花山村の虹色祭

島原大知

本編

第1章「限界集落・花山村」


夏の日差しが容赦なく照りつける中、健太は花山村の中心を歩いていた。かつては賑わいを見せていた商店街も、シャッターを下ろした店が目立つ。時折、年老いた村人とすれ違うが、若者の姿はほとんど見当たらない。


健太は立ち止まり、空を見上げた。抜けるような青空に、ふと故郷の未来を重ねる。このままでは村に明日はないのではないか──そんな不安が脳裏をよぎった。


「おう、健太。何しとるんじゃ」


振り返ると、そこには佇む健太の祖父・良平の姿があった。深い皺が刻まれた顔に、人懐っこい笑みを浮かべている。


「じいちゃん。ちょっと村のことを考えとったんよ」


「村のこと?」


「うん。このままじゃ村が消えてまうんじゃないかって……」


良平は目を細め、しわがれた声で語り始めた。


「健太よ、わしゃな、村は人じゃと思うとる。人がおって初めて村は息づくんじゃ。じゃけえ、村を守るちゅうことは、そこに住む人を大切にするちゅうことよ」


「じいちゃん……」


良平の言葉を胸に刻みながら、健太は歩みを再び進めた。広がる田園風景を眺めつつ、ゆっくりと家路を辿る。夕日に染まるオレンジ色の空が、山あいに溶け込んでいく。


翌日、健太は村の集会所を訪れた。かつての賑わいを失った室内に、健太の声が木霊する。


「みなさん、花山村の伝統行事『虹色祭』を復活させませんか?」


集まった村人たちは、困惑した表情を浮かべる。おずおずと手を挙げたのは、健太の幼馴染・陽子だった。


「健太君、虹色祭を開催するのは難しいんじゃない?若い人がほとんどいないし……」


「うちも人手が足りんのじゃよ」


次々と反対意見が上がる中、健太は目を閉じた。祖父・良平の言葉が脳裏に浮かぶ。


(村は人だ。人がいて初めて村は息づく)


「みんなの協力があれば、必ずできる。今こそ虹色祭で村に活気を取り戻すときだ!オラに付いてきてくれ!」


健太の熱意溢れる訴えに、村人たちの表情が少しずつ和らいでいく。陽子も健太に微笑みかけた。


「健太君がそこまで言うなら、私も手伝うわ」


「おお、ありがとう!」


健太は力強く頷いた。村を想う彼の瞳は、希望に満ちている。


その夜、健太は興奮冷めやらぬ様子で家族に虹色祭復活の報告をした。両親は快く賛同してくれたが、良平だけは複雑な表情を浮かべている。


「健太よ、村は簡単には変わらんぞ」


「じいちゃん……」


良平の言葉が、健太の脳裏に重く響いた。簡単には変わらない──health太自身、そのことは分かっているつもりだった。


村を想う気持ちと、変わらない現実への不安。そのどちらもが、健太の胸の内で渦巻いている。


翌朝、いつものように村を歩く健太の前に、見知らぬ女性が現れた。都会的な雰囲気を纏う彼女は、迷いながらも健太に話しかけてくる。


「すみません、『佐藤』と書かれた古民家をご存知ないですか?」


「ああ、佐藤さんの家なら村はずれにありますよ。都会から越してこられた方ですか?」


女性は驚いたように目を見開き、すぐにはにかんだ笑顔を見せた。


「はい、アーティストの佐藤美咲と申します。こちらで制作活動を行う予定なんです」


「そうですか。花山村にようこそ。オラは鳴海健太。何かあったら力になりますよ」


健太は村の案内を申し出た。初めての出会いに、健太の中に新しい風が吹いた気がした。


<章終わり>

第2章「移住者たちとの軋轢」


美咲の移住から数日後、健太は村の広場で不思議な光景を目にした。色とりどりの布が風になびき、まるで虹が地上に舞い降りたかのようだ。近づいてみると、美咲が真っ白なキャンバスに向かって絵筆を走らせていた。


