第60話 明日へ向かって



「カエル料理、美味しかったです……」



「そうだろうそうだろう。脂身も少なくてダイエット中の女子グルメにもぴったり」



「アサツキさん、絶対そんなこと気にしてませんよね」



 アサツキさんに(強制的に)連れて来られた酒場の料理は、元が何のお肉なのかとかを気にしなければとても美味しくて、ついつい色々食べてしまった。

少し濃い目の味付けがお酒にとても合う……のかもしれない。

わたしはまだお酒を飲んだことがないけど、美味しそうに飲むアサツキさんを見てたら、少し興味が湧いてきた。



「そういえばベルベルちゃん、この間のクエスト達成でギルドランクが上がったんだって?」



「はい、EからDランクになりました」



「Sランク相当のヴァイオレット・ダーティートードも倒せたんだから、ベルベルちゃんの実力はDどころじゃないと思うけどね」



「まあまあ、飛び級みたいなのはありませんし、Cランクからは昇格試験もありますから」



 Dランクまではこなした依頼数や、依頼の難易度なんかによって自動的にランクアップするけど、ある程度上がると昇級試験を受けて合格しないといけないらしい。

依頼を達成できる実力の他にも、依頼者に誠実な対応を取れるか、依頼達成のために犯罪行為をしないか、などの人格面も見られるのだ。



「ベルベルちゃんならAランクだってすぐに到達できるさ」



「わたしはフェアリークエストが受けられれば、あとは別に……」



「まあ、あまりランクを上げ過ぎても高難易度の討伐クエストとか頼まれちゃうからね」



 緊急事態などで、他に依頼をこなせるランクの冒険者がいない場合なんかは、ほぼ強制的に危険なクエストに駆り出されることもあるらしい。

アサツキさんはそれが嫌で、あえてランクをA以上に上げていないのよね。



「それじゃあベルベルちゃん、そろそろ……」



「はい、ごはんも食べたし、サントリナさんのお店に帰りましょうか」



「2件目に行こうじゃないか!」



「帰るんですよ!」



 ……。



 …………。



「それで、アタシのお店で二次会してるってことね~」



「すいません……」



「ベルベルちゃんが謝る必要なんてないのよ。この子が吞兵衛モードに入っちゃうと大変だものね」



 2件目の酒場に行こうとするアサツキさんをなんとか宥めて、泊めてもらっているサントリナさんのお店に帰ってきた。

ここなら酔いつぶれてもそのまま寝られるものね。

わたし、アサツキさんを背負って帰れる体力はまだないもの。



「ん~……サントリナ~このお酒、なんか薬っぽい味がするんだけど~?」



「ハーブのリキュールよ。ちょっとクセがあるけど美味しいでしょ?」



「ん~……美味しい……」



「だ、大丈夫ですか? なんか急にフラフラしてますけど」



「寝つきが良くなるポーションを混ぜてあるのよ。もう少ししたら寝落ちするでしょ」



 それって、悪い男の人がお酒に睡眠薬入れちゃうやつでは……?



「ベルベルちゃんは、妖精さんを探す旅をしてるんだっけ?」



「そうですね、色々な妖精さんと仲良くなりたくて」



 ヘイリオスでは靴の妖精のてくてくちゃんに、食器の妖精のオムオムちゃん、それと座敷わらしちゃんに、デュラちゃんと、色々な妖精さんと仲良くなれた。

この魔女の街ビャクヤでも、鏡面妖精のウォーリーちゃんに、泉の妖精イズミン、他にもたくさんの妖精が街中にいるのを見れて、ここまで来てよかったなと思う。



「もう少しお金が貯まったら、隣のレイキュリー中立国に行きたいと思ってるんです」



「あそこは妖精の教会がある街も多いし、なにより観光大国だものねえ」



「そうなんですか?」



「ええ、国の中央に大きな湖があってねえ。その湖に浮かぶ島が王都で、かわいいお城も建ってるのよ」



 レイキュリー中立国は、魔物との戦いなんかよりも、観光や中立国としての立場を守ることに力を入れているらしい。

あの国にいる間は種族間の諍いも忘れて、誰もが観光を楽しめる。妖精さんもたくさんいるらしいし。

ただ、その分お金を稼ぐことよりも使うことの方が多くなってしまうので、入国する前にできるだけ貯めておきたい。



「でもそういうことならベルベルちゃん、早めにレイキュリー中立国へ行った方が良いかもねえ」



「えっどうしてですか?」



「この付近の街道で、ヘイリオスからの調査団が人探しをしてるのよ」



「人探し……ですか?」



 な、なんだか嫌な予感がするわね……



「白銀の人馬妖精に乗って戦う魔法使い、異世界からの召喚者ベルベル……ですって」



「めちゃめちゃわたしのことじゃないですか」



 ヒカルくん、色々と情報をバラしたんだろうな。

良いのか悪いのか、前よりも正確な内容になってる。



「王都のお貴族様が躍起になって探してるらしいわよ」



「やっぱり諦めてなかったか……」



「そのうちビャクヤにも手が伸びると思うから、捕まりたくなかったら早めにレイキュリーに入っちゃった方が良いわね」



「そうですね……うん、そうします」



 でも、これで次の目的というか、気持ち的には決意が固まったというか。

レイキュリー中立国で新たな妖精さん探し、そしてフェアリークエスト。もしかしたらまた新しい妖精魔法も使えるようになっちゃったり?

お父さん、お母さん。色々大変なこともあるけど、ベルベルは異世界暮らしを楽しんでます。



「よーし! わたしの異世界冒険ライフはまだまだこれからよ!」



「ベルベルちゃん、逞しいわねえ」



「さすがベルベルちゃんだ」



「アサツキさん? 起きてたんですか?」



「ぐー……Zzz」



「寝言かい」





 おしまい





 __ __





 あとがき



 ちょうど小説1巻分くらいのお話しということで、切りが良いですね(よくない)

ベルベルちゃんの冒険はまだまだ続きますが、一旦ここで筆を置かせていただきます。


 上手く〆るのが苦手過ぎて毎回『俺たちの冒険はこれからだ!』ENDになっちゃいますが許してヒヤシンス。



 今回、女の子が主人公のお話しを初めて書いたんですけど、うーん……難しい笑



 書いてて楽しかったので、また気が向きましたらその時はどうぞよしなに。



 ふぃる汰

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無用少女のフェアリークエスト~勇者候補を降ろされたので妖精さんと旅に出ます~ ふぃる汰@単行本発売中 @saw92

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