第9話 可愛さ余って憎さ百倍

「痛いです!痛い痛い痛い!!いったああああい!!!!」

「力抜けよ!締めてるから痛てえんだよ」


湊が順子の肛門に瓶を挿入していた。

陰部にも瓶や鉄棒を入れて抜き挿ししてやったことがあったが、今度はもっと恥ずかしいことをしてやったらこのなかなかのリアクション。


勝手に裏切られたと思っている小倉も負けていない。

「てめえ、湊のツレの中村とヤっただろう」と因縁をつけ、「やってません」と言い張る順子を本気で殴る蹴る。

うめき声をあげて苦しみながらも否定する順子を「性根が座っている」と内心ほめながらも暴力の手は緩めない。


小倉や湊にとって、最初の頃はあんなに可愛く見え、その一挙手一投足が愛おしかった順子が今では憎たらしい存在だった。

裏切って警察に通報しようとしやがったし、湊は自分の部屋を乗っ取られた気分にすらなっている。


そして最近、宮野は出入りしている極東会系暴力団の上の人間から極東会の青年部『極青会』を作るように命令され、小倉・湊・渡邊はそこに加入させられていた。

事実上の暴力団準構成員にされたようなもので、事務所当番やこれまで宮野がもっぱらやっていた暴力団組員が経営する生花店の手伝いまでさせられて自由が奪われ、ムシャクシャした気持ちも順子にぶつけていたのだ。


また、宮野はこの年から始めたシンナー吸引により、もともとおかしかった頭がよりおかしくなり始めてもいた。


12月中旬、宮野らは嫌がる順子を後ろ手に縛りあげ、湊の部屋にあったキックボクシング練習用のキックマシーンに括り付け、人間サンドバックにした。

頭のおかしい奴はとんでもないことで創造性を発揮する。


その際、武田鉄矢の『声援』という80年代のヒット曲を歌っていたのだが、『がーんばれ、がーんばれ』という歌詞が自分たちのリンチに耐えるよう順子に声援を送っているようで悪趣味極まりない。

さらに趣味の悪いことにそれを順子にも歌わせていた。

後ろ手に縛られてノーガードの腹にミドルキックやボディーブローを食らってうめき声をあげて苦しみながらも順子は涙声で一緒に歌っていたという。

さんざん殴られ蹴られた後も縄をほどいてもらえず、小倉によって投げナイフの標的にされた。


もはやいじめどころじゃない拷問である。


監禁されてひどい目に遭わされていたことを通報する気が起きないほど痛めつける目的もあったが、それでも通報されるのではないかという気がしてなかなか解放する気にはなれない。


それでもいつまでも監禁するわけにいかない宮野は暴力団事務所に行った時、自分より犯罪に慣れている組員たちにどうすればよいか相談したことがある。

しかし組員は他人事で「恥ずかしい写真撮って脅せばいいだろ」とか言うだけで、頼りにならない。


その一方で宮野は自分たちが女子高生を生け捕りにして飼っていることを周囲に自慢してもいた。

「ナンパ?必要ねえよ、俺ら女監禁してんだ」とか言って他の不良を湊の部屋に何人か招いたこともあるし、中には性的虐待を順子に加えた者もいる。

車に乗せて仲間に自慢しに行ったこともあって、綾瀬の不良たちの間で順子は「カンキン女」と呼ばれて有名だった。


だが、「カンキン女」こと順子を実際に見た者によると「げっそりとしてうすぎたない女だった」という。

監禁生活が半ばを過ぎて心身共に限界に近づいていた頃のことだろうと思われる。

それにも関わらず誰も哀れな順子を救おうと通報する者はいなかった。


監禁を中止しようとしたりしなかったり、行き当たりばったりでありながらも監禁は続き、その間も順子はいじめ回されていた。

殴られ蹴られ、ジッポで再び足に火をつけられ、ウイスキーを一気飲みさせられ、陰部に異物を入れられ根性焼きされ、シンナーを吸わされ、乳首に針を刺され、汚物まで食べさせられた彼女は12月の後半の時点で精神が崩壊していたらしい。

むごい虐待に耐えかねて「殺して殺して」と哀願することすらあった。

食事も与えられなくなって、もともとスレンダーだった体はガリガリにやせ衰えてゆく。

顔も何百発も殴られたためにボコボコに腫れ、火傷の傷口も化膿して悪臭を放つようになる。


宮野はそれを嫌がって無責任にも家に寄り付かなくなり、小倉や湊、渡邊もどうするか具体的に決めかねていたが、この頃から「いっそ死んでくれねえか」という声が彼らの間でささやかれるようになっていた。








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