チート鬱
流子
チートなはずなのに!
なんか真っ暗な所から、突然明るい所に投げ出されて。俺は驚いて、アー!なんて大声で泣いちゃって。
「赤子の泣き声と共に、祝福の鐘が鳴っている!この子は神に祝福されし、強大な魔力を授けられた子である!」
なんかそんな厳かな声が聞こえた、気がする。
――まぁ、今じゃそんなこと薄っすらとしか覚えてないんだけど。
タカミネ(14歳)、マギアクル学園の2年生。
14歳で、生まれた時のこと覚えてるってスゴくね?それどころか、前世のことすら覚えてるってスゴすぎね??
生まれた時のなんかボヤボヤした光景より、前世の方がはっきり覚えてる。
魔法とかがある今世と違って、そんなのが無い地球の日本てとこの割と都会に生まれ育った。
本とか全く読まず、教科書もろくに読んだこと無いかも。でも赤点はとりあえず回避してたし、いっかーなんて思って過ごしてた。
それで大人になっても、のらりくらりと要領よく生きてた。
そんな感じだったけど、動画サイトはよく見てたから、今が前世の記憶持ちで俺TUEEEEてヤツだってことは分かる。
好きなVTuberがそんなような事言ってた気がするし。
前世の記憶あるんだし、前世以上にテキトーに過ごしてもイケるんじゃね?て思ってた。
ナーサリースクール(保育園)やエレメンタリースクール(小学校)にいた時は
「タカミネくんは魔力量がとっても多くて凄いね~!」
なんて毎日のように先生やクラスメイトから褒められてた。
初級魔法の授業でも
「今は上手くできなくても大丈夫だよ!タカミネくんは魔力量が膨大だから、なんてことないさ!」
とか言って、できなくても褒められた。
できないのに褒められるとか、何だよ。
そう思いながらも、褒められること自体は嬉しかった。
まぁ?俺は?魔力量が?世界一多いですし??
あの頃はそうやって純粋に喜べた。
「初級魔法の授業とかダル~」
「初級魔法とかエレメンタリースクールまででしょ」
教室でクラスメイトがぶつくさ言ってるのがそこらじゅうから聞こえる。
俺は冷や汗を垂らしながら聞いていた。
「タカミネも上級魔法とかやりたいよな?」
「ばっか!タカミネだったら上級魔法も簡単すぎるだろ!」
「え~じゃあ超上級魔法とか?」
「でもそんなの習えるの、スゲー頭いい大学とかじゃね?」
「タカミネやべ~~」
クラスメイトが口々に言う。
やめてくれ、やめてくれ!
「じゃあ今日はこの初級魔法をやってみましょう!みんな1列に並んで、順番にやってみてください!」
俺が頭をぐるぐるさせてる間に始まってしまった授業。
みんな軽々成功させていく。
だけど俺の2個前のヤツが失敗した。
「うーん、これは補習が必要かな。放課後、教室に残っているように」
俺が言われた訳では無いのに、心臓がバクバクする。
「じゃあ次、タカミネくん!」
みんなの目が俺に集まる。
荒い息をなんとか整えて、呪文を唱える。
ポシュ、と気の抜けた音がして、魔法は上手く発動されなかった。
ああ、またやってしまった。
すみません、と言おうとした所でかぶせるように先生が言う。
「タカミネくんは魔力量が多いから大丈夫!」
じゃあ次の人、と先生は俺の前を通り過ぎる。
タカミネすげーもんな、なんて皆がコソコソ言ってる。
何が大丈夫なんだよ。
何がすげえんだよ。
できてないのに。
タカミネくんは魔力量が多いから、将来は国家魔道士だね!
先生も親もみんなそう言う。
国家魔道士って、超上級魔法を簡単にできなきゃなれないよな?
俺は、初級魔法すらできないのに。
魔力量が多いから、魔力量が多いから。みんなそう言うけど、使えなきゃ意味無いだろ。
前世は魔法なんか無かったから、前世の知識があったって役に立たない。
みんなができる事くらいはできるように、本だって教科書だってたくさん読んだ。
前世で大してやらなかった勉強も、今世は頑張ってる。
なのに、できない。
できないのに、みんなは俺を持ち上げる。
「タカミネくんは大丈夫」
何も大丈夫じゃない。
何もできない。
何も。
「こんな平凡な家から、あんなに魔力量の多い子が生まれるなんて!神様とタカミネに感謝しないと!」
生まれてきてごめんなさい。
チート鬱 流子 @ainoruko
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