第15話 翔太

翔太の能力は発光というより備蓄のような能力だった。


浴びた光を放出することのできる能力。現在は全て吐き出してしまっているようで、発光はできないそうだ。備蓄には上限や期限などの制限が無いようで、日中十分に光を備蓄しておけばいっぱい光ることができるらしい。夜に吸血鬼が襲って来ても何も怖くないな。


攻撃というより機転づくりに近いし、なによりコストが本当に安い。吸血鬼?だった男を殺して少し魔力を吸収したが、其れと同等ぐらいの魔力しか使っていない。


まさか今までの魔物のコストが多すぎたのか?


無尽蔵のエネルギーがあるのにもかかわらず、発光には外部からのエネルギーを必要とするというのは欠陥もいい所なのかもしれないし、魔物たちの能力に上限というか制限があるのは今までなかった気がするから、妥当なのかもしれないな。


「まおうさま、おなかすいた。」


俺と性悪がぎょっとする。


「人間だからっすかね?」


そういうことか。コストがやけに少なかったのは、無尽蔵のエネルギーの核を保有していなかったからだ。そういえば、心の奥底で今後の計画に支障の出るほどの出費をしてしまっては、吸血鬼を乗り切ったところで詰みであると考えていた。


「お前ら引き返してスライムを拾ってきてくれ。朝になったら出発する。」


男児とはいえ、俺たちより体が大きい翔太ならおいてきたスライムも楽に運べるだろう。安全に進むため朝まで待とうと思っていたし、スライムを置いてきたのは少し気がかりだったし丁度いい。決して、描写を忘れていたわけではない。


「俺もっすか?」


「翔太は場所がわからないだろ。」


本音は違う。


引き返すとなると、ねず氏と支配の勇者にエンカウントする可能性がある。夜中だしは眠っていると思うけど、リスクとリターンが釣り合わない。


「いや、一直線にきたし、足跡とか、伸ばした魔力で逐一連絡とればよくないっすか。」


だめだ。それではエンカウントしたときに、性悪とお別れできない。翔太を失う代償に対するリターンが足りなくなる。


「翔太は核を持っていないから念のためだ。」


俺の思惑を知ってか知らずか、二人は文句を言いながらスライムを取りに向かうのであった。





「死んでたん!?」


飲んでいた酒を吹き出しながら、先遣隊の死に驚愕する圭太けいた


「バカ!声でけーよ!」


驚いた声よりも大きな声を出していかりを示すのは、まなぶ


彼らは酒場にて、志願していた先遣隊の全滅に何とも言えない感情を抱いていた。というのも、理由は一つ。サタンと自称する男が、その先遣隊に含まれていたからだ。


「…サタンも?」


「遺品はなかったらしい。」


「絶対生きてるよね。」


「俺もそう思う。」


彼が名乗った『サタン』という名前は、偽名であると二人は考えていた。自分たち異世界人、もとい勇者よりもよくわからない能力を扱う人間などいるはずがないからだ。


確かに勇者のように固有スキルを発言しているわけではないし、サタンはこの世界の人間さながらの魔法や高い身体能力も示している。その延長線の力であると説明されれば疑いようもないのだが、二人だからこそ、それらが勇者ではない理由にはならないと言い切れる。


余談だが、この世界の人間は魔法が使えたり、謎の身体能力があったりと、基礎ステータスが高い。勇者はそれに対抗するべく、転生時にこいねがった規格外の能力を授けてもらう。この世界で生きていくためのスターターセットということだ。


しかし、人体構造的には全く同種であるため、鍛錬次第では魔法や謎の身体能力も得ることができるとかできないとか。皆、最初こそ鍛錬しようかと考えたものの、底なしの体力をそこら辺の女子供ですら獲得している世界。勇者が鍛錬したところですごいとはならないうえ、授かった固有スキルのまあ使い勝手のいいこと。


自分の望んだ力がそのまま手に入ったのだ。当然といえば当然である。そうあることをよしとしたわけではないが、もらった能力を全員が乱用した。対抗どころかお釣りがくる能力には、デメリットは全くなかった。


いずれ、異世界人みんなでおててつないで頑張ろうねという考えにひびが入っていった。自分たちが優位であることが当たり前になった結果かもしれない。仲良くやっていたが故に、それぞれの能力を知ってしまい優劣を感じてしまったからかもしれない。


