第五話

 テレビでバラエティを見ていると、ある芸能人がベッドに入ってから何時間も眠れない、と話していた。

 雛壇の方々が驚いている中、司会がそういうときはどうしてるのかと訊くと、その人はユーチューブで焚き木の動画を見ていると自然と眠れるのだと言っていた。


 これだ。


「ねぇ、冬都ふゆと

「なに?」

「ユーチューブとか好きでしょ? 睡眠導入(?)みたいなの聴きながら寝てみたらいいんじゃない?」

「イヤホンしながらなんて眠れないよ」

「あんたしてなくても眠れないじゃない……」


 弟の部屋。

 横になった冬都の脇で、ふたりでスマホを見ていた。

「……どういう動画?」

「テレビの人は焚き木って言ってたよ」

「……火事の夢みそう」

 それはわかるかも、と頷きながら、動画をスクロールしていると、かわいいお姉さんが耳かきを持ったイラストのサムネイルが出てきた。

「これはどう?」

「なにこれ?」

「『お姉さんの耳かきで癒される』だって。30分くらいの動画だよ」

「……きいてみる」

 男の子め……。

「じゃあ、その動画終わるくらいまではねばりなさいよ」

 冬都はスマホに視線を向けたまま、小さく頷いた。



 あれ……?

 来ない。


 ほんとに来ない。

 かれこれ2時間くらいが経っている。

 スマホをいじりながら、いつ来るかなー、くらいに思ってたけど、今宵はほんとのほんとに来ない。


 2時間来なかった日は一度もなかったかも……。


 そういえば、あの動画、お姉さんに耳かきされるって……。


 ミスった。


 かわいいかわいい私だけの弟が、ネットの向こうの知らないお姉さんに盗られちゃう……!


 ——と、

 キィ……。


 来た——!


「ねえちゃん……」

 扉の方を見ると、いつも目をこすりながら来る冬都が、今日はちょっともじもじしながら、入ってきた。

「どうしたの?」

「なんかえっちなのでてきて、ねむれなくなった……」

 冬都のスマホの画面には、とんでもない大きさのおっぱいお姉さんがささやいているイラストが映っていた。

 男の子め……。


「耳かきの音聴いてたら、耳がむずむずする……」

 そう言いながら、冬都は小指を耳に突っ込んで、がしがしとこすりだした。

「ちょっと、そんな乱暴にやったら傷ついちゃうわよ」

「だって……」

「ほら、私がやったげるから、綿棒もっておいで」

「うん……」


 はい。

 あんたの姉は私しかいないと、たっぷり教え込んでやりました。

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28才OL、中学生の弟に抱き枕にされています。 氷川 晴名 @Kana_chisa

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