10品目 冷やし白玉汁粉
暑い暑い午後、スーパーから歩いて帰る
今日はなんだかやる気が出なくて、お昼ご飯の後、居間でころがってゲームをしていたら、母さんにお使いを言い渡されたのだ。
「あつ〜い」
思わず言ったところで、目の前を赤トンボがスイと飛んで行った。
反射的に帽子を振ったが、もちろん軽く避けられた。
去って行ったトンボを目で追うと、田んぼの上は十数匹の赤トンボが飛んでいる。
まだ日中はこんなにも暑いのに、もう秋が近いんだ。
今日は8月28日。
夏休みは、あと何日だっけ?
あ〜ん、まだ終わらないでよ〜!
……って、あれ?
今日は水曜日じゃない!?
望果は帽子をかぶり直して駆け出した。
夏休みで曜日の感覚が狂っちゃってたけど、今日は水曜日、母さんのおやつの日じゃん!
お使いに行かせたのも、もしかしたら帰った途端に、バーン!とおやつが出てくるからじゃないの!?
弾む足取りで帰り着いた望果は、エコバッグを揺らして台所に駆け込んだ。
「お母さん、今日のおやつは!?」
台所で粉を計っていた母さんは、ぎゅっと顔をしかめた。
「も〜! 曜日は忘れないのに、なんで『ただいま』は忘れちゃうのかな、望果ちゃんは!」
「ひ、久しぶりだから忘れてた! ただいま!」
「久しぶりだからじゃないでしょ」とぶつぶつ言いながら、母さんはエコバッグを受け取って望果にお使いを頼んだ食品を取り出した。
四角いパックに入った、絹ごし豆腐だ。
そして、計量中の粉は、白玉粉。
「あ、もしかして、豆腐白玉?」
「そうよ、冷やし汁粉を作るから、手伝ってね」
「やった! 手伝う手伝う!」
望果は手洗いうがいをして、台所に戻った。
早速、母さんが準備してくれた、白玉粉の入ったボウルへ豆腐を投入して練っていく。
食べて美味しい白玉だが、ぐにぐにと練る作業も、泥んこ遊びみたいで楽しい。
通常、水を少しずつ加えて練る白玉粉だが、水を加えずに絹ごし豆腐で練ることで、より滑らかで柔らかい触感の白玉団子を作ることが出来る。
「自由研究の時にも、豆腐白玉作れば良かったかな」
「あれ以上はまとめきれないわよ」
母さんが苦笑いしながら、鍋に湯を沸かす。
夏休みの宿題の自由研究で、望果は“お団子の固さ変化”を研究してまとめた。
白玉粉と上新粉の割合を変えることで、お団子の固さがどう変わるか研究したのだ。
も〜、ホント楽しかったね!!
毎日お団子食べ放題で最高だったし!
でも、一週間毎日味見させられたお父さんとお兄ちゃんが、「もう団子は見たくない」って音を上げたから、そこで実験は終了して結果をまとめちゃった。
5パターンの団子を、時間経過で変化するのを調査して終了なんて、研究と言える?
もっと食べたかった……じゃなくて、試したかったのに!
耳たぶくらいの固さに練った生地を、小さな玉にして茹でる。
普通の白玉は平たい丸にするけど、豆腐白玉はとても柔らかいから、玉で茹でた方が食感を楽しめるのだ。
茹で上がった白玉は水で冷やす。
低温で冷やしすぎると団子が締まり過ぎるから、氷水じゃなくて水で。
小振りのガラス器に団子を盛って、予め冷蔵庫で冷やしておいたお汁粉をたっぷりかけたら、冷やし白玉汁粉の完成だ!
全部茹で上がるまで待ちきれず、残りは母さんに任せて、いそいそと居間へ器を運んだ望果は、座布団に座って手を合わせた。
「いただきます!」
大きめのスプーンで掬い上げた白玉は、ツヤツヤの白い姿に、お汁粉の薄墨色をまとう。
パクリと口に入れると、程よく冷えた白玉がツルリと舌の上を滑る。
噛めば少しの弾力と、米と大豆の風味。
やわやわと崩れ、こしあんで作った甘いお汁粉と混ざり合って、心地よく喉を流れていく。
つめた~いかき氷やアイスもいいけど、このやんわりと涼を感じる冷やし汁粉は、残暑にぴったりだと思う。
……まあ、残暑って言っても、まだめちゃくちゃ暑いけどね。
いくらでも食べられちゃいそうな口当たりと、とろりとした甘いお汁粉。
口の中が甘さで埋め尽くされた頃に、母さんが程よく温かい緑茶を入れてくれた。
冷えた口には、温かいお茶がいい。
熱すぎたら刺激になるけど、少し
再び白玉を口に含んでも、その柔らかさも冷たさも、気持ちよく味わえちゃうのだ!
空になった器を見つめ、もう少し大きな器にすれば良かったと思った望果の前に、母さんが別の小さな器を差し出した。
「はい、味変」
「きな粉がけ!?」
「プラスすり胡麻ね」
同じ白玉汁粉に、きな粉とすり胡麻をかけて。
粉を飛ばさないように気を付けて口に運べば、香ばしさが加わったお汁粉がびっくり美味しい!
おっと、そうっと食べないと、粉が喉に飛び込んでむせるから気を付けないとダメだよ〜。
「ごちそうさまでした」
ペロリ二杯目も完食したら、元気が出てきた。
よ〜し、残りの宿題、これから頑張っちゃうぞ!
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