「フリー台本」とある殺心(さつじん)「声劇&舞台」
つづり
とある殺心(さつじん)
獏田(ばくた)・・真由の弁護士を名乗る怪しいやつ
真由・・母殺しの罪で逮捕され、拘置所にいる。
母・・夫が浮気相手にとられ、捨てられた。真由を立派な人生にしていきたいと願って、育てた。
証人A・アナウンサー
証人B
証人C
母が兼役でA/アナウンサー・B・C・やってもいいと思います
アナウンサー「さて、先日から世間を騒がしている、娘が母親を殺したという事件ですが、どうして娘が母を殺すのか、犯罪心理学の権威である上越氏をお招きして、お話を聞きたいと思います。まず、この事件は・・・」
B「いやはや、怖いねぇ、娘が母親をだよ? しかも父親もいない子を手塩をかけたって言うのに、どうしてこんな事になったんだろうね」
C「母親も無念だったろうね、腹を痛めた子に手を噛まれた、ようなもんだろうし。こうなると子育ても難しいねぇ」
暗転
物が一切何もない部屋に、女性が体育座りしている。
宙を見つめ、誰かを待っている。
獏田「はあー、今日は寒いですねぇ、こんなに寒くっちゃ、容疑者の心もカチコチになってしまう。ねぇ、そう思いませんか?」
真由「あ、あなたどうやってここに・・・ここ、拘置所ですよ、ちょっと誰か、誰か来てください」
獏田「まあまあ、いいじゃないですか。もしかして、リアリティに沿って、面会室の方がよかったですか? まあ、普通、こんな檻の中に、人が入れるわけじゃないですけど」
真由「リアリティとか、よくわかんないですけど、私は今、弁護士さんを待っているんです。今日、接見があるって」
獏田「ああ、なるほどなるほど・・・でしたら私が弁護士です、今回はよろしくお願いしますね。獏田(ばくた)と申します」
獏田は丁寧に名刺を渡す。
真由「え、あなたが・・・なんか違う気がするけど、でもあれ、弁護士さんの名前なんだっけ」
獏田「まあ、ふわふわでしょうね、そこは煮詰めてないんでしょうから。まあ、そんなことはいいんですよ。それよりも事件の確認をしませんか? あなたは母親である時澤美知子さんを」
真由「殺しました、私が母を殺したんです。それは間違いありません」
獏田「そうですねー、こう言っちゃなんですが、ずいぶんな殺し方でしたねぇ」
真由「そうですね・・・メッタ」
刺しと言いかけそうな真由を制するように。
獏田「生き埋めにするとか、女性とは言え、あなた一人でやるには残忍で大掛かりだ」
真由「そ、そうですね。つい、カッとヤってしまって」
獏田「どうしました? 思い出すのもしんどいですか?」
真由「そんなことは、ないです、ただなんていうか、私、生き埋めにしたんだって、急に思っちゃって」
獏田「ええ、自宅の梅の木の下にね」
真由「お母さんが大好きな木でした、梅の木」
獏田「お母さんが? それはまた何故」
獏田「花も可憐で香りもよく、実にもなる。桜は綺麗だけど散って去るだけだから、真由も梅のような人になりなさいって。最後まで意味のある存在になれって・・・」
獏田「最後まで意味のある存在に・・・それはあなたにとって父親、お母様にとって夫に当たる人のことが影響してますかね」
真由「そうかも、しれません・・・よくご存知で」
獏田「あなたを助けるためなら、私はあらゆることを調べますよ、悪夢みたいな状況でしょ、今」
真由「・・・悪夢にしてはなんだか少しホッとしてるんです」
獏田「そうですねぇ、もう、お母さんはいませんから」
真由「お母さん・・・」
獏田「とてもとても立派な方だったようですね、ご近所のかたが言ってましたよ」
証人A「美知子さん、掛け持ちで仕事しながら、真由ちゃんを育ててたんですよ、高校も進学率のいい私立に入れて、ほんといつでも真由ちゃんのことを気にかけてて、私がこの子を幸せにするんだっていうのが口癖でしたよ」
真由「母は母そのものっていう存在でしたね、子供を守る母親で、私にできる限りの教育をしてくれました。自分のことを我慢してまで、私に尽くして・・・そうしなきゃ、母は満足できなかったのかも」
獏田「・・・満足」
真由「あ、いえ、なんでもないんです。私が勝手に思ってるだけの話なんで」
獏田「あなたは賢いですねぇ、賢くて優しい子ですね」
真由「そ、そんなことは」
