いざ!オーディション

「やっとついた」

 2時間ほど電車を乗り継ぎ目的のオーディション会場のある駅を降り立つ。さっそくスマホの地図アプリを開き面接会場の場所を調べ指示された方向へと向かい歩きだす。新宿や渋谷のような人がごったがえす場所を想像していてたが駅周辺は案外静かで人もややまばら、それでも泉が住んでる街に比べれば都会だが。

 途中立ち止まり地図アプリを確認しながら10分ほど歩き続けていると声をかけられた。

「すみません」

 振り返ると自分と同じくらいの年齢の少女が立っていた。

「この辺りにバーニングフレイムプロダクションって会社があるはずなんですが知りませんか?」

 聞き覚えのある単語を聞き驚く。

「ひょっとしてあなたもオーディション受けに来たの?」

「えっ、あなたもって事は……」

 互いに驚きあうがしばらくすると少女は品定めするかのように泉の全身を見回す。あまりにもジロジロと少女が見てくるので動揺してしまう。

「それじゃあ一緒に行きましょう」

「ええ、ありがとう」

 そう言って歩き始める泉に涼香がついていく。

「よかった面接とか初めてだから私ちょっと心細かったんだ。あっ私の名前は村雲泉、あなたは?」

和泉いずみ涼香すずか

「いずみ? すごい! 私の名前と一緒! 運命じゃない!?」

「そう?」

 少女はぶっきらぼうに返答する。

「じゃあ、ややこしいから下の名前で涼香ちゃんって呼んでいい?」

「どうぞご自由に」

「涼香ちゃんって歳いくつ?」

「15」

「ひょっとして中三?じゃあ私たち同い年だ」

「どこから来たの?わたしはK県」

「私は東京よ」

「いいな、じゃあ渋谷とか原宿とかよく遊びにいくんだ?」

「行ったことない」

 そっけない返事が返ってくる。

 それにしても涼香はとても美人だ。つやつやの黒髪ロング、透き通るような白い肌、端正な顔、長いまつ毛にクリっとした目、スタイルも良い。まさに絵にかいたような美少女。泉の通う中学校にはいないレベル。今まで出会ったことのある同年代では一番の美人だ。

 きっと彼女ならオーディションに受かるだろう。

「なに?」

 チラチラ横目で見てたのを気づかれて慌て返答する。

「いや、涼香ちゃんって美人だなって思って、今回のオーディションだった涼香ちゃんなら余裕で受かるだろうなと思って」

 それに比べて用紙は……彼女より勝ってる部分があるとすれば身長ぐらい、急に自信がなくなってきた。

「美人?そんな理由でオーディション受かるとは思えないけど」

「えっ?」

 そうこう話している内に会場のすぐそばまで到着する。

「たぶんここら辺が会場なはずなんだけど」

 アプリを確認しつつ辺りを見渡すと一枚の立て看板を見つける。近寄ってみてみるとそこには『バーニングフレイムプロダクション オーディション会場』と書かれていた。

「ここだ」

「よかった」

 恐る恐るドアを開けると受付に女性がおり彼女に尋ねる。

「あの私たちオーディションを受けにきたのですが……」

「こんにちは、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「村雲泉です」

「和泉涼香です」

「村雲さんと和泉さんですね。わかりました、ではこちらへどうぞ」

 受付の女性は用紙にチェックを入れ、立ち上がり奥に案内される。二人はその後に付いていく。そして控室と張り紙が張り付けられた扉をあけ中へ入るよう促される。部屋の中は塾のように黒板と教壇、そして長机と椅子が並んでおり、すでに数人の女の子が席に座っていた。

「空いている席に好きに座って」

 先に入っていった涼香が適当に空いている席に座り泉もその隣の席に座る。

 部屋の中は誰も喋る事もなく静寂が支配していた。すぐ近くに体育館があるのだろうか女性の掛け声が聞こえる。

 泉達より先に来てたのは3人ほどで自分たちよりも年上っぽい。社会人くらいの人もいる。特段と可愛い子はいない。ヤンキーみたいな金髪の子もいる。

 この中だとやはり涼香が飛び抜けて美人だ。

「ハーローー!!!」

 そんな事を考えてると満面の笑みで少女が大声で挨拶しながら部屋に入ってきた。泉よりも背も高く肉付きのいい体をしておりブロンドヘアに青色の瞳、美人。外国の方らしい。

「控室ではお静かに」

「ソーリー……」

 案内係の女性に注意され少し落ち込む表情を見せる。それで反省したと思えたが席に座る途中にいる他の参加者、一人一人に笑顔で挨拶をする。

「ハーイ」

 当然のように泉達にも挨拶をしてきたので泉も挨拶を返す。

「はーい」

「オー!」

 他の参加者が無反応の中で泉だけ反応した事がよかったのか泉の反対側の席に座る。そしてこちらを笑顔で見てくる。

(気に入られた? それにしてもこの娘も美人だな、涼香ちゃんとは違った魅力がある。胸とかすごく大きいし、やっぱり私じゃこのオーデイションに合格するのなんて無理そう)

