最愛のピアノ

@Kurosaki-Ryu3

第1話 最愛のピアノ

「金賞 大地高等学校 宮園礼央さん」


 呼ばれた瞬間、頭が真っ白になった。


 私が金賞だったからではない。


 私がどの賞も取れなかったからだ。


 誰よりもピアノを愛している。


 誰よりも音楽を愛しているはずなのに、賞が取れなかった。


 私がいくら努力しても、いくら良い演奏をしても、あの女には勝てない。


 あの女にだけ勝てないわけではないが、あの女にだけは負けたくない。


 あの女、宮園礼央は私の小学校からの付き合いで、結構仲もいい。


 だけど、だからこそ、知っているからこそ、仲がいいからこそ、あの女に負けている状況が許せない。


 足が冷たくなって、舞台の上で動かない。


 頭が正常に機能しない。


 視界がぼやけていく。


 それからの記憶がない。


 気がつくと、自宅の自分のベットの上で丸くなっていた。


 推しのぬいぐるみを力強く、両腕に抱えていた。


 今日の自分を振り返る。


 最悪な一日だった。


 これまでの、このコンクールにあてた半年が無駄になった気がした。


 気分が悪かった。

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