第59話 魔法犯罪者の末路



「ねえ、アサツキさん」



「なんだいベルベルちゃん。あ、魔石のことかい? ギルドに確認してもらったらベルベルちゃんにあげようか。紫の魔石はボクはあまり使わないからね」



「い、いえ! そうじゃなくって! 魔物使いのウルーソは……?」



「おや?」



 ヴァイオレット・ダーティートードの討伐になんとか成功したわたし達。

でもよくよく考えると、ギルドから受けた依頼は『魔法犯罪者、ウルーソの確保』なのよね。



「そういえば当初の目的は魔物よりも、この魔物を使役しているウルーソの確保だったね。いやあ、大物を倒せた喜びですっかり忘れてたよ」



「隠れて魔物を操ってるのかと思ったけど、出てきませんね」



「探知魔法を張ってたけど、この辺りにはボクたち以外いないみたいだ」



 使役していたヴァイオレット・ダーティートードを放置して逃げてしまったのかしら。

逃げた先でこんな魔物をまた使役して暴れられたら迷惑極まりないわね。



「おーいベルベルはん、ちょっと来てやで」



「ん? イズミンどうしたの?」



 魔物が消えて綺麗になった泉の中に入っていたイズミンが何かを見つけたみたい。



「泉の底に落ちてたやで」



「……これ、ギルドカード?」



 わたしがヘイリオスの冒険者ギルドで発行したものとはデザインが違うけど、内容を確認すると、どうやら同じものみたいだ。

裏を見ると、サンベルク王国とは違う国の紋章が描かれている。



「冒険者ランクB……ウルーソ?」



「なんだって? ベルベルちゃん、ちょっと見せてくれる?」



「は、はい」



 アサツキさんがカードを確認する。これって、逃走してる魔物使いの人のギルドカードだよね……?



「イズミン、このカードが落ちてた近くに、他にも何か落ちてなかった?」



「ちょっと見てくるやで」



 もしかしたら他にも荷物とか証拠品が見つかるかもしれない。

そこから魔力探知とかで居場所が分かったり……しないかしら?



「うん、間違いないね。これはウルーソが“ファイマーズ共和国”で作ったギルドカードだ」



「ファイマーズ共和国?」



「魔物の使役が許可されている国の一つだね。魔物が発生するエビルゾーンからも比較的近い国だから、魔物使いになりたい人はこの国に行くことが多いんだ」



「そうなんだ」



 わたしが召喚されたサンベルク王国や、アサツキさんの出身のウラハイル聖国は『女神様万歳! 魔物は全滅!』みたいなお国柄もあって魔物使いを認めていないから、意外とその辺りは自由な国なのかもしれない。



「ベルベルはん、お待たせやでー」



「あ、イズミン!」



 イズミンが両ヒレでなにか白い石のようなものを抱えて泉の中から戻ってきた。



「イズミン、それ、なに……持って……?」



「骸やで」



「きゃあああああああああ!?」



「他にも色々落ちてたやで」



 ……。



 …………。



「あっはっは、まさかウルーソが骨になってるとはねえ」



「笑い事じゃないですよ!」



 ビャクヤの冒険者ギルドに行き、事の顛末を報告する。

魔法犯罪者、魔物使いのウルーソが使役していた魔物、ヴァイオレット・ダーティートードの討伐が完了し、汚染された女神の森にある泉の水質も元通りに。

そして泉から見つかった人骨はウルーソだと判明。

おそらく、使役魔法が解除され、ヴァイオレット・ダーティートードの毒の餌食になってしまったのだろうとのことだった。



「こういうことがあるから魔物の使役魔法は厳格な登録制が定められているというのに。まあ、自業自得だね」



「無理やり従わせるのはやっぱり良くないと思います」



「デュラちゃんも実は嫌がってるかもよ?」



「そ、そんなことないですよ!」



 ……そんなことないわよね?



「まあでも、確かに妖精さんも気まぐれな子が多いから、変に機嫌を損ねたりしないように気を付けなきゃ」



「ベルベルちゃんが骨になったらボクが魔法の杖の素材にでもしてあげるよ」



「怖いこと言わないでください」



 何はともあれ、これにて依頼は完了だ。

報酬もたくさん貰ったし、どこか美味しいごはんでも食べに行きたいわね。



「あっそうだ、ベルベルちゃん。実はこの辺りに美味しい料理を出す酒場があってね」



「あ、良いですねえ。行ってみたいです」



「特にカエルの串焼きとフライ料理が絶品でね。酒に合うんだこれが」



「あ、すいません行ってみたくないです」



「そんなこと言わずに、美味しいカエル料理を食べに行こうじゃないか!」



「いやだあああああああ!!」

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