「佐藤さん、これは?」


「ああ、鳴海さん。私の新作なんです。花山村の自然の美しさを表現したくて」


美咲の瞳は輝きに満ちている。健太にはその情熱が、どこか異質に感じられた。


「村の役場の許可は取ったんですか?」


「いえ、そんな必要あるんですか?芸術は自由であるべきだと思うんです」


美咲の言葉に、健太は眉をひそめた。村には村のルールがある。健太はそう伝えようとしたが、美咲はもう制作に没頭していた。溜息をついて、健太はその場を後にした。


広場を離れ、川沿いの道を歩く。両岸に広がるのは、緑豊かな田園風景だ。穏やかな水の流れが、健太の心を少しだけ和ませる。


そんな時、1台の車が健太の横で停止した。見慣れぬ都会仕様の車だ。


「すんません、『村上』の家ってどこですかね?」


助手席から身を乗り出してきたのは、茶髪の青年だった。


「ああ、村上さんの家なら、この先の橋を渡って左です」


「サンキュー。……ってもういいや。めんどくせぇ」


青年はそう言うと、助手席に深々と座り込んだ。その態度に、健太は思わず口を挟む。


「村上さんとこの御嬢さんが、都会から引っ越してくるって聞いてますが……」


「あ?ああ、オレが村上だよ。翔太」


「え!?」


予想外の展開に、健太は目を丸くした。村の期待を一身に背負う村上家の跡取りが、この無気力な青年だったとは。


「引っ越しって言っても、実家サイドの一方的な話だからなぁ。オレは別に来たくなかったんだけど」


翔太のだらけた口調が、健太の心に棘のように突き刺さる。


「せっかく村に来たんです。村の役に立つことを考えてみては?」


「役に立つ?冗談きついわ〜。そんなことより、飯でも食いに行こうぜ」


そう言って車を発進させる翔太。健太は呆然と、遠ざかる車影を見つめるしかなかった。


(ああいうやつが村を良くしようなんて思うわけない……)


諦観が健太の脳裏をよぎる。虹色祭の復活を目指す健太にとって、美咲も翔太も「異物」としか思えなかった。


村の伝統を重んじる健太。自由奔放な美咲。無気力な翔太。

三者三様の価値観が、すれ違いを生んでいく。


その日の夕暮れ時、健太は川沿いのベンチに腰掛けていた。冷えた風が頬をかすめる。頭上を見上げれば、星空が広がっている。


「あの、すみません……」


ふと、女性の声が聞こえた。振り返ると、そこには幼い娘の手を引いた、眼鏡をかけた女性が立っていた。


「こんな時間に、どうかされましたか?」


「実は、子供が熱を出してしまって……。診療所、ご存知ないですか?」


女性の声は震えている。娘の額に手を当てれば、熱を帯びているのが分かった。


「すぐ近くにあります。案内しますよ」


健太は二人を診療所まで送り、ほっと一息ついた。


「ありがとうございました。小林由佳と申します。娘の咲希と一緒に、先日村に引っ越してきたばかりで……」


そう言って由佳は頭を下げた。シングルマザーで村に移り住んだことを告白する彼女の言葉に、健太は胸が締め付けられる思いだった。


「小林さん、これからは村民みんなで助け合っていきましょう。オラも力になりますから」


由佳の瞳に、再び光が灯ったように感じられた。


村を思う健太の心は、新たな住民との出会いで揺れ動いている。伝統を守ることと、移住者を受け入れること。相反する思いに葛藤しながらも、健太は前を向こうとしていた。


<章終わり>


第3章「心を通わせる仲間たち」


虹色祭まであとわずか。健太は毎日のように村を駆け回り、準備に追われていた。


ある日の午後、健太は美咲を訪ねた。アトリエの扉を開ければ、そこには床に倒れ込む美咲の姿があった。


「佐藤さん!大丈夫ですか!?」


健太は駆け寄り、美咲を抱き起こす。美咲は弱々しく微笑んだ。


「ごめんなさい……。artwork に夢中になりすぎて……」


ぐったりとした美咲を見つめながら、健太は複雑な思いに囚われていた。


(オラにとって異質に見えた佐藤さんの情熱。それって、オラが村を想う気持ちと同じなのかもしれない……)


