11品目 さつま芋とリンゴの甘煮

「秋だねぇ〜」


下校中に空を見上げて言った望果みかの頭に、後ろを歩いていた大翔ヒロトがチョップする。


「どこが秋だよ、まだあっちぃよ」

「痛いなぁ、もう! だって、ほら、雲がサンマみたいに見えるじゃん!」


黄色い帽子がズレた頭をさすって、望果が頭上を指差した。


「う〜ん、あの細い雲? 俺、どっちかって言うとバナナに見えるけど」

「あ〜、それもいいね!」

「……望果、腹減ってるだろ?」

「うん! 早く帰っておやつ食べなきゃ! じゃ〜ね〜!」




曲がり角で「公園来いよ!」という大翔の声にOKサインをして、望果は駆け出す。


二学期が始まったというのに、毎日熱中症警戒アラートが出て外で遊べない日が続いていたが、この数日で急に涼しくなった。

おかげで、やっと外遊び解禁だ!



外で遊ぶからには、エネルギーチャージしていかないとね!

今日はしっかりお腹にたまるものがいいな〜。


そんなことを考えてニマニマしながら、望果は元気よく玄関の扉を開けた。


「お母さん、今日のおやつは!?」




家に入ってから、しまった!と思ったが、台所の母さんは、大きなさつま芋を手に嬉しそうにしていた。

何、そのニマニマした顔!?


「見て、これ! 大きいでしょ〜」

「でっかい! どうしたのこれ」

「伯母さんが届けてくれたのよ。今年はなんだかすごく大きなお芋が採れたんですって」


床の段ボールを見れば、小さなさつま芋もたくさんあるが、巨大なものがあと二本ある。


「うふふ、お芋のお菓子、たくさん作れそうよね〜」


お菓子作りが好きな母さんは、このさつま芋を使ったお菓子作りに胸躍らせてニマニマしているわけか。

確かに、たくさん美味しいお菓子が食べられそうで、私も嬉しくなっちゃうよ!

そして、「ただいま」を忘れたことに気付いてないのもありがたい! セーフ!


「それで、それで? 今日のおやつは早速さつま芋!?」

「その前に“ただいま”はっ!」

「ぎゃー! セーフじゃなかった! ただいまー!」


母さんは口を歪めて、手にしたお芋の先で望果のお腹をツンと突付く。

そして、四角い耐熱容器のフタを開けた。


「さつま芋とリンゴの甘煮よ」




望果はウキウキしながら荷物を置き、手洗いうがいを済ませた。

居間に戻ると、椀状の白い器に甘煮がこんもりと盛られ、大きめの木のスプーンが添えられていた。


「いただきます」


ササッと座布団に座った望果は、パンと手を合わせてから、早速スプーンを持った。

まずはお芋の塊をすくって口へ。

まだほんのり温かいお芋は、噛むと柔らかくほっくりと崩れて、思わず望果の頬は緩む。


母さんはこの甘煮をレンジで作る。

鍋で煮るのと違って、水分が少なくても焦げ付かないから、リンゴから出た水分だけで煮られるんだって。

なるほど、それでこんなにお芋がフルーティーなんだ!


次はお芋とリンゴをもりっとすくって、大きな口でパクリ。

レンジ加熱のリンゴは、火が通ってクッタリしていても程よく歯ごたえが残っているから、お芋の食べ応えに負けない。

さつま芋とリンゴ、どちらの風味も活かして食べられるなんて、秋の始まりスイーツにはぴったりだよね!?



伯母さんがくれるさつま芋は、昔ながらのホクホクタイプだ。

リンゴと合わせるこの甘煮には、流行りのべったりした蜜芋よりも、断然こちらが合うと思う。


昔ながらのものも、良さがいっぱいあるよね。

なんて考えていたら、口の中でプチッと弾けて濃い甘さが広がった。

レーズンだ!


母さんはこの甘煮に必ずレーズンを入れる。

シワシワのレーズンは、粗熱を取る間に器に残った水分を吸って、ぷっくりに。

リンゴとさつま芋のエキスをギュウッと吸ったぷっくりレーズン、美味しいに決まってるよ!



母さんが温かい紅茶の入ったカップをテーブルに置いた。


「“ただいま”は忘れても、“いただきます”は絶対忘れないのよねぇ……」


母さん、まだブツブツ言ってたの?


そう思いつつ、聞こえないふりをして望果は紅茶を口にする。

今日の紅茶には、蜂蜜とレモン。

フルーティーだけどほっくり甘いこの甘煮に、蜂蜜風味のさっぱり紅茶は好相性だ!

母さんは時々甘煮にシナモンを効かせるけど、その時でも合うんだなぁ。


「残ったら、明日の朝トーストに乗せる?」

「絶対乗せるーっ!」


翌日しっかり味が馴染んだ甘煮を、フォークで潰して、カリッと焼いたバタートーストの上に。

これがまた、めちゃめちゃ美味しいのだ!



母さんと二人でンフフと笑ったら、望果は満足気に手を合わせた。


「ごちそうさま」


いや〜、明日は朝からテンション高いよ、これ。

一時間目から体育でもフルパワーでいけるね!


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