ポケットを叩くと知助っ人が二つ
加賀倉 創作
ポケットを叩くと知助っ人が二つ
突然ですが……
お願いがあります。
童謡詩人、まど・みちおさんの作詞した『ふしぎなポケット』の歌詞を、口ずさんでいただけますでしょうか。
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♪ 音楽と歌声 ♪
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みなさま、ご協力、ありがとうございます。
著作権の関係で、歌詞を載せなかったんです。
歌詞を書にするのは、著作物の複製に当たるようです。もしどこかに載せるなら、著作者の了解を得る必要があるとのこと。
で、その保護期間は、著作者の死後七十年が経過するまで、なんです。
まど・みちおさんは、西暦二〇〇二(平成十四)年に亡くなられたので、二〇七三年になるまで、勝手に載せちゃだめ、ということですね。
それで……
この『ふしぎなポケット』に関して、私は何を論じたいのか。
偉大なる童謡詩人、まど・みちおさんには大変申し訳ないのですが……
この歌詞を初めて聞いた小さい頃、私は子供ながらに、「ポケットを叩くとビスケットが増える? そんなバカな」と思ってしまったことを、お詫び申し上げたいです。
どうか、無礼をお許しください。
そして、早めに白状しておきますが、この「そんなバカな」発言は、のちに改めることとなったのです。
以下、完全なる、私の独断と偏見による、「ビスケット、なぜ増えるのか問題」に対する解釈です。悪しからず。
結論から言います。
この歌詞に出てくるビスケットは、おそらくビスケットではなく「知」なのです。
意味わかりませんよね。
一枚のビスケットは、私が「知」る限り、そのふしぎなポケットとやらに入れて叩いても、二枚には増えない。
ドラえもんの秘密道具だったらまだしも、現実には、そんなもの、あり得ないでしょう。
しかし、このビスケットを、「知」というもののメタファーだと仮定すれば、あら不思議、筋が通ってしまうんです。
どういうことか。
まずは「知」の定義について。
ここでは、「知」を、お勉強的な知識だったり、生活の知恵だったり、脳内がクリアーになる思考術だったり、とにかくそれらを知ることで、何かメリットを得られるようなありとあらゆるもの、と定義してみます。
で、「知」の定義が済んだところで、早速「知」が、不思議なポケットの中のビスケットの如く増えるのかを検証したいのですが……
その前に、ここで一旦比較のために、本物の、なんの変哲もない食べられるビスケットの一盛りを、複数人に分配するというシチュエーションを想像してみます。
今、私が、ビスケットを十二枚持っているとします。
あ、余談ですが、「十二」は私の好きな数字なので、それを選んだだけです(ちなみに「十二」は高度合成数という、自然数で且つそれ未満のどの自然数よりも約数の個数が多いものを言い、結構面白いやつです)。
十二枚のビスケットを、全て別の一人に譲るとします。
すると、一人当たりのビスケットの枚数は、当然十二です。
で、私の手元には、これまた当然ビスケットは一枚も残っていません。
えーっと、現時点で、こう思う方、いらっしゃると思います。
「おい、そんな至極当然のことをわざわざ確認させやがって、あんたの方こそこっちをバカにしてるんじゃないか?」
そこをなんとか、「忍耐=patience」の方を、どうか、よろしくお願いします(ジェダイの騎士オビ=ワン・ケノービ風に)。
あとで、遅効性の毒のように効いてきますから、これが。
話に、戻ります。
十二枚のビスケットを、今度は、二人に平等に分けようと思います。
すると、一人当たりのビスケットの枚数は、六枚です。
あらまぁ、半分になってしまいました。
読者の皆様を、決して
どんどんいきます。
十二枚を三人に平等に配ると、四枚ずつ。
四人に配ると、三枚ずつ。
六人に二枚ずつ。
十二人、一枚。
うわぁ、これじゃあ、一枚しかもらえなかった人たちがみんな、「十二人の
あ、これも余談ですが、『十二人の怒れる男』は七十年前の傑作サスペンスドラマ・映画・戯曲です。加賀倉的に非常におすすめです。
で、十三人以上ビスケットを分けようとしたならば、一人当たりの枚数は一にも満たないし、無理に分けるとボロボロになっちゃうわけです。
ああ、哀れなビスケット。
ここからが本題です。
そろそろ、先ほど盛った毒が全身に回ってきているはず!
あ、毒の回るための時間稼ぎで余談が多い、わけではないですよ?
