第24話
そうして、事件は解決。アルバートくんは白雪の女王様の国のお城に残り、わたしはそのお隣の国の湖のほとりのログハウスに戻った。
はずだったのだけれども。
もはやすっかり夏の盛りのある日。
午前中はおばあちゃんと二人で森に入り、薬草について教えてもらった。森でお昼も食べて、家に戻る。
さて午後は川遊びでもしようかな……、と家に戻ったところで、今日は大きいモードのガーくんが、目の前に着地したのだ。
その背からまず降りてきたのは、凛々しい青年。たぶん、白雪の女王様の国の騎士さんだと思う。装いがそんな感じなので。
続いて降りてきたのが……。
「えっ、アルバートくん!? どうしてここに?」
「それは、大きくて強くてかっこよくて美しくて心の広いボク様が、アルバートたちを連れて来てやったからだな!」
わたしの質問に答えてくれたのは、騎士さんでもアルバートくんでもなく、ガーくんだった。
いや、それは見ればわかるけど。
なんで連れてきたのかというのが、わからないわけで。
もっとちゃんと説明してよ。
わたしはじとっとガーくんをにらんだけれど、得意げな顔のガーくんは、ふんすふんすと鼻を鳴らして胸を張るばかりだ。
おばあちゃんを見ると、彼らが来る予定を知っていたらしい。
騎士の人と、当たり前みたいな顔で挨拶を交わしている。
そういえば、朝ガーくんに『頼みますね』と声をかけて大きくしていたわ。
「こんなところで立ち話もなんですから、どうぞ家の中に。ああそれとも、ルルちゃんたちはお外で遊んでいますか?」
おばあちゃんに問いかけられて、考える。
家の中に入って大人たちのお話に混ざりたいかって? 絶対やだ。考えるまでもなかった。
「うん、外で遊んでいるわ! アルバートくん、行きましょ。こっちにブランコがあるの!」
「ではガーくん、二人を頼みますね」
「了解です、万能の魔女様。二人のことは、ボク様がまもりますよ!」
わたしの返事を聞いて、おばあちゃんとガーくんがそんな風に決めていた。
家に入るのがおばあちゃんと騎士さん。外で遊ぶのがわたしとアルバートくんとガーくんだ。
わたしはアルバートくんの手を取って、ブランコにむかって歩き出す。
「久しぶりだね、ルルちゃん」
「久しぶりね、アルバートくん。……ってほど、何日もたっていない気がするけど。びっくりしたわ。急に来るんだもの」
「今日は、この前のお礼の品を持ってきたんだ。万能の魔女様への物は、騎士に任せたのだけど。ルルちゃんとガーくんへの物は、僕が自分で渡したくて」
「あら、そんなの、良かったのに。わたしたち、友だちじゃない」
わたしは、遠慮をしようとしたのだけど。
それに対してアルバートくんがなにかを言う間に、ガーくんが割り込んで来る。
「ボク様は喜んで受け取るよ! なあアルバート、背中の積み荷、早く降ろしてくれよ! さっきから、たまらない香りがしているんだ!」
ちょうど、大きな木の木陰、ブランコの目の前にまで到着したところで。
「そうだね。ではまず、ガーくんに。はい、どうぞ」
「うひょひょひょひょーい! まだ少し早い時期だろ!? よくこんなに良いブドウを、まあこんなにたくさん集められたな!? さすがは王子だ、アルバート!」
アルバートくんはガーくんの背中に括りつけられていた木箱を降ろした。
中には、つやつやと輝くいっぱいのぶどう。
白い物や赤い物、色んな種類が入っているみたいだ。
ガーくんは、箱の周りをぴょこんぱかんと跳ねまわって、大喜びしている。
「ああっ、でも、この姿じゃあっという間に食べ終わっちゃうな。うん、小さくなるために、派手に魔法を使おう。無駄に氷とか出しちゃおうかな。あっ、このブドウを凍らせてしゃりしゃり食べてもおいしいのでは? いやいや……」
「そんなに喜んでくれて、嬉しいよ。一応伝えておくと、これじゃお礼にはまだまだ足りないから、他にも色んな種類の果物を、季節ごとに贈らせてもらうつもりだ」
うきうきわくわくと悩むガーくんに、アルバートくんは笑顔で伝えた。
ぐりん! とこちらを振り向き、ガーくんは叫ぶ。
「君はさいっこうに良いやつだな、アルバート! よし、決めた。ルル、アルバート、ボク様はしばらく、魔法を使いながらこの辺りを飛び回るよ。小さくなりたいからね。目の届く範囲にいるつもりだけど、君らは大人しくしていなよ」
「はーい。いってらっしゃい、ガーくん」
「ああ。気をつけて、いってらっしゃい」
