第3話 終焉


 夜の闇にけたたましい警報音が耳朶じだを赤く打ちはじめる。



遮断機が有無を言わさない圧力で眼前に下がり止まると、不意に思考がやんだ。



聴力もその機能を放棄するように、周囲の音はきえていく。



踏切を待つ遠巻きの人々が、何やら私へ叫んでいる。



私はそれを亡霊の眼差しで一瞥いちべつすると、

次第に明るく照らされる方向へ視線が奪われていく。



特急電車がこちらへ猛スピードで迫ってきている。



『プワアァァン‼』



音が聞こえなくなったこのむくろ



発せられる音の波動から受ける、骨肉が飛ばされるほどの衝撃。

目の眩むような強烈なライトに、網膜の繊維が焼き尽くされていく灼熱感。


夜の闇という恐怖をかき消し、

希望の光に似た未来を亡くす終焉しゅうえん

すべてを奪い去って欲しかった。



「美春‼︎」



 そのとき、時が止まったように聞こえた声。

声の方向、遮断機の向こう側にA子をみとめる。


A子、どうして?


「美春‼︎」


 もう、どうでもよかった。

今頃になって、もう、遅いよ。


私は、大粒の涙を流しながら、A子に最後の震える笑顔で迎えた。



『プワアァァァァァン‼』



 速度にして120km/h以上。

もう、間に合わない……



「「 美春 !!! 」」



 刹那の衝撃に、私の身体は強い力で弾き飛ばされた。



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