その瞬間、健太の胸に熱いものが込み上げてきた。佐藤の覚悟を、健太は初めて理解したのだ。


「佐藤さん。虹色祭、一緒に成功させましょう」


美咲の目に、涙が浮かんだ。


「ありがとうございます、鳴海さん」


二人の握手が、新たな絆の始まりを告げていた。


虹色祭の準備が佳境に入ったある日、健太は様子のおかしい翔太を見かけた。いつもの無気力な様子とは違い、どこか生き生きとした表情を浮かべている。


「村上、どうしたんだ?」


「ん?ああ、畑仕事、意外と面白いな」


そう言って豆を摘む姿は、まるで別人のようだ。健太は思わず頬が緩んだ。


「よかったら、虹色祭の準備も手伝ってくれないか?」


「……ああ、いいよ。やってやるよ」


翔太の言葉に、健太は歓喜の声を上げた。


移住者たちとの交流を重ねるうちに、健太の心は少しずつ変化していった。彼らもまた、村の一員なのだと。


「小林さん、咲希ちゃんの具合はどうですか?」


ベンチに座る由佳に、健太は優しく語りかける。川のせせらぎが、二人の会話に寄り添うようだ。


「咲希も元気になりました。健太さんのおかげです」


「いえ、当たり前のことをしただけで……」


そう言いながらも健太は、由佳と咲希を案じずにはいられなかった。シングルマザーとして、村で生きていくのは容易ではないだろう。


「小林さん。もしよければ、虹色祭のお手伝いをお願いできませんか?」


「虹色祭……ですか?」


「はい。みんなで村を盛り上げたいんです。小林さんの力も借りたくて……」


健太の真摯な眼差しに、由佳は小さく頷いた。


「私にできることがあれば、喜んでお手伝いします」


二人の視線が合う。言葉にならない感謝の気持ちが、そこに満ちていた。


虹色祭の前日。健太は美咲、翔太、由佳を集め、作戦会議を開いた。かつての廃校になった校舎を借りての会議だ。


「みんな、明日は虹色祭当日だ。オラは、この祭りを通して村に活気を取り戻したい。みんなの力を借りたい!」


「鳴海さん、私はアート作品で村を彩ります!」


「オレは神輿かついだり、屋台の手伝いするよ」


「私は子供たちの面倒を見ます。お神輿に参加できるよう、見守ります」


一人一人が役割を口にする。その瞳は希望に満ちている。


健太は胸が熱くなるのを感じた。移住者も、村人も関係ない。みんな花山村の未来を想っている仲間なのだ。


「みんな……。ありがとう!」


健太の言葉に、全員が笑顔で応えた。


夕日が窓から差し込み、教室は橙色に染まる。かつての教室に、再び命が吹き込まれたようだった。


その夜、健太は星空を見上げていた。満天の星が、村を優しく照らしている。

祖父・良平の言葉が、ふと脳裏をよぎった。


(健太よ、村は人じゃ。一人一人が手を取り合って、初めて村は輝くんじゃよ)


健太は静かに目を閉じた。移住者たちとの絆を実感しながら、虹色祭への思いを新たにしている。


明日は、新しい村の歴史の幕開けだ。健太は心の中で誓った。


<章終わり>


第4章「虹色祭の危機」


虹色祭当日。健太は朝日を浴びながら、村の広場へと向かう。洗濯物を干す主婦の姿、三々五々集まり始める村人たち。いつもの風景に、祭りへの期待が滲んでいる。


「よし、みんな集まってくれ!」


健太の呼びかけに、美咲、翔太、由佳が駆け寄ってきた。健太は笑顔で頷くと、気合を入れるように拳を握った。


「今日は虹色祭本番だ。みんなの力を合わせて、必ず成功させよう!」


「おー!」


4人の声が、澄み渡る青空に響き渡った。


美咲はアート作品の展示ブースの準備に取り掛かる。鮮やかな色彩が広場に彩りを添える。

翔太は神輿の組み立てを手伝う。以前とは打って変わって、真剣な表情だ。

由佳は子供たちの世話を焼きながら、屋台の手伝いをしている。


時刻は刻一刻と過ぎていく。だが、広場に人の姿はまばらだ。


(どうして、誰も来ないんだ……?)