 泉が勝手に落ち込んでいると再びドアを開けてさっきの案内係の女性がやってきた。

「それでは時間になりましたのでこれから面接を行います。面接室に案内しますので名前を呼ばれた方は私についてきてください。また、面接が終わった方はこの部屋に戻ってきてください。全員の面接が終わってからこの部屋で結果を発表させてもらいます。何か質問はありますか?」

 一人が手をあげる。

「荷物は?」

「財布とかの貴重品は自分で持っておいてください。それ以外の荷物は控室においてもらって結構です」

 それ以降、質問する人はいなかった。

「それではまず、いずみさん」

「はい!」

「はい!」

 泉と涼香が同時に返事し立ち上がる。

「和泉涼香さん」

「私です」

 周りからクスクスと笑い声が漏れた。泉は顔を真っ赤にして座る。

 涼香は呼ばれてから15分ぐらいして再び戻ってきた。そして次の子が呼ばれる。

「どうだった?」

 泉が涼香の耳元まで近寄ってで尋ねる。

「別に」

 そっけない返事が返ってくる。

 そしてその後も次々と面接に呼ばれて残すは泉だけになった。そして一番最後に呼ばれる。

「村雲泉さん」

「はい!」

 緊張で直立不動に立ち上がりロボットのように歩き始める。そして隣の部屋まで案内され入るようにうながされる。

 ガチガチに緊張しながらドアをノックする。

「どうぞ」

「失礼します」

 部屋の中にはロングヘアのいかにも仕事ができるキャリアウーマンといった感じの女性、その隣に4、50代くらいの中年女性が座っていた。

「どうぞ座って」

「あっ、はい」

 促されるまま中央に用意されてる椅子に座る。

「私が社長の松永アキラよ、よろしく。そしてこちらが副社長の斎藤よ」

 斎藤と呼ばれた女性が会釈すると泉もそれにあわせて会釈する。

「それじゃ名前、年齢、身長、体重を教えて」

「えっと、村雲泉です。15歳、身長165cm、体重は50kgです」

 松永は応募してきた時の資料を見ながら質問してくる。

「今まで格闘技や部活の経験は?」

「バレー部に入っていました」

「バレーはどのくらやってて、どれくらいの腕前なんだ?」

 斎藤が質問してくる。

「中学三年間やっていて今年の夏、引退しました。最後の夏は県大会ベスト4まではいきました」

「現在K県に住んでるようだけど」

「もし受かったら寮に住まわせてもらおうかと」

 寮がある事は募集要項にもあった。

「ご両親からは承諾はもらってるの?」

「はい」

「では特技やアピールポイントを教えてちょうだい」

(きた!特技、アピールポイント)

 聞かれるだろうと思って何日も前から必死に考えたが思いつかずみっちゃんに相談した結果

「バレーをします!」

 そういって泉は立ち上がり一人でボールもないのにレシーブからトス、アタックをした。斎藤は渋い顔をしたが社長の松永は笑ってくれた。

「面白いわね、それに中々のジャンプ力だわ」

「まあね」

 斎藤はそれとない返事をした。

「では今回、志望した動機は?」

「私、緒方カレンさんに憧れて、彼女みたいな人を勇気づける、励ませる人になりたいんです」

「私、3年前に母を亡くしたんです。その時、4歳だった弟の翔がひどく落ち込んでしまって……。私や家族も色々励ましてみたけど何にもできなくて……。でも彼女が出演してた『パワフル戦隊ハッチャケンジャー』を見て弟も元気を取り戻してくれたんです」

 松永も斎藤も黙って聞いてくれていた。

「だから私も彼女、緒方さんみたいに多くの人に元気を分け与える人になりたくて今回のオーディションに応募したんです!」

「あなたの気持ちはわかったわ!そうね私たちの仕事はファンの方に勇気や元気を与えらる仕事よ。もし仮に今回、落ちたとしてもあなたには今後、頑張ってほしいわ!」

「はい!」

 どうも松永の目元が少し潤んでいる気がする感動したらしい。

「それじゃあ、こちらからの質問は以上よ、あなたから質問は?」

「いえ特に……」

「わかりました。以上で面接は終了です。控室でお待ちください」

 部屋から退出しほっと一息つき元の席に座る。そして小声で涼香に話しかける。

「緊張した~」

 泉が面接を終え30分ぐらいして控室に松永が入ってきて教壇の前に立つ。

「お疲れ様でした。今回の面接の結果ですが……」

 少しだけためを作って

「全員合格よ。よってこのまま最終面接、合同合宿に参加してもらうわ」


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