第13話 支配

『支配』ってこれまた初見殺しみたいな能力を…。


「答えてくれたのはどうしてだ?」


「わからないけど、もしかしたら連絡重視で魔物を作ったからかも。」


「『支配』のせいで自由に動けないけど、思考までは制限できなかったってこと?」


そうなのか?『支配』がどういった固有スキルかわからないが、絶対的な上下関係の構築であると仮定しよう。自爆を拒否した理由も一旦は説明がつく。


「固有スキルについてわかってることを教えてくれ。」


「はい。聞いた限りですと、スキル発動時に勇者が意識していた者に声が届けば支配ができるそうです。支配の制限等は本人もわかっていないようですが、本人の意思で解除をしなければ支配は解除されないようです。」


「ペラペラ教えてくれたな。」


簡単に知ることができすぎて性悪が呆れている。今の情報を支配した相手に開示しても問題ない。それほど『支配』の能力が強力であることの裏付けになる。


「ネズ氏、しばらく別行動だ。俺達は北東に転移する。以降はそいつと行動して他の勇者の情報を集めるように。命令されたら俺の情報も開示して問題ない。死ぬな。」


魔物との良好な関係のためにネズ氏の気持ちにも配慮しておこう。伝えた直後、俺は魔力をネズ氏の周りから回収する。北東は俺が転移する前に居た場所であり、多くの勇者がいた場所だ。そこでせいぜい情報を集めてもらおう。


「ネズ氏を利用して『支配』の勇者を北東に追いやったのか?」


「正解。念のためこの場所からも離れるぞ。」


「いいと思うが、勇者の目的聞いておいてもよかったんじゃないか?」


「目的?」


「ああ、こんなところで1人で何してたのか聞いた方がよかったんじゃないかって。」


一理ある。聞いた方がよかった。いや、聞くべきだった。


「分身のくせに、正論ぶつけてくるなよ。」


「俺に怒るなよ、自分の力を褒めるべきだね。」


一度揚げ足を取ったからって偉そうに天狗になりやがって。


「…お前よりも俺の方が偉いんだからな。」


「分身の方が大人にならないといけないって、そりゃ本体としてどうなんだろうね?」


「今はお前のペースってだけだろ。それに明らかな上下関係はある。」


「ない…わけではないな?実際俺が本体だったら勇者の目的を聞けていたわけで。」


「しつこいね。」


俺が相手にしないと、性悪の顔から笑みが消える。


「…なんだよ、他があるのか?言ってみろよ。」


「お前の能力は俺が許可出さないと使えない。」


性悪が舌打ちする。


「別に気にしないが、どうしたら許可出すんだよ。お前は俺に何してほしいんだ?自爆か?無茶な特攻でもさせる気か?」


「いいや?」


「ならなんだ?もったいぶるなよ。」


「…運動部の調子乗ってる後輩みたいな敬語使え。」


「…いいよ。」


いいんだ。素直で笑ってしまった。


「使える能力って言っても、魔力による探索と魔物作成ぐらいっすけどね。」


「確かに。まあお前の上に立つなりの行動はするようにするよ。」


「しゃーす。で、どこ行くんすか?」


「一番大きいオアシス。他のオアシスに比べても大きすぎるし、周辺に人間の数もそれに比例して多い。」


「向かいますか。」


進行方向と周囲に魔力を這わせる。


「そういえば、お前が魔力による探索と魔物の生成を行う時、魔力はどうやって補充するんだ?」


「あーもしかして、俺の使える魔力がないこととか、能力の許可の方法とか知らない感じっすか?」


「今使える魔力がないってことだよな。許可したらどこからか湧いて出てくるのか?」


「いや、先輩が俺に使っていい魔力を分け与えることで、能力を使えるようになるんすよ。」


なるほどな。許可とか契約みたいでよくわからなかったが、思ったよりも物理的だった。


「因みにっすけど、俺が能力を使っても先輩にわかるし、先輩が能力使っても俺に情報が共有されます。」


そういえば、俺の作った魔物は俺が状況を言わないと何もわからなかったが、性悪は当然の如く話に入ってきていた。いよいよ主導権がどっちにあるか以外に違いがなくなってきたな。