焦燥が健太の心を支配し始める。みんなで準備を進めてきたのに、このままでは台無しだ。


不安に押しつぶされそうになる健太を、美咲が支えた。


「鳴海さん、まだ諦めるのは早いですよ。私たちが声を上げれば、きっと……」


その時、会場を強風が吹き抜けた。美咲のアート作品が、風に煽られて倒れてしまう。


「きゃっ!」


美咲の悲鳴が、虹色祭の危機を告げていた。


倒れた作品を前に、美咲は膝から崩れ落ちた。健太は言葉を失う。


(オラのせいだ。こんな状況になったのは、全部オラのせいなんだ……)


健太の脳裏に、祖父・良平の言葉がよぎる。


(健太よ、村は簡単には変わらんぞ)


変わらない現実。頑なまでに守ろうとした伝統。健太のビジョンは、砂上の楼閣に過ぎなかったのか。


「鳴海……オレに考えがある」


沈黙を破ったのは、翔太だった。健太が顔を上げると、翔太は真剣な眼差しを向けてくる。


「よそ者が村を良くしようなんて思わないって、オレ自身がそうだったからハッキリ分かる。だから、村の人が村のことを知るきっかけを作ればいいんだ」


「村の人が、村のことを……?」


「そう。オレたちによそ者が、村人に虹色祭の良さを伝えるんだ。一緒に村を盛り上げるって、声を掛けるんだよ」


翔太の言葉に、健太の心に光が差した。


「……そうだ。オラたちが一丸となって、虹色祭を成功させるんだ!」


健太の力強い声に、美咲と由佳も顔を上げる。


「私も、村の人に自分のアートを見てもらいたい。そのためなら、もう一度作品を作り直します!」


「私からも、お母さんたちに声を掛けましょう。子供たちに笑顔を届けたいんです」


再び、4人の意思が一つになった瞬間だった。


健太たちは手分けをして、村中に呼びかけを始める。疲れ知らずで村を駆け回る健太。アートの魅力を伝える美咲。一生懸命に働く翔太。子供たちの笑顔を引き出す由佳。


夕暮れが迫る頃、広場に人だかりができ始めた。村人たちが、虹色祭に引き寄せられるように集まってくる。


「こんなに沢山の人が……!」


健太の目に、涙が浮かんだ。美咲、翔太、由佳も感極まった様子だ。


虹色祭の幕が、ようやく上がろうとしていた。


広場に夕日が差し込み、空は鮮やかなオレンジ色に染まる。

人々の喧騒が、いつもの風景に新しい彩りを加えていた。

健太は目を閉じ、心の中で呟いた。


(じいちゃん、オラ、やっと分かったよ。村を変えるには、一人一人の思いを結集するしかないんだって)


