第6話 校歌
まず、校歌がわかっていないとステップも何もない、ということで、
周東先輩の拍が非常に正確なのは聴いていてわかった。
岩成先輩の歌いかたも正確だし、声もきれい。
シンプルだけど、きれいな歌だと思う。
もしかすると、音域が広すぎるかも知れないけど。
岩成先輩が歌い終わると、周東先輩が
「ま、校歌覚えない生徒は山ほどいるけど、マーチングバンド部は校歌に合わせて演奏とか演技とかあるから、必ず覚えること」
と厳しく言うと、岩成先輩が
「それに、歌としていい歌だから、覚えたほうが得」
とやわらかく言い添えた。続けて、
「あと、
と、岩成先輩がさりげなくハードルを上げる。
次に、また岩成先輩が歌って、周東先輩がステップを実演して見せてくれた。
最初はバトンの演技つきで、そのあとは、ステップだけ。
そんなに複雑な歌じゃないから、ステップも簡単だろうと思っていたら、そうでもなかった。
メロディーは同じメロディーの繰り返しでも、振りはぜんぜん違う。
マーチングバンドは、マーチングで入場してきて、校歌と「セットの曲」二曲のあいだは、バンドは止まって演奏し、バトントワリングとカラーガードはそのバンドの前で演技する。
マーチしなくていいだけ、複雑なのだ、ということらしい。
岩成先輩と周東先輩で、四拍子四小節ずつ区切りながら、後輩に伝授してくれた。
最初は「適当に」と言っていたのに、
でも、バトンは、買ったばかりの
それでよかった。
そうじゃないと、バトンで演技をしないのは大里真茅だけ、ということになって、やっぱり真茅が肩身の狭い思いをするかも知れないから。
毛受愛沙が教えてもらっているのを見てわかったのはこの子のレベルの高さだった。
この校歌の演技は初歩的な技だけで組み立てられているけど、それでも、指先でバトンを操らないといけないような技も含まれていた。それを毛受愛沙は軽々とこなしていく。
毛受愛沙がレベルが低いのではない。
周東先輩の要求が高いのだ。
その要求の高さは、やがて順にも向けられてくる。
真茅にも。
でも、真茅はにこにこと笑って、気もちよく息を弾ませている。
これからの練習の厳しさが、わかっているのか、わかっていないのか、わからないけど。
周東先輩と岩成先輩は、今日はそれほど本格的な練習をしたいわけではなかったようだ。ただ、中学校にいた毛受愛沙が入部すると言って来たので、中学校とはレベルが違う、ということを認識させるために非公式に練習をしていたらしい。
でも、順と真茅が来た。
そして、真茅が、ステップだけとはいえ
「できれば最後まで覚えて帰りたいです」
などと言うので、練習は四時ごろまで続いた。
順も心地よく疲れた。
そして、切り替えた。
お母さんはきっと不機嫌に違いない、怒っているに違いないと思ったから。
でも、お母さんは機嫌がよかったので、いま順は頬をゆるめて自分の部屋にいる。
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