「仮に人間大勢と対峙したとして勝てるんすか?」


「お前が俺に聞くのか?」


「何言ってるんすか。先輩が記憶喪失になってからの情報は俺とも共有されてるんすよ?その記憶からだと、俺たちがこのまま人間とぶつかって勝てる見込みなんてないじゃないっすか。」


こいつもしかして、前世の記憶ないんじゃないか?よく考えたら、俺も前魔王に作られた後、前魔王の記憶を保持していなかったな。当然と言えば当然だが。俺は圧倒的な優位性を感じて満足気に周囲を見渡す。


空の色が変わって少し経つ。体感の気温もどんどん落ちていってるのがわかる。もうすぐ日が落ちるな。


「賭けになるが、そうでもない。」


「先輩として扱ってほしいなら先輩らしいふるまいはして欲しいっすけど、かっこつけてそれに巻き込まれるのはごめんっすよ?」


歩みを止める性悪。俺はペースは落とすがそのまま性悪を追い越して歩き続ける。


「魔物の生成において消費される上限の魔力はどうやって決まるか知ってるか?」


「知らないっす。教えてください。」


「体内に内包する魔力が上限となる。つまり、体外に伸ばしておいた魔力は消費されないんだ。そして、この魔力は体内に戻すことができる。」


「まだ魔物が作れるってことっすか?」


「そういうこと。」


「てっきり俺を分解するのかと思いました。」


希望が見えてきたのか、追いかけてきた性悪の足取りが軽く感じる。


「次作る魔物とか決めてるんすか?」


「ああ。今から向かう場所はどこだか覚えているか?」


「オアシスっすよね。」


「そう、一番大きなオアシスが目的地だ。そこで…。」


俺と性悪は足を止めた。いや、蛇に睨まれた蛙のように、動くことで相手に刺激を与えることは得策ではないと判断したのだ。


「こんばんわ?小さきもの達。」


下手くそな笑みで挨拶をしてきたのは翼をもつ女だった。


「空か!」


性悪が悔しそうに吐き捨てる。効率をと考えていたのが完全に裏目に出てしまった。


実は、何度も魔力を伸ばして周囲に視界を広げる中で、改善を重ねていたのだ。


まず問題だと思ったのは、人間側に何かに纏わり付かれていると勘付かれること。次に、探索範囲の拡張ができないかと考えていた。


これらを一気に解決したのが、低い位置での魔力の運用だ。特に情報も得られないのに上空まで無駄に霧散していた魔力を操り、より低い位置、くるぶし程の高さまで魔力を押し潰した。


何かを感知した時に少しの間だけ魔力の高さを上げるだけで、何がそこにあるのかはわかるし、持続しなければ人間も気のせいだと勘違いする。使用する魔力も大幅に抑えられたため、その分探索範囲の拡張もできる。


完璧すぎる改善案。


そう思っていたのだが…。仮に飛行機が飛んでいたとして、神風特攻や爆撃する以外に俺達への接触は難しいからその場合は諦めるつもりだった。まさか、そんなファンタジックに来るなんて。異世界転生した自覚が足りていなかったようだ。


即座に広げていた魔力を回収し、いつでも魔物を生成できるようにする。


「俺の指示、覚えているな?」


性悪が俺に声を掛けてくる。指示など覚えてない、何のことだ。一瞬混乱したが、俺だったらなぜそんなことを言うか考え、どちらが本体かわからなくするために発していると理解に至る。


「…はい。」


俺は魔力を性悪と俺を守るように纏わせる。半分譲渡も考えたが、作った魔物が要件通りにならない可能性が出るため、渡さないでおく。


女は月を背に、俺たちの前で歩みを止める。気味の悪い笑みを浮かべやがって。どう生きてきたらそんな下手くそな笑顔が作れるんだ。


「こんばんわ、翼をもつ者。」


なんか気の利いた返しができなかったな。性悪も少し苦笑いしている。女は相変わらずの笑みだ。


「俺なら吸血鬼って言うね。」


確かに。翼といい、口から覗く八重歯といい、俺の目にも女が吸血鬼に見えた。

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