第2話 悪の巣窟になった子供部屋

1988年の秋、東京都足立区綾瀬にある湊家の二階子供部屋は悪の巣窟になっていた。

両親は共働きで帰りが遅く、高校を中退して家庭内暴力をふるうこの家の次男・湊伸治(16歳)に手が付けられなくなり、その部屋は聖域と化して不良少年のたまり場となっていたのだ。

湊伸治の兄・湊恒治(16歳)も高校に通っているとはいえろくでなしであり、その同級生で仲の良い不良の小倉譲(17歳)もやってくるようになる。


まだ10月までの時点では不良少年のたまり場であるとはいえ、この集団で纏まって組織的な悪さをするまでには至っていなかった。

状況が変わったのは10月上旬、湊の兄のバイクが盗まれたことから始まる。

バイクを取り戻して盗んだ奴から落とし前をつけさせようといきり立つ湊に小倉は自分の中学校の先輩である宮野裕史(18歳)を紹介。

宮野は小学校の時からグレており、綾瀬の不良の間では有名だった男である。

的屋系暴力団の極東組関口一家桜誠会の準構成員であり、十代でありながらさまざまな方面に顔が効いたのだ。


実際に顔を合わせた宮野は「オレに任せとけ」と頼もしい返事をしてくれたが、結局バイクが見つかることはなかった。

だが、宮野は頼りになる兄貴分で行動的であり、それ以降は小倉と湊をリードしていくことになる。

行動的に彼らを引っ張って何をしたのか?

犯罪に決まっている。


彼らは知りあってから一週間くらい後の10月中旬に早速始めたのは婦女暴行、行きずりの女性を襲っての強姦だ。

最初に襲った女性は湊がしくじって失敗したが、二回目は成功。

下校途中の女子高生を「道を教えてくれ」とか強引に車に乗せて拉致、ホテルで蹂躙した。

二人目はシンナーをやっている宮野の知り合いでもあるヤカラの女を犯し、三人目のキャバ嬢は自転車に乗って出勤しているところに立ちふさがりカギを奪うというこれまた強引な方法で半ば拉致同様に連れ去って、またもレイプを成功させた。


その後三人目のキャバ嬢に被害届を出されるという危機的状況があったが、あらかじめ宮野は小倉と湊と口裏合わせして「合意の上だった」という主張を展開。

警察がほぼ男社会で女性の性犯罪被害者への理解がほとんどなかった時代背景もあって、取り調べは形式的なものにとどまり、まんまと無罪放免を勝ち取った。


この一件で小倉と湊は宮野の鮮やかな手並みに感服。

ますます悪さに拍車がかかる。


婦女暴行と平行してひったくりも始め、10月25日は給料日だったこともあって四人から計12万円もの金をふんだくった。

衣料品店からの窃盗も行い、奪った衣類は山分けだ。


三件立て続けに婦女暴行を成功させた彼らだったが、当然満足はしていない。

さらなる獲物を求めるようになる。


そして首領の宮野にはかねてより狙っていた本命のターゲットがあった。

そのターゲットとは知り合いの一コ上の不良が見つけた女で、隣接する埼玉県八潮市の高校に通う女子高生である。

その不良はずっと彼女に付きまとってある程度の個人情報や行動パターンまで知るほどになっていながら結局あきらめたようだ。

しかし宮野はそいつからその話を聞いて興味津々になった。


そして品定めと、不良がつかんだ情報を基にこっそりとその女子高生を拝みに行ったとたん、そのアイドルばりの容姿にぞっこんになったらしい。


「あの女、ぜってー犯ってやる」


宮野はそう公言するようになったという。


そのターゲットとなってしまった女子高生とは何者か?

埼玉県立八潮南高校三年の古田順子だ。

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