合宿1日目

 面接が終わり外にでるとすでにマイクロバスが待機していた。

「さあ、荷物はトランクルームに載せろ。載せたものからこのバスに乗れ」

 面接官をしていた斎藤に言われ乗り込む。

 車内は片側が1人シート、もう片側が2人シートだった。泉は2人シートの窓側に座り次に入ってきた涼香に隣に座るように促す。

「涼香ちゃんここ」

 しかし涼香は何も言わず別の一人シートに座る。バスの中は空いているのだから仕方ない。

「ここ座ってOK?」

 そこに後から入ってきたブロンドの美少女が泉に話しかけてきた。

「あっ、はい大丈夫です」

 泉が返答し終える前に彼女は隣に座った。

「全員乗り込んだな。では出発だ」

 最後に斎藤が乗り込み運転手にバスは出発した。


 バスが動き出してすぐレミーが話しかけてきた。

「わたし、レミー・ロビンソンよ」

 レミーはそう言いながら握手を求めてきたので泉も答える。

「私は村雲むらくもいずみ

「レミーちゃんってどこから来たの?」

「アメリカのテキサスね」

「テキサス!すごい!」

 わざわざテキサスからきたとは驚きである。

「なんでわざわざテキサスから?」

「ハッチャケシルバーと戦いに来たね」

「えっ、ハッチャケ戦隊見た事あるの!」

 ハッチャケシルバーとは緒方カレンが演じた役だその言葉を聞き泉も興奮する。

「イズミも好きなの?」

「私じゃなくて弟が好きなんだけどね、いいよね!」

「ダルジャンヌとの一対一の闘いは最高だったね!」

 泉とレミーの会話が盛り上がってると後ろから怒声が聞こえてきた。

「うるせーよ、遠足じゃねえんだよ!」

 後ろを振り向くと不良っぽい少女がこちらを睨みつけていた。レミーも睨み返す。

「同感ね、もう少し静かにしてほしいわ」

 一触即発しそうになりそうな時に割って入ったのは涼香である。

「ごめんなさい、レミーちゃんも静かにしておこう」

 これ以上、雰囲気が悪くならないよう泉が謝り、むくれてるレミーをなだめる。そこからは泉達も大人しくなりバスの中は静かになった。


「着いたぞ」

 バスに乗り込んで一時間、ようやく目的地にたどり着いたらしい。全員がバスから降り荷物を降ろすとそそくさとバスは去って行った。

 そこはさっきまでの都会とは違い木々に囲まれた自然豊かな山の中、すぐそばに大きな池がある。近くにコンビニ、スーパー、飲食店なども見当たらず。民家がちらほら見かける程度で泉の住んでいる場所よりはるかに田舎だった。。

「合宿先はこの階段を登った先だ」

 斎藤が指を指した先には長い階段があった。

「マジかよ……」

 参加者の一人がつぶやく。二次試験の面接に合格すればそのまま二泊三日の合宿をするとは聞いていたので参加者はそれなりに荷物を持ってきていた。中には大きいリュックとキャリーケースを持ってきてる人もいる。

「行くぞ」

 たじろぐ参加者達をよそに斎藤はさっさと階段を登っていく。しぶしぶ参加者達は各自の荷物を持ち上げながら長い階段を登っていく。

 15分ほどかけて階段の頂上にたどり着頃には、みなヒイヒイ言っている。一番元気そうなのはリュック一つの斎藤だった。

 階段の先には鳥居、広い境内けいだい、そして立派な寺が建っていた。

「全員揃ったか、それじゃついてこい」

 そう言って建物内に入っていき仏像が置かれてる本堂の部屋へとたどり着く。斎藤にそこで座って待つように言われ参加者達はすでに敷かれていた座布団の上に正座して待つ。

 しばらくすると斎藤が頭巾を被った尼僧と一緒に現れた。尼僧は高身長で小柄な斎藤とは対照的だ。二人が参加者達の前に立つと斎藤が話し始める。

「改めて挨拶させてもらう斎藤さいとうふみだ」

「ようこそ『闘龍寺とうりゅうじ』へ。私がこの寺の住職『恵安けいあん』です。今回の合宿でみなさまのお世話をさせてもらいます。みなさまがオーディションに合格されることを心から願ってます」

 そう言って手を合わせ一礼する。つられて参加者達も一礼する。

「では寺の中を案内しますのでこちらへ」

 そうして恵安の後を斎藤、その後を参加者達がぞろぞろとついていく。

 

 渡り廊下を渡り隣の建物に移動し御手洗い、風呂場、台所と案内してもらい最後に畳が敷き詰められた大広間の部屋だった。布団が10人分くらい敷けるほど広さ。

「今日から4日間この部屋で寝泊まりしてもらう。では早速、掃除してもらう」

 そう言って参加者は次々に割り当てられた場所の掃除を始める。

「今日はここまでだ明日から本格的に合宿に入る。夕食は広間だ」

 大広間に戻るとすでに食事が用意されておりすぐ食事が始まった。

 青椒肉絲チンジャオロースに肉じゃが、ナスと油揚げの味噌汁、ごはんは大盛で女性が食べるにしてはかなりのボリュームである。

「食事が終わった奴から風呂だ順番に入れ、時間は一人10分までだ」

 言われるがままに順番に風呂に入り大広間に戻ると布団が用意されていた。

 慌ただしく一日目が終わる。

「それじゃあ明日は6時に境内に集合だ、さっさと寝るように」

 そう言って斎藤は電気を消して去って行った。


「なんだか修学旅行みたい」

 布団に入ってからもウキウキが抜けない泉は隣で寝ている涼香に一方的に話しかける。

「明日からどんなレッスンするんだろう?ボイトレとかダンスレッスンとか楽しみだな」

「何わけのわからない事を言ってんのよ? プロレスラーのオーディションでそんな事するわけないじゃない」

「……⁉、今なんて言った」

「プロレスラーのオーディションでそんな事しないって言ってるのよ」

「えっ!プロレスーーーーーー!」

真夜中に泉の声が響き渡った。

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レディファイト! 丸尾智将 @kagekatsu1219

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