追放星人タケール、追放満月を見上げ怒りを追放せり

Shiromfly

追放星

 追放星は、広い異宇宙で追放されてきた多種多様な概念で出来上がっている。


 追放星に住まう追放星人の大半は、優秀な才能を持ちながらもパーティメンバーの理解不足と、しかしそれよりもずっと問題なコミュニケーション能力、または円滑な人間関係を構築しようとする意欲の欠如で、追放されて当然の隠れイキり系の主人公たちであり、それはお前がもっと歩み寄る姿勢を見せないからそうなるんだ、と言いたくなるような連中ばかりで、同様の理由で追放されてきたお嬢様系のヒロインたちと番を形成するのが基本的な生態だ。

 

 残りは組長の女房を寝取った若頭、人種的な問題で深堀りするのは躊躇われる特定の人々、そしてあとは全盛期のイギリスから送られてきたオーストラリア人である。

 たぶん船で移送中に転覆か何かして大海に放り出され、溺れて転生してきたのかもしれない。



 このように雑多な追放星人が暮らす追放星ではあるが、比較的高水準の社会構造とコミュニティが維持されている。そうでないと追放した時に追放し甲斐が無いし、追放された時のショックも物足りないからだ。


 彼らにとっては追放すること、されることがアイデンティティの根幹であり、むやみやたらとそこかしこで追放! というよりは、ここぞという決定的なタイミングで最高の追放! がキマることこそが至上の歓びなのである。



 そして、ここにもまた一人、追放されそうな追放星人が居た――。


「つ……追放よ!! 追放! 追放しちゃう!!」

「ま、まってくれカナーコ! そんないきなり……追放だけは勘弁してけろ!」


 妻に追放届を突き付けられたタケールは、追放物理学の権威だった。


 夢であった追放物理学の研究職につきはや二十年……幼いころより、特に物理学者や数学者の、見事なまでの追放されっぷりに魅了されて、この学問の道を志した。


 いつか自分もオッペンハイマーやチューリングといった追放されムーブの天才と肩を並べる――そんな小さな野望を、紫色のヨーヨーみたいな脳に秘め、日々、研究に勤しんでいたある日、いきなり妻から追放宣言を喰らってしまったのだ。


 ――俺は、こんな形で家族から追放されたいんじゃない! 学会から追放されたいんだ!!



―――――――――――――――


 そんなことは妻、カナーコにしたら知ったこっちゃない。


 息子は既に二歳。どうせなら私立の追放保育園に入れたいし、エスカレーター式の小中高一貫の私立校にも入れたい。


 子供には最上の追放を与えてあげたい。それまでは学歴のレールから追放されることなどあってはならないのだ。


 しかし夫は、そんなカナーコの、息子への愛情を追放どころか、受け入れてもくれなかった。


 これは大問題である。追放するからには一回ちゃんと受け入れないと追放は成立しない。夫であるタケールは研究に没頭するあまり、家族のことを鑑みてこなかったのである。


 そして結局、タケールは追放された。



「くそアマめ! この俺を追放するだと……! 何様のつもりだ。 見てろ……いつか俺様が! この手でッ! お前を追放しかえしてやる!!」


 タケールは、余所の星系から追放されてきた追放満月に向かって吼えた。


 今夜も追放街に、冷たい追放雨が降る。


 雲から追放された雨粒が大地へ落ち。

 大地から追放された雨水は湖や川へと追放され。

 川からも追放されて海に流れこみ。

 海から追放された追放蒸気はまた雲になり。


 そしてまた追放されて雨が降る。

 それが追放の輪廻なのである。

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