自転車をパンクさせる女の子の話。

@amy2222

第1話 「犯行」

桜の花びらが舞い落ちる静かな駐輪場。その一角で、私は彼の自転車の前輪に小石を押し込んでいた。私の嫌いな彼が毎日通る道。彼の自転車がパンクすれば、少しは私の気持ちを理解するかもしