第9話 エルドランは忌み嫌われている

 Side:イライザ


「たんけんー♪ はっけーん♪ ミューの森~♪」

「イラつく歌だな」


 森に入り、すでに五日が過ぎている。

 元斥候が二人に、勘のいいオレ様のお陰で大方の魔物はうまくやり過ごすことができていたが、大した発見はない。


「いいじゃないですか。私は好きですよ」

「うんうん」


 牛族のユウとドライアドのアレクサンドラは気が長く、基本のんびりしている。

 成果がない日が続くのに、ミューの間抜けな歌に合わせている余裕があった。

 だがオレはなにもかもがイラつき、納得いっていない。

  

「隊長、そろそろ北へ転進しましょう」

「わかったニャ」


 またアイツキリコの進言。

 いくら上官といえどもエラドリン裏切者のくせに副長とは厚かましい。

 大佐も彼女を重用せず伝令をやらせていたくらいだ。


「ミュー、まだ直進するべきだ」


 隊列が再び止まる。


「イライザ、この先は谷です。地形的には迂回して北を探すべきです」


 これ以上ヤツに従っていたら何も得られない。


「少尉さんよ、自信がおありで?」

「イライザ軍曹やめて!」


「皆もどっかで思っているんじゃないか? またエラドリンに嘘を吐かれて裏切られる、ってな」

「いい加減にするニャ!」


「「……」」


 オレたち獣人は奴らの裏切りで絶滅寸前にまで追い詰められた。

 未だに奴隷として飼われている仲間たちも多い。

 全部コイツエルドランのせいだ。


「私情を挟むのはよしてください。何度も言っていますが資源の発見が最優先です」

「偉そうに。……お前らはどっちの味方だ? オレ様か、裏切り者か」


 他の三人には悪いが、ここいらではっきりさせたい。

 オレはこいつと同じ空気を吸うのも嫌だ。


 当たり散らしている自覚はあるが、止められねぇ。


「北へ転進するニャ」

「は、はい」

「……」


「……そうかい。オレは勝手にさせてもらうぜ」


 虎は群れない種族だ。

 弱者に従う筋はねえ。


「イライザ軍曹! 今すぐ戻りなさい! 命令に背くのですか」


 雑音は無視し、オレは谷へと降りて行った。


 


 半日も降りると谷底についた。

 どんな魔物がでようがオレの敵じゃない。


「?!」


 二度ほど目をこする。


 川べりの崖に人が通れそうな横穴が空いていが、裸の女の姿がみえた気がした。

 こっそり、洞窟に近づく。元から陽が届かないうえに、日が沈むと急に真っ暗になった。


 水の流れる音、他は獣の鳴き声。

 夜目があるため、問題なく視える。



 洞窟はさらに静かだった。

 ひんやりと冷たく、岩が濡れている。

 分岐をいくつか過ぎると行き止まりになってしまった。




「虎がなんのようだ?」

「!」


 岩の隙間に隠れていたのか、わらわらと女たちが出てきた。


「ラミアか!」


 足音が一切しなかったのはラミア蛇女だったからか。

 今頃気が付いたが完全に囲まれている。


「他の奴はどこに隠れている?」

「他? オレひとりだぜ」


「ははは! ひとりだと? ならば子供たちの贄に丁度良い。皆の者、虎を捕えよ!」


 何十匹のラミアが迫って来る。

 身体強化を使って近いヤツからぶん殴る。


「くそっ!」


 殴ったそばから次の奴に掴まれ、振りほどく。

 髪が絡み、締め付けられる。

 首筋にチクリと痛みが走った。


「毒かっ!」


 目が回り、力が入らない。

 その後も数か所噛まれ、あっという間に気を失った。

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