しの沼にハマって借金地獄へ行きましょう~」
「危ない人きたあああああああ!!!!」「ノゾミ逃げるぞ!!」
その後も奇妙な幽霊やゾンビや家電?に追いつかれない程度に追いかけられたり、てんやわんやの末、出口に到達した。
「お前なんで途中で『私達、恋人じゃなくて兄妹です!サキュバスさんは結構です』とか言ったんだよ!?」
「あの綺麗な夜景を見た後に性癖晒す兄貴なんて見たくないわよ。絶縁考えるレベル」
「カップル
「こちら記念品の炎の猫のハーバリウムでーす」
着ぐるみのスタッフから渡された記念品にテンションが上がる妹。
「可愛い~。今日来て良かった!!!」
「まあ割と楽しいホラーハウスだったかな?」
妹の笑顔を見て満足した男子高校生ノゾムは家路についた。
『――闇の精霊の為とはいえ、こんな風に人間と戯れてていいのかしら?』
焔霊剣皇イルフェノは火の
「まあお化け屋敷の営業は夜限定で、昼間は階層攻略してるんだからいいんじゃね?」
炎の仮面冒険者も
今は臨海公園の上空で休憩中。
「東京の夜景も北海道に負けてないんじゃない?絶景絶景」
『――精霊に愛されし者よ。ワタシをこの夜空へ導いてくれた事、感謝する』
その思念の主はダークエルフを庇護し続けた闇の精霊――べオスクリタ。
赤子と変わらないサイズの漆黒の球体だったベオスクリタは東京湾の宵闇を喰らい、すっかり力を取り戻しつつあった。
もしかしたら誰かは最近東京湾の夜明けだけ1時間早い事に気づいているかもしれない。
「じゃあそろそろ本格的に探すか。エルフの郷」
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