夕焼けの中、健太は仲間たちと力強く抱き合った。彼らの絆が、新しい村の礎となることを確信しながら。


<章終わり>


第5章「新しい絆」


夜空に花火が打ち上がり、虹色の光が村を照らす。歓声が広場に響き渡り、人々は歓喜に湧いていた。


「健太、よくやったな」


そこに、祖父の良平が現れた。その目には、孫への誇らしげな光が宿っている。


「じいちゃん……」


健太は良平に駆け寄り、力強く抱きしめた。良平も、健太の背中をそっと撫でる。


「村を思う気持ちは、お前と同じじゃった。じいちゃんも、若い頃は伝統を守ろうと必死じゃったが、大事なのは人と人との絆じゃと気付いたんじゃ」


良平の言葉に、健太の目から涙がこぼれた。守るべきは伝統だけではない。今を生きる人々の思いを繋げていくこと。それこそが、村の未来を創る鍵だったのだ。


「ありがとう、じいちゃん。オラ、これからも村のために頑張るけん」


「ああ、そうじゃな。みんなと一緒に、花山村を盛り上げていってくれ」


二人の絆が、花火の光に照らされて輝いた。


「鳴海さん、素晴らしい祭りでした!」


美咲が駆け寄ってくる。その髪飾りには、色とりどりの花が添えられている。


「これも、佐藤さんたちの力あってこそだ。本当にありがとう」


健太の言葉に、美咲は目を細めた。


「いいえ、私も鳴海さんに教えてもらったんです。自分の思いを形にすることの大切さを」


二人の視線が合う。芸術と伝統。異なる世界に生きていた二人だが、思いは同じだった。


「あー疲れた。けど、いい祭りだったな」


苦笑しながら翔太が現れる。その表情は充実感に満ちている。


「ああ。最初は反発し合ってたけど、今じゃ仲間だからな」


健太が翔太の肩を叩く。翔太も照れくさそうに頷いた。


「オレ、働くの嫌いじゃなかったんだな。役に立ってる実感が、心地いいや」


ぎこちない言葉の端々に、翔太の変化が滲んでいた。


「ママー!」


一際高い声が、4人の注意を引いた。由佳が、娘の咲希を抱き上げている。


「みんなが支えてくれたおかげで、最高の思い出ができました」


由佳の目には、涙が光っている。


「これからは、オラたちが小林さんたちを支える番だ」


健太の言葉に、由佳は小さく頷いた。


4人は肩を寄せ合い、夜空を見上げる。打ち上がる花火が、彼らの顔を鮮やかに照らし出していた。


「虹色祭を、村の新しい伝統に……?」


村長の申し出に、健太は目を丸くした。


「何を隠そう、うちの村はこの祭りで持ち直したようなもんじゃからな。若い衆が育ててくれた新しい文化を、村の宝にしたいんじゃ」


村長の言葉に、健太は感涙を堪えられなかった。美咲、翔太、由佳も、喜びに瞳を輝かせている。


「オラたちの思い、ちゃんと届いたんだね」


美咲がつぶやく。健太は力強く頷いた。


「ああ。でも、これはゴールじゃない。むしろスタートだ。オラたちが守り、育てていく伝統になるんだから」


仲間たちの手が、健太の手の上に重なる。village役場の窓から、朝日が差し込んできた。


「よし、これからも一緒に頑張ろう!」


「おー!」


4人の歓声が、村の未来を明るく照らしていた。


花山村に、新しい風が吹き始める。


かつての賑わいを取り戻した商店街を、健太がゆっくりと歩く。店先では、村人と移住者が笑顔で会話を交わしている。


広場では、美咲と子供たちがアート教室を開いていた。翔太は、村の農作業を手伝っている。由佳と咲希は、公園で他の親子と交流している。


健太は満足げに頬を緩めた。移住者を受け入れ、共に歩んでいく。花山村は、確かに変わり始めている。


村はずれの小高い丘に、健太はひとり佇んでいた。満開の桜が、淡いピンク色の絨毯を敷き詰めている。


ここは健太が幼い頃から、祖父の良平と馴染みの場所だった。


「じいちゃん、オラ、迷わずに歩いていけそうだよ。仲間と一緒にな」


健太の呟きに、風が優しく応える。桜吹雪が、健太の頬を撫でていった。


遠くに、虹が掛かっていた。七色の光が、花山村の新しい時代を祝福しているようだった。


健太は桜に手を添え、目を閉じた。胸の内で、新しい誓いを立てる。


(オラの代で途絶えかけた伝統を、次の世代にしっかり繋いでいく)


風が健太の髪をなびかせる。桜が、その決意を優しく包み込むように舞い散っていた。


「よし、行くか」


健太は力強く呟くと、丘を下っていった。待つ仲間たちの下へ、花山村の輝ける未来へと。

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