レディファイト!

丸尾智将

次のヒロインは君だ!

「あづぃー」

「暑いねー」

「ほんと暑いねー」

 夏の暑い日差しの中、村雲むらくもいずみ波多野はたの瑞希みずき村岡むらおか千春ちはるの三人は同じ様な会話を繰り返しながらだらだらと汗をかきながら歩いていた。

 三人は幼稚園時代からの幼馴染で幼稚園、小学校、中学校とずっと同じで『いずみん』『みっちゃん』『ちーちゃん』と互いに呼び合う仲だ。

 今は夏休み真っ最中なのだが高校受験を控えた中学三年生の三人は模試を受けに学校へ登校していた。

「模試どうだった?」

 千春が尋ねる。

「全然ダメ、ちーちゃんは?」

 泉が答える。

「私もダメ、みっちゃんは?」

「ん~?そこそこかな」

「いいな、みっちゃんは頭がいいから。当然、城山じょうざんに行くんでしょ?」

 城山は県内一の進学校だが校内で常に上位の成績を修めてる瑞希にとっては城山も余裕だろうと泉は思っている。

「私は堂南かな、あそこの制服可愛いし」

 千春が答える。堂南は私立の女子高。学力は平均的だが制服が可愛いと人気だ。

「いづみんはどこの高校目指してるの?」

麻倉あさくらとか?あそこバレー強いし」

 麻倉は県内のバレーの強豪校の一つ。

 泉は中学三年間をバレー部に所属し全国には届かなかったものベスト4と好成績を残した。しかし同時に常に県大会に優勝し全国でも上位の成績を残す聖応せいおう中学とは力の差を痛感していた。 聖応は県外から優秀な選手を集めており、さらには海外からバレー留学生までいる。そして彼女達はエスカレーター式に聖応高校に進学する。

 麻倉も強いが全国大会に出場するのはやはり聖応だろう。バレーは好きだが高校に入っても続けるべきか、泉はずっと迷っていた。

「私も堂南かな……」

「やった!それじゃあいづみんとは高校も一緒だね」

 千春が泉に抱き着いてきた。


「ただいまー」

 大声で叫びながら玄関のドアを開け靴を脱ぎ捨てると急ぎ足で台所に向かう。そして冷蔵庫から麦茶を取り出しコップに注ぎ一気に飲み干す。

 そして「ぷはー」とまるでおっさんがビールを飲んだのような声をだし、一息つくと居間に向かう。

 居間の扇風機の前では弟のさとしが寝ていたが泉はその横に座るなり扇風機の向きを変え自分の方にあたるようにした。

「なにしてんだよ」

 寝ていたはずの智が起きて文句を言う。

「うるさいわね、あんたは一日中家にいたんだから私に譲って当然でしょ」

「こっちだって部活から帰ってきたばかりなんだよ」

 いつものように二人の喧嘩が始まりそうなところで祖母の百合ゆりが顔をだす。

「おかえり、泉ちゃん」

 智はふくれっ面で二階にある自分の部屋へと向かっていった。

「そうそう模試はどうだった?」

「あー、まあまあかな」

 適当にお茶を濁す返答をする。

「そういえば、泉ちゃん宛に封筒が届いてたわよ」

「封筒?」

 いづみの人間関係といえば家と学校くらいで自分宛に手紙を送る人なんて心当たりがない。そう思いながらも祖母から茶封筒を渡され差出人を見てみるとそこには『バーニングフレイムプロダクション』と書かれていた。

(バーニングフレイムプロダクション?ハテ?)

 名前を聞いても最初はピンとこなかったがしばらくしてある事を思い出し泉は慌てて二階の部屋へと駆け込んでいき部屋に入るなりもう一度、封筒の宛先を確認する。

 それは1か月前、たまたまSNSで見かけたオーディションの募集の広告。そこには弊社所属タレントとして雑誌で見かけるモデル『広瀬純』の写真があり、その横には「未来を拓く次のヒロインは君だ!」というキャッチコピー。

 ファッションに疎く、あまりモデルとか知らない泉でも彼女の名前と顔は知っており、ついつい軽い気持ちで応募してしまったのだ。

 そしてその会社の名前が確かバーニングフレイムプロダクションだったはずだ。

 しかし応募して時間が経つにつれ自分では無理だろうと思い徐々に忘れていった。

 いったん深呼吸をすると慎重に封筒を開け中から数枚の書類を取り出す。その一枚目の書類を緊張しながら確認する。


 この度は弊社、バーニングフレイムの新人オーディションに応募いただきありがとうございました。

 厳選な審査の結果、あなたは今回の一次審査に合格されました。

つきましては~


「合格……? 合格、やったーーーーーーー!!!!」

 喜びのあまり家中に響き渡る大きさの声で叫んでしまった。



 その日の晩、食卓にはいつものように家族全員が揃っていた。

 村雲むらくも家は父の隆史たかし、祖母の百合、中三の泉、中一の智、そして小3のかけるの5人家族である。

 以前は都心に住んではいたが3年前、母が病気で亡くなり父親一人で子供3人の面倒を見るのは大変だと祖母の住む田舎へと引っ越してきた。

「いただきます!」

 いつものように祖母が作ってくれた料理を食べ始めた時

「お父さん、話があるの聞いて!」

「なんだ急に」

父が驚いた表情を見せる。

「まさか彼氏ができたとか…」

「姉ちゃんに彼氏なんてできるわけないじゃん」

 弟の智が口をはさむ。

「それてっどういう事よ!」

 泉が異を唱える。

「まさか本当か…」

「いや、そうじゃなくて。私オーディション受けたいの」

 一旦ほっとした表情を見せる父だが再び驚きの表情に変わる。

 泉は席から立ちあがると父の所へ行き合格通知を見せる。

 そこには一週間後、本社で2次審査の面談があるので来てほしいと書かれていた。                     

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