わたしとアルバートくんに送り出されて、ガーくんは空高く舞い上がった。
すぐに姿が見えなくなったので、無駄に目隠しの魔法でも使っているのだろう。
バサバサとうるさい羽音が聞こえるので、割と近くを飛び回っているのだと思うけど。
「ええと……、ルルちゃんには、これを……」
鞄から何かを出そうとしたアルバートくんを、遮って止める。
「アルバートくん、その前に、ブランコに座りましょう。大きいから、二人で並んで座れるわ」
「そう、だね。……ああ、緊張するなぁ」
「? そんなに大きくこいだりしないわよ?」
アルバートくんのつぶやきの意味はよくわからなかったけれど、アルバートくんが右側、わたしが左側で座った。
両足を地面につけて、少しゆらゆらするくらいで、ブランコを動かす。
「あの、ルルちゃんには、これを受け取って欲しいんだ」
緊張したような真っ赤な顔で、アルバートくんはわたしへのお礼の品とやらを差し出した。
鮮やかなサファイアブルーの、すごくキレイなレースのリボンだ。
「わあ、ありが……」
「君への感謝の気持ちが、これっぽっちってわけじゃないんだ! むしろ君には一等感謝している。もっとずっとステキな贈り物をしたかった。でも、ルルちゃんの好きな物もわからないし、これは重いかなとかあれは邪魔かなと……。もう、わからなくなってしまって……」
わたしは、普通に嬉しかったのだけれども。
お礼の言葉は、なんだか必死なアルバートくんに、遮られてしまった。
わたしはポンと手を打つ。
「ああ、逆にガーくんがすごくわかりやすいのよね」
ガーくんは果物ならなんだって大喜びだ。
旅の間にもガーくんがフルーツを前にするとあまりにわかりやすくはしゃいでいたので、覚えていたのだろう。
「その、ルルちゃんって、ティアラとか貰っても困る、よね……?」
おずおずと尋ねられて、考える。
「うーん……。うん、いらないわね! わたし、お城に住んでいるお姫様じゃないもの。こんな風に自然いっぱいの中で暮らす魔女よ? こんなところでティアラなんて、邪魔なだけじゃない?」
見ればキレイだなぁって思うだろうけどさ。使い道はないよね。
そんな物をくれようとするくらい感謝してくれているというのは、嬉しいけれど。
「そう、だよね……」
アルバートくんはがっくりしょんぼりしてしまった。
そんな彼の肩をとんとんと叩いて、わたしは改めてお礼の気持ちを伝える。
「このリボンだって、すごく嬉しかったわ。ありがとう。わたし、こういうの、大好きよ。髪の長い日に使わせてもらうわね」
「……リボンなら、一〇〇本くらい贈っても平気?」
「ええっ!? それはちょっと……さすがに……。けっきょくお気に入りの二、三本だけを交代で使うことになると思うもの。もったいないわよ」
「そうか……」
アルバートくんは残念そうだけど、諦めて欲しい。
今日貰ったリボンのおかげでお気に入りの座を譲ることになるリボンがあるだろうくらいだ。
わたしの三つ編みに編み込んでいた白いリボンは、アルバートくんとの思い出があるので不動だけど。
しかも、アルバートくんは二本とも返してくれようとしたのだけど、『そのままお守りとして持っていて』と一本渡してあるのだ。アルバートくんとお揃いというのもポイントが高い。
アルバートくんは、はあ、とため息を吐いてから、こちらに向いて微笑む。
「あーあ。やっぱり、僕が勝手に考えたのでは、ダメだったな。……ねえルルちゃん、君が喜んでくれる物を贈りたいんだ。僕にもっと、君のことを教えてくれないかな?」
「いいわよ! でも、同じくらい、アルバートくんのことをわたしに教えてちょうだい。わたしだって、あなたのことを知りたいわ。たくさんおしゃべりしましょう!」
わたしもニコリと笑って返した。
旅の間は気持ちも落ち着かなかったし、なんだかずっとドタバタしていた。
周りの人を気にしてしゃべれないこともあったし。
今なら、のびのびと楽しく話せそう。たくさん話したい。
日差しがちょうどよく遮られた木陰。
湖の上を通り抜けてきた、ひんやりと涼しい風が頬を撫でる。
ゆらゆらと揺れるブランコ、さくさくふかりと草を踏む感触も心地よい。
なんだか、すっごく【しあわせ】って感じだ。
わたしたちはいつまでもいつまでも、尽きない話を続けた。
空の魔女見習いと白雪王子 恵ノ島すず @suzu0203
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