第8話 悪魔たちの理不尽な怒り

「ナメたことしやがって!このボケ!糞女!!」

「きゃ!!やめ…ごっ!ごめんな…ぶぅっ!!」


怒鳴り声で昼寝から覚めた小倉と湊が下へ降りてみると、宮野が順子を殴っていた。

それも男を殴るように胸倉をつかんでの顔面グーパンチだ。

何をやらかしたか知らんが、女の子相手にこんなことする?


ドン引きした小倉と湊だったが、宮野から順子がやらかしたことを聞くや、髪をつかんで同じように顔を殴っていた。


この女狐はこちらが居眠りしたすきに警察に電話してたというのだ。

家に帰してやるからしばらく待てって言ってただろうが!待てねえのか!

ていうか、警察に電話して俺らをどうする気だったんだ?

今までのフレンドリーな態度や愛想笑いはウソだったのだ。

ハンパじゃなく裏切られた気がしてムカつく!!


特に小倉の怒りはすさまじかった。

この気持ち悪い顔の男は性格がそれ以上に気持ち悪く、そのブサイク極まりないツラの分際で自分は女にモテると信じていたバカだ。

そして相手の都合お構いなしで自分の気持ちをごり押しし、相手がそれに十分応えてくれないとキレる。

こいつは自分が順子を好きだったように、順子も自分のことが当然好きだと思い込んでいたのだ。


俺をもてあそびやがって!


男三人に立て続けに殴られて、泣き始めた順子の顔面に小倉の手前勝手で理不尽な怒りの鉄拳が降り注ぐ。

つい最近彼女にフラれてムシャクシャしており、その分も含んでいる。


無理やりさらっておいて、それで相手が逃げようとしたらブチ切れるとはとんでもない奴らだ。


その最中に電話が鳴り、宮野がすぐさま出た。

宮野はこの時電話がなぜ鳴り、相手が誰なのかも分かっている感じだった。


「大変申し訳ありません。実はウチの妹があちこちにいたずら電話をかけておりまして。ええ…、注意はしていたのですが…、ハイ、その妹ですが、実は軽い知的障害がありまして…、いえいえとんでもないです。ご迷惑をおかけしたのはこちらの方ですから。大変失礼いたしました。ええ、その際はよろしくお願いします、では」


先ほど順子が110番した綾瀬署が逆探知でかけてきたのだ。

宮野はそれくらい予想していたし、どうごまかすかも即興で準備して鮮やかにやってのけたのである。


「起きろ!立て!ちょっとこっちに来い!」


さっきまでの口調とは打って変わった宮野は順子を二階の湊の部屋へ引っ張り込むと、そこで恐るべき折檻を加えた。

足首にジッポライターをかけて火をつけたのだ。


「ああああああ!!!熱い熱いあついいいいい~」


足首に火が付いた順子は手で必死に火を消そうとし、半狂乱になる。

火は消えたが、足首はひどいやけどを負い、部屋は皮膚が焦げた嫌な臭いが充満した。


「うううぅぅぅ~痛いい痛いいいい~」

「次やったらこんなもんじゃ済まさねえぞ!」

「すいません!すいません!もうしません~ううう~」


小倉も湊もこれはさすがにひどいと思ったが、それとは比べものにならないくらいやられた本人の順子はショックで頭の中が真っ白だったことだろう。

これ以降逃げようとするそぶりを見せなくなった。


そして順子に対する扱いもより容赦ないものへと変わる。

今までは彼らなりに丁重に扱ってきたつもりだったようだが、一挙に憎まれるようになってしまい、ボケにツッコミを入れるがごとく、本気で殴ったり蹴ったりするようになってきたのだ。


家に帰った時に今まで何をしていたかを言わせる予行演習をさせた時のことである。


「これまでどこにいたんだ?」

「渋谷でずっと遊んでいました」

「制服のままこんなに長いこと遊んでられるわけねえだろ!」


うまい答えが返ってこないと本気でぶん殴ったのだ。

「えと…えと…、ぐすん」とか詰まろうものなら蹴りを入れられて吹っ飛ばされる。


また普通にいじめるようにもなってきた。


「おいおい、5日に東中野で電車事故があったみてえだけど、あの事故でおまえのオヤジ死んだってよ、どう思う」

「悲しいです」

「ウソだよ」

「うれしいです」

「もうちょっとうれしそうな顔しろよ!」

(殴られる)

「う…うれしいです、生きててよかった~」

「いや、本当は死んだんだ」


バカげた小学生レベルのいじめだが、家族のもとに帰りたくて仕方がない順子に、父親のことをわざと話題にしていたぶっていたのであろう。

家族に会いたい気持ちを利用した陰湿な嫌がらせは延々続けられ、しまいに順子は涙声になって泣き始めていた。


宮野たちは最初のうち、いつか彼女を解放するつもりであったが、警察に通報されるかもしれないことを懸念したりして、「いつ帰そういつ帰そう」と思っているうちに監禁が延々つづくようになったようだ。

その間、孤立無援の順子はいじめられ続ける。

そしてその「いつか」は永遠に来なかった。

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