第44話 乙女ゲー的攻略法2

「サンドイッチってなんですか?」

 メイドの誰かが言った。サンドイッチを作りましょう、と言ったところでこれだ。ここでなろう的な、いわゆる原住民に文明を施するみたいなムーブしなくても、と私は思ったものだ。だって、サンドイッチではとてつもなくショボい。

 とは言っても、サンドイッチはやめ!なんて無駄なことはしない。そんなところで意地になってもしょうがないから。

 私はサンドイッチの作り方を実践し、集まっているメイド達に作り方を教える。

「これがサンドイッチって言うんですか! 食べやすくて、美味しくてすごいです!」

「こんなこと今まで食べたことありません! ロザリア様は天才ですね!」

 私への賛美の声が上がる。サンドイッチ屋かハンバーガー屋の経営、ありかもしれないなとふと思った。

 焼いたパンに加え、買い付けてきたパンでサンドイッチを屋敷全員分作り、バケットに詰める。

 馬車の数には限りがある。一度に全員は乗れないので3往復することとなる。私はまず母や父、弟を送り出した。私とアイナは最後だ。屋敷内に誰も残さないこと、これが鉄則だ。

 私はがらんとした屋敷内を走って見回り、誰もいないことを確認した後、アイナの乗る最後の馬車に乗り込む。

「でもどうしてピクニックなんですか?」

 二人きりの馬車の中でアイナが言う。

「そっか、あの時はまだアイナはいなかったね」

 それは推測でなく、私の中から自然に出てきた言葉だった。

 あの時アイナはいなかった。ロザリアの記憶はそれを知っている。

「私とアッシュが子供の時、私とまだ仲良かった時に家族でピクニックに出かけたの。流石にメイドは数人だけ連れてね。あの頃の私達に戻りたいから、繰り返すの」

 繰り返したからと言って仲を戻せるだろうか? それはわからない。

 主人公はたしかにあのピクニックを再現することでアッシュと結ばれた。だが、それがロザリアがやることでそれと同程度の効果がもたらされるのか、それは全くの未知だった。そして、残念なことに死に戻りで何度も試せるほどの魔力は残されていない。

「アッシュ様と仲直りすることが重要なのですか?」

 私は大きく頷きながら言う。

「そう、非常に重要なの。これによって、ブラッドレイン家が滅亡するかしないかがかかっている」

「それは大げさですよ」

 アイナが笑いながら言ったのだが、私の真剣な表情を見てそれ以上は何も言わなかった。

「アイナが信じるかは微妙なところだけど、私は今日という日を何度も何度も繰り返している。ブラッドレイン家にはもうすぐ災いが降り掛かってくる。それを回避するためには、多分これしかないんだと思ってる」

 それを聞いてアイナは神妙な面持ちになった。そして口を開いた。

「ロザリア様、私は信じますよ」

 あれ? いつもの半信半疑じゃない!

 驚いたことが思い切り顔に出ていたのか、

「私が信じたことでそんなに驚かれるのですか?」

 とアイナが言う。

「いや、だっていつも半信半疑、というか疑強めだったから」

「いつも、というのが私には見ることも体験することもできないことのはずなのでわかりませんが、今日のロザリア様を見ていたら、それは本当に起きるかもしれないなって思ったんです。それを回避するために、ここまで大掛かりなピクニックを計画していたのであれば腑に落ちます。もし、ロザリア様の知っている私が変わったとすれば、ロザリア様の行動で変わったんですよ」

 私は、物事が良い方向に進んでいるように思えた。

 半信半疑であったアイナを変えられたのは大きい。物事の一つとしては大きくはないが、アイナが半信半疑になるようにしていた因果の糸を振り切ったのだ。

 私達が向かうのはヘイダム平原。屋敷から一時間程度のところにある平原で、この季節だと菜の花に似た花が平原の一部で咲き誇っている。

 馬車から降りると、既にみんな地面に布を敷いてくつろいでいた。人は私達の他には誰もいなかった。

 ここまで開けた草原なら敵が来ても丸見えだ。流石に、この草原に来ることがトリガーになって襲撃が早まり、かつ襲撃者がニャル一人だけになることはない――と祈りたい。ニャル一人であれば透明化で近づいて来れる可能性が残っている。まあ、ニャルとの戦いでの経験から、長い時間は魔力切れを起こすのでこの草原の距離では無理だと思うが。

 私達は食事を摂った。家族とメイドで分かれての食事だったが、それは慣習的に仕方ないものだ。

 食事を終えて少ししてまったりとした時間が私達家族に流れていた。

「アッシュ、遊びましょう。昔みたいに」

 私は立ち上がって、座っているアッシュに手を差し伸べた。

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悪役令嬢、絶対死ぬ 〜死に戻りで何度死んだって生き延びてやる〜 新崎 cat-c @niizaki-catc

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