第14話 吸血鬼

「話すことができるとは思わなかった。」


「話しかけといてそれは無いでしょ。」


自分のスペックが低すぎて、語気が弱くなる。吸血鬼の弱点ってなんだっけ?ニンニク、十字架、日の光?日の光以外は魔物として作り出せるイメージが湧くが、日の光以外に効果が出るイメージが湧かない。ニンニクの魔物ってなんだ?おいしそうな料理が並んだりしないだろうな…。


「なんの用だ?」


じりじりと寄ってくる吸血鬼に後ずさりしていると、逆に一歩前に出る性悪。俺の分身が頼もしすぎる。


「道によくわからない物が落ちていたら?」


「踏むね。」


性悪はスカッとする返しをしてくれる。俺達が何なのか確かめに来たってことか。明らかにこちらの方が弱者であるが、堂々とする理由があるかのように振る舞う性悪のおかげで吸血鬼の足が止まる。


「ふふ…。なら、参考にさせてもらいましょうかね。」


参考?何を?踏むこと?おい、道に落ちてるものって俺達だよな?焦って性悪を見ると諦めたように座り込んでいる。身から出た錆って知ってるか?俺の錆じゃないか!


バサッと翼を広げ普通の人間ではありえないぐらいの速度で距離を詰めてくる吸血鬼に対抗するべく、大急ぎで魔物を作り出す。できるかわからないが、日の光に匹敵する強力な光を発する魔物。


「くらえ!」


魔物を作る時、複雑に考えれば考えるほど時間がかかるが、ネズ氏を作った時や性悪を作った時は割と短かった。そう、単純明快な意思で作られる魔物の作成時間は短いのだ。


想像よりも少ないコストで作られた魔物は、吸血鬼の目を焼くほどには強力な光を即座に発した。


「あああ!」


至近距離でくらった吸血鬼は目を抑えてのたうち回っている。俺と性悪はというと、目を作っていなかったため何ともない。


「まおーさまー。」


腑抜けた声で俺に寄ってきたのは少女に間違えてしまいそうな、おそらく少年。なぜ人間の少年ができたんだ…。一旦、後回し。


残念ながら発光は永続ではなく一瞬で終わってしまったが、その分要件通りの熱を感じるほどの強力な光を発してくれた。吸血鬼を日の光で焼く想定であったが、スタングレネードのような刺さり方をしてくれて助かった。


「おい、翼とかなくなって人間になってないか?」


ショタ魔物の方に気を取られて気が付かなかったが、性悪が吸血鬼の傍まで近づいて確認していた。何と恐れ知らずな…。


「おい、危ないだろ。そんな奴置いてさっさと逃げるぞ。」


俺たちにこいつを殺す決定打はない、今のうちに空から見つからない場所に隠れてしまおう。日中は動けないと仮定して夜は隠れておけば…。そうか、日の下でも普通に動ける可能性もあるのか。仮に日中に動けたら、このショタの目潰しは夜の今よりも、効果が無いに等しくなるだろう。


「よく見て見ろよ、こいつ男になってる。」


あ、ほんとだ。羽や牙だけではない。胸もなくなり、髭が生えている。光の所為で吸血鬼化が解除されたのか?


「とりあえず殺しておくか。」


「え?あ、ああ。どうやって殺すんだ?」


苦しそうに悶える男性の目は白くなり、涙があふれている。俺はゆっくりと歩いて行き、うつぶせの男に背中に乗る。


「俺たちの体は本体は不変だが、後から作った足は多少形が変えられる。」


イメージ、本体の体と大気中に漂わせている魔力の中間のような存在だ。本体程しっかりした構造ではないため、素早く移動しようとすると崩れてしまうし、通常の魔力程自由に操作できるわけではない。しかし、通常の魔力より固く集まっている分、体を持ち上げて歩き回ることができるし、造形を弄れるというのはそれなりに使い方があるのだ。


足先を尖らせ、釣り針のように返しを作ると、心臓辺りにブスリと突き刺す。


「うあ、ごめんなさい!ごめんなさい!俺が悪かったです!許してください!」


男は立ち上がって俺を突き飛ばすが、勢いのまま俺が刺した足が背中を引き裂いてしまう。じっとしていてはまずいと考えたのか、逃げようと必死で走り出す。俺たちは追うわけでもなく、その姿を静かに眺めていた。


目が見えてないせいか何度か転び、そのたびに背中からドバっと血が出て、男はやがて動かなくなった。


「突き飛ばされて俺も危うく死にかけたわ。」


ひ弱な体を嘆きつつ、魔力を俺を中心に均一に伸ばす。周りにほかの吸血鬼やら人間がいないか確かめなければ。


「一旦脅威は去ったんすかね?」


性悪から見ても安全だったのか、口調が戻る。それを聞いて、俺も少しほっとする。


「多分?」


「なんの情報も得られなかったっすね。」


性悪はそういうが、俺にとってはそんなことも無かったりする。性悪について勘違いしていたが、こいつも一応俺の作った魔物であり、基本的には俺を守ろうと動いてくれることがわかったのだから。


「あいつは勇者だったのかな?」


「能力としては勇者と言ってもいいと思うんすけど、それにしては強くなかったっつーかあっけないっていうんすか?今となっては断言できないっすよね。」


わからないことはいいか。それより作ったショタを確認しよう。吸血鬼が勇者ではなく種族だったとしても、こいつの性能によっては万事解決だ。


「ショ…タ。」


果たしてショタにショタと名付けてしまってよいものだろうか。


「しょうた?」


ショタと呼ぶのに詰まったら、性悪がいい感じの聞き間違いをする。いいね、翔太にしよう。


「そう、お前は翔太だ。」


「はい、まおーさま。」


「だめだ。様。と呼べ。」


「はい、まおうさま。」


「よし、翔太。お前のできることについて教えてくれ。」


頭が悪いというより腑抜けているように見える翔太はわかりましたと言い、当初の目的であったオアシスの道中でとるに足らない能力の説明をしてくれるのであった。

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