12品目 かぼちゃのサワーケーキ

「ハッピーハロウィ〜ン!」


下校中、学校の工作で作ったかぼちゃオバケのお面を被り、ご機嫌の望果みかはスキップする。


「望果、そのうちコケるぞ〜!」

「だ〜いじょうぶ……おっと!」


大翔ヒロトに注意された途端に小石に躓き、バランスをとった望果は、急いでお面を外した。


「ふ〜、危ない、危ない」

「浮かれすぎなんだよ」

「だって今日はハロウィンだよ? いたずらしても怒られないし、お菓子もらえちゃう日だよ!?」

「……多分何か違うぞ?」

「え、どこが!?」


困惑したところで分かれ道に来た。

「後で公園でな!」と手を上げて、大翔は駆けて行く。



何か違った?

ハロウィンって、いたずらしてお菓子もらうんじゃなかったっけ?

そんなことを考えている内に家に帰り着いたので、まあいいやと望果はお面を被って玄関を開けた。


「トリックオアトリート!! いたずらするからお菓子ちょうだい!」




バーンと扉を開けて帰って来た望果に、母さんは変な顔をして何かを握った手を差し出した。


「『お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ!』じゃなかったっけ?」


望果は手の平に置かれたそれを見る。

カラフルな包みの小さな飴が一つ。


「……え、これだけ?」

「あ〜、残念ながら、我が家のおやつは『ただいま』と言って帰って来る娘の分しかないんです、オバケさん」

「あっ! えっと、私です! ただいまです!」


急いでお面を取って言った望果の額を、母さんはデコピンした。


「分かってるわよ」

「イテッ! も〜、それでお母さん、今日のおやつは?」

「じゃーん、カボチャのサワーケーキ、ハロウィンバージョンよ!」


指された大皿には、オレンジ色のホールケーキが乗っている。

その表面には、三角の吊り上がった目と、ガタガタの大きな口がココアパウダーで描かれていた。

本物のかぼちゃのオバケジャック・オー・ランタンだ!




望果は急いで二階に荷物を置いて、洗面所で手洗いうがいを済ませると、居間に滑り込む。

テーブルの上には、まだカットされていないホールケーキが置かれ、小皿とフォーク、そしてケーキナイフが並べてあった。


おお?

これは自分で好きなだけカットして良いってこと!?


座布団に座って、期待に満ちた顔を向ければ、母さんは「お好きなだけ召し上がれ」と笑った。


いやっほう!

ハロウィン最高だね!



望果はナイフを持って、いざ!オバケ退治に!

かぼちゃオバケくん、ゴメンよ、倒しちゃうよ!

グサッ!

ぎゃ〜!……なんちゃって。


にへっと笑って、まずは半径に一本ナイフを入れたら、どのぐらいの角度でカットするか悩んで止まる。

母さんが使う丸型ホール型六号18cmサイズだから、いつもなら八等分だ。

でも、今日は多めに食べたい!

なんと言っても、今日はサワーケーキ。

水分を絞った“水切りヨーグルト”を使ったサワーケーキは、酸味があってさっぱりしているから、パクパク食べられちゃうんだもん。


望果は、目分量で六等分程度の大きさにカットすると、そっと持ち上げて皿に乗せた。



「いただきます!」


オレンジ色の三角の角にフォークを入れて、まず一口目をパクリ。

ほんのり甘いかぼちゃの風味と、ヨーグルトの爽やかな酸味が口の中に広がって、その中を粗く潰したかぼちゃの粒がコロコロと楽しく転がる。

追いかけてくるのは、土台ボトム部分のビスケットとちょっぴり香るマーガリンの風味。


土台ボトムの上に生地を流し込んで焼くこのケーキは、チーズケーキとよく似ている。

でもヨーグルトを使っているので、クリームチーズを使うチーズケーキの様にねっとりしていなくて、重くもない。

口の中でスッと崩れて、後口もさっぱりだ。



続けてフォークを入れると、上に振られていたココアパウダーの部分に当たった。

かぼちゃオバケの口の部分かな?


ヨーグルトの酸味とココアの風味は、意外にも好相性だ。

ヨーグルトにココアを混ぜて食べる人もいるっていうもんね。

かぼちゃも入っているから、全体がまろやかに混ざりあって、これまた良く合う!

今回はハロウィンバージョンでオバケの顔になってるけど、次は全面にココアパウダーを振ってもいいかもね?


「お母さん、今度は全体にココア振ってみてよ」

「あ〜、いいわね。冬はチョコがけも良さそう」


何そのリッチバージョン!?


想像してゴクリと喉を鳴らしたら、母さんが蜂蜜入りホットミルクを差し出した。

朝晩肌寒くなってきたこの時期、冷たいケーキに温かい飲み物って、ちょうどいい組み合わせだと思う。

望果は両手でマグカップを持つと、フーフーと息を吹きかけながら半分飲んだ。

蜂蜜の甘さは爽やかなケーキにぴったり、文句なしだ。



皿に散ったビスケットの欠片を、最後の一口分のケーキに余さずくっつけて、望果は慎重に口に運ぶ。

残りのホットミルクを飲み干したら、満足感に温まった息を吐いた。


「ごちそうさまでした!」




結局ハロウィンってなんの日かよく分かってないんだけど、まあいいか。

美味しいおやつが食べられるんだから、いい日だよね!

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