中でも強力な能力を保持する者や、仲良くするには抵抗感のある能力の人間もいたため、気づけば数人でグループを作り、極力接触を避けるのが常識となっていた。


さて、ここで問題提起。仲良くするには抵抗感のある人間はどういう状況に陥るでしょうか。


望んで手に入れた能力により、気心の知れた仲間から拒絶をされた二人は、それでも1人で動いているサタンに、言い表せない、というよりこう思っていると断言をするべきではない複雑な感情を抱いていた。


「おい、おめーら。随分とでけー態度じゃねえか。」


考え込む二人に判を押したような、いかつい男が話しかけてくる。


「落ち着けって、『感情』を表に出さんの。」


自然な会話で圭太は固有スキルを行使する。


「あ?なに…そ…そうだな。少し興奮しすぎてたみたいだ。悪かったな。」


声をかけた図体のでかい男は、急に迷惑をかけたことへの申し訳なさで頭がいっぱいになる。


「いや、気にせんで。俺たちも騒いでたし。ここの『勘定』は俺がもつよ。」


男は自分の過ちを許された幸福や、むしろ自分が何かするべきだという考えに飲まれ、いつの間にやら逆に彼らの酒代を払いにカウンターへ向かっていった。


「ほんと、一緒にいたくねーこと。」


学が苦笑いする。こういった能力の使い方は学と圭太だけが知っている特性だった。同音異義語や発音、切り方が違ったとしても、能力を発動するつもりで発声すれば、能力は発動するのだ。仮に、『かんじょ』と発言し、数分後に『う』と発声しても能力は発動する。


だが、そう簡単に発動できる代物ではなく、言葉を切っている間もずっと変わらず同じ命令を考えていないといけない。彼が怒っているから落ち着かせたいと考え『かんじょ』といった後、彼が泣き出したため落ち着かせたいと思い『う』と発言しても、能力は発動しない。


あくまで怒りを抑える、という考えがもとだからだ。仮にだが、感情を落ち着かせたいと最初から願っていた場合は、泣き止ませることも可能ではあるが、人間の頭はそれほど単純ではない。途中で別のことを考えてしまったり、彼に能力を付与することを考えすぎて、落ち着かせたいという考えが散ってしまったりする。


人の感情を操れるというのは、嫌悪感や好感、そのほかの人が思い悩み起こす行動に指向性を与えることができるため、誰であってもいい思いをするものはいなかった。圭太が『感情』と一言いうだけで、それは本当に自分の感情であるのか全く分からなくなる。なにより奇襲にあった場合、抵抗できないし自分ではわからない。


そういった不安要素により圭太の周りからは人がいなくなっていった。


「学には使わないんだから、学も俺には使わんでよ。」


「誰彼構わず使っといて。どの口が言うんだ?」


学が持つ『破壊』の固有スキルは、強力な分使い勝手が悪かった。発言1回につき目視した物1つの破壊、という制限をかけるだけで精一杯であり、圭太のように会話に隠すことも難しい。そもそも陰湿すぎて、性に合わない。


そんな自分の前で自由気ままにスキルを使いまくる圭太の能力が、便利でうらやましく思いつつも、嫌悪感が拭えずにため息が出る。


「お互い使われたら終わりなんだから、『気持ち』よくいこう。」


圭太は感情をと言い換えたうえで強調して話す。


「…ああ、そうだな。」


現時点まで一度も使われていない事実もあると考え、そこまで気を立てる必要がないと学は酒を一口飲む。圭太の能力は感情は操れても記憶は操れない。今だって皮肉のように『気持ち』と言い換えている。それに…。


尖った性格と固有スキルを持つ学は、一人での行動に何ら不満はなかった。やろうと思えば目障りな奴らは能力ごと破壊することが可能だし、能力を持たない人間とよろしくやればよいのだから。『破壊』は壊すことしか意味を成さないスキルである分、物理的な破壊は当然のこと、ある程度の概念や事象まで影響範囲が及んでいた。


やろうと思えば、相手の固有スキルの破壊も可能であった。


圭太は俺が許してやっている。主導権は俺にある。そう思い満足げに酒のお代わりを注文する。


慢心もあったが、それ以上に学は知らなかった。圭太も固有スキルの特性を隠していたことを。『感情』の言い換えとして『気持ち』『喜び』『悲しみ』など、そのままの意味で強調して発した感情を意味する言葉に、能力を乗せることができることを。


これは常日頃から感情という単語を会話に乗せて、所かまわず実験を繰り返していた圭太だからこそ気づけた能力であった。


圭太は満足そうに笑みを浮かべ、手中に落ちた爆弾を肴に、追加の注文をするのであった。

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人間を滅ぼしてやる!! 脇役筆頭 @waki894

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