「知」を分配します。
例をあげます。
学校の教室を想像してみましょう。
一人の先生が、教室にいる生徒全員に向けて、授業をします。
生徒の総数は、リアリティを出すために、三十六人くらいにしてみましょう(全国的にはひとクラスそれくらいですよね?)。
もちろん欠席者はなしです。
で、三十六という数字を出しちゃいましたが、一旦、対照実験として、「十二」という数字を使ってみます。
それと、授業の科目は、加賀倉の執筆者権限により、美術としておきます。
あなたの目の前に、かの有名なレオナルド・ダ・ヴィンチによる絵画『最後の晩餐』があるとします(用意してください)。
絵の中には、中央にいるキリストを除いて、十二人の使徒がいます。
その使徒の名前を、じゃあ……一番前の席に座っているそこのあなた! 全て答えよ!(ネプリーグのファイブ・ボンバー風)
あ、知っていても、知らないふりをお願いします(プロレスです)。
今から十二人、先生が教えますから。
私、美術教師の、
今、先生の頭の中に、「十二人の使徒の名前」の「知」識がありますから、それをあなたに分けましょう、というわけです。
ペトロ、アンデレ、ヤコブ、ヨハネ、フィリポ、トマス、マタイ、ヤコブ、タダイ、シモン、ユダ、バルトロマイ。
覚えましたね?(覚えてください)
はい! これで、先生から、あなたへ、「十二」人の使徒の名前という「知」を、お渡ししました!
そして……
「知」の総量がどう変わったか、数えてみましょうか。
さっき、ビスケット十二枚全てを一人に譲った時は、分配元、つまり私の手元にはビスケットは一枚も残りませんでした。
ところが、今、私とあなたの脳内にある「知」の数を数えてみると……
まず私は、ペトロ、アンデレ、ヤコブ、ヨハネ、フィリポ、トマス、マタイ、ヤコブ、タダイ、シモン、ユダ、バルトロマイの「十二」人の使徒の名前の「知」を持っています。
そしてあなた
あれ?
おかしいですよね。
「知」が、十二足す十二で、二十四になっているじゃないですか!
しかも、二人のユダの持っている三十枚の銀貨が入った袋二つも合わせると、追加ボーナス、銀貨六十枚!!
……にはなりませんね。すみません、それはわかります。
冗談はさておき要約すると、私の持っていた十二の「知」が、あなたに配ることで二十四に倍増した。
つまり比で言えば、ビスケット一枚が、二枚になったということです。
まど・みちおさん……
あなたは、正しかった。
申し訳ございませんでした。
ビスケットは、確かに、二枚に増えました。
そして、天才天文学者ガリレオ・ガリレイの唱える地動説を異端として撤回させた、あの
私、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世は、あの裁判から三百五十年後の一九八九年の五月九日、ようやく、正式に、ガリレオの言ったことが真実であったと認め、ここに謝罪します……。
茶番終了。
えー……
ビスケットと「知」は、性質が全くチがうものなんですからね。
でも、「知」を分けても、分配元のもっている「知」が減らないのは、確かですよね?
それではダメ押しと行きましょう。
今度は思い切って、生徒三十六人
使徒の数「十二」掛ける、生徒数「三十六」は……
(今、脳内で、三十六を十二・三に分解することで、「12^2・3」を作りました。その方が私的には暗算が楽なので。あと生徒は全員天才なので十二使徒を瞬時に記憶できます)
……四百三十二。
ものすごい数になりました。
本物のビスケットを配った時を思い出してみてください。
配分先は、十二人で、限界だったんです。
しかも、一人当たり、たったの一枚。
それが、今回の「知」の配分では……
四百三十二、ですよ!
こうかばつぐん、百四十四倍です。
いやぁ、これだから、「知」って、すごーい助っ人、
あ、タイトルが「ビスケット」ならぬ「|
でもって、だからこそ、「知」を得るための勉強っていうのは、大事ですし、尊いんですよねぇ。
学んだ事を周りに教えれば、自分の「知」は減らないのにみんなハッピーで、一石二鳥、四
以上、今後も「知」をたくさん吸収してはみなさまにお配りして、いつか「知助っ人」になりたい加賀倉でした。
〈完〉
【追伸】最後の晩餐に描かれているユダが受け取った銀貨三十枚、これらは、まど・みちおさんの「ふしぎなポケット」をもってしても、絶対に増やせないでしょうね。なぜなら、ただの汚いお金ですから。資金洗浄も無効です。ビスケット三十枚なら、それを原資に相当数増やせたのになぁ。
ポケットを叩くと知助っ人が二つ 加賀倉 創作 @sousakukagakura
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