獏田「あなたの感想はあながち間違いではないでしょう。親族の方がこうおっしゃってましたから」
証人B「ええ、美知子の夫はクズだった。だが浮気相手に乗り換えた後に、なんもかんもうまくいきだして、子供も生まれて、でかい家で楽しそうに暮らせてしまった。それは美知子にとって、とんでもない屈辱だっただろう、許しがたいことだっただろう。その家に生まれた子よりも、真由を立派で幸せにしたいと、そりゃ頑張っていた」
真由「母は正しい人です、私を愛してた」
獏田「変なこと言っていいですか?」
真由「はあ、どうぞ」
獏田「自分を愛してくれる、正しい人を殺すのは、果たして、悪なんでしょうか?」
真由「何を言ってるの?」
獏田「愛は陳腐なことで表現するなら、この世で一番装飾できるエゴイズムですよ。もっと踏み込んでいうなら、暴力にもなりうるものだ」
真由「そんな、そんなこと言ったら、母が間違ってたみたいじゃない、母は正しかった、正しかったから、何も私は・・・!」
獏田「ああ、そうだ、一つ質問なんですが」
真由「何よ、いきなりっ」
獏田「あなたは何度、母親を殺したんです?」
暗転・真由にスポットライト
真由「あー・・・やっと終わった」
証人C「いやーあの母殺し、首を絞めたんだってなぁ」
証人B「違うよ、さしたんだよ、包丁でブスリと」
証人A「毒を盛ったんですよ、飲み物に差し入れて」
真由「いえいえ、私が何度も殺したんです、殺したんですよぅ、あははははは」
証人ABC「どうして?」
真由「それは・・・それはぁっ」
暗転
明かりがつくと、真由を母が抱きしめてる。
母「大丈夫よ、私たちはやり直せるから、真由、大丈夫なのよ」
真由「お母さん・・・? どうして?」
母「大丈夫、今度こそ、あなたを完璧な人生にするから」
真由「あ、あ、そうだ・・・あの時も同じことを言ってた」
母は真由を笑顔で見つめる。
母「もう、真由、馬鹿なこと言っちゃダメよ」
真由「馬鹿なことってなに、彼氏を紹介して挨拶したいってことのどこが馬鹿なの?」
母「だってそのひとのこと、お母さんは全然知らないけど、でもわかるの。真由には相応しくない」
真由「そんなことない、康二さんは私に誠意を尽くしてくれてる、私、彼にプロポーズもされてるのよ」
母「恋人ごっこくらいなら、まあ多めに見ようと思ってたけど、そこまでいってたのねぇ。じゃあ、大変かもしれないけど、別れてきなさい。私が用意したお見合いがあるから、そっちの人にしなさいな」
真由「お母さん、何言ってるの?」
母「真由の人生はお母さんが作ってあげる。だって、私があなたの今の幸せを掴めるように、ずっとレールを敷いてあげたのよ。それは、真由、あなたが一番わかっているでしょう」
真由「そうだけど。それはそうだけど、でもあまりに横暴すぎる」
母「真由、お母さんの言うこと聞けないの? あなたも、間違ってると言うの?」
真由「そんなことは・・・」
母「じゃあ、お母さんの言うことを聞けるよね」
真由「はい・・・」
真由と下手から出てきた獏田にスポットライト
獏田「・・・ここはあなたが見ている夢。夢ならば、あなたにとっての不都合を遠ざけ、そして真実すら遮断する」
真由「私はまた殺すんだ」
獏田「そうですね、あなたは何度も殺してきたはずです」
真由「あぁ、やだ、やだよぅ、やだ・・・」
獏田「あなたが誰を殺したんです?」
真由「私は、私を殺した、何度も何度も!!!」
獏田は真由の肩を優しく叩く。
獏田「さあ、悪夢を焼き払う時です。あなたは何故、何度も自分を殺したんだ?」
真由「お母さんがかわいそうだった、泣いて苦しむお母さんが、少しでも楽になればって思った」
母「お前は、私の味方だよね・・・ねぇ、真由っ」
真由「お父さんがいなくなって、お母さんまでいなくなってしまったら、私はもう生きていけない」
母「この学校に行けば、進学にも有利だし、何より、このあたりじゃ誰も行けない、それだけ素晴らしい学校なのよ」
真由「そこに行ったら、お母さんの負担が大変になってしまう」
母「いいのよ、お前が幸せになれば・・・!」
真由「私は、友達と一緒の高校がいいな・・・」
母「そんな低いレベルのとこに行くとか言わないで。真由、お願いだから、将来のためになるから、この学校に行きなさい。お母さんの言うことを聞きなさい」
真由「はい・・・」
母「いい子ね、本当にいい子、真由、あなたはけして、私みたいな目に合わせないから」
真由「お母さんの目には私しかいなかった・・・と他の人は言うだろう。いや、違うのだ、私は知っていたのだ。母が見ているのは、憎い男の顔しかなかった。あいつより、幸せになること、あいつの娘より、より素晴らしい未来を描くこと、それが母のぬぐいきれない屈辱を取り除く幸せだった」
母「真由、おめでとう、大手のこの会社に勤められるなんて、お母さん、頑張った甲斐があった、こんな立派なこと、そうそうない、色んな人に自慢しなきゃね」
真由「お母さん、ちょっと会社も遠いし、一人暮らしも検討していいかな」
母「ダメよ、真由にはお母さんがいなきゃダメなんだから。けして離れちゃだめ、絶対ダメ」
真由「お、お母さん、もう私大人なんだよ」
母「でも、お母さんにとってはいつまでも可愛い子供なのよ、そうね、せめて四十歳くらいまではずっとそばで、守ってあげたいくらい」
真由「私はなんなんだろう、私は母のお人形なんだろうか。
昔から母の愛が私にのしかかるとき、私は何度も自分を殺した。そうすることしか出来なかった。反抗すればよかったのだろうか、母を泣かして仕舞えばよかったのだろうか。そうしたらきっと、母は鬼のようになるのは目に見えた」
母「お前まで、裏切るの」
真由「お母さん、お母さん、私のことを見てよ」
母「お前が完璧な人生を歩めば歩むほど、私は気分が良くなるの。あいつより、私はずっと完璧だった、だから、娘も完璧に幸せに出来た、これほど、喜ばしいことはないわ、あなたを産んでよかった」
下手に行く母親に追い縋るように、床を叩く真由
真由「お母さん、お母さんっ!! 私を見て!!!」
母「あはははは、あははははは」
真由「お母さんっー!」
暗転・真由と獏田にスポットライト
真由「私の人生は、いつはじまるの、私は、はじめたい、自分の道を自分で決めて、失敗も成功も、私が・・・!」
獏田「気付いたんだね、君は、何度も殺した自分のことを。自分の本心を」
真由「気付いた、気付いてしまった・・・ああ、私は本当に大事なことを殺していたんだ。もう、何もかも遅いだろうけど」
獏田「いや、そんなことはないさ」
真由「え? どう言うこと」
獏田「ふふ、人生意外と、うまく行くってことさ」
獏田、仰々しく、お辞儀する。
獏田「改めまして自己紹介しましょう。私は、夢食い獏。悪夢を食らうモノ。さぁ、誰もが人生はただ一つ、今、君が自分の願いに気付いたなら、悪夢が終わり、奇跡が起きる! さあ、起きるんだ!」
暗転、照明がつくと母と真由だけが舞台の上。
母「もう、真由、馬鹿なこと言っちゃダメよ」
真由「え、馬鹿なこと・・・?」
母「だから。彼氏を私に会わせるってこと。あなたにはもっと相応しい人がいるんだから、ちょっと待ってなさい、今度見合いを用意するから」
真由「・・・お母さんは、その考えは絶対変わらない?」
母「変わらないというか、親が娘の幸せのためにやるんだから、変わるとか変わらないとかの話じゃないでしょ」
真由「・・・そっか、そうだったね」
母「彼氏とは別れてきなさい、いいわね、電話でちょっと言えばいいから」
真由「わかった、そうする。・・・あんまり聞かれたくないから、ちょっとお母さん出かけて来てくれない?」
母「あら、そうしなきゃダメ? じゃあ、駅前のスーパーで買い物してこようかしら、あなたの大好物用意するわね」
真由「うん・・・」
母、下手へ。真由、スマホ操作し、電話を始める。
真由「あ、康二? ごめんね、今日あなたの家行っても大丈夫? 泊まり、うん、泊まり。しばらく泊まらせて。お母さんから逃げたいの、このままじゃいけないから・・・ありがとう。話を聞いてくれて、すぐに荷物用意して、そっち行くね!」
真由は上手に去っていく。
獏田が上手より舞台に出る。
獏田「いやぁ、今回の夢はドラマチックだった、さて、次の夢はどんなものを私に見せてくれるのだろう、いやはや今からドキドキしてしまうよ、もしかしたら今度私がでるのは、あなたの夢、かもしれないね。その時は、よろしく」
「フリー台本」とある殺心(さつじん)「声劇&舞台」 つづり @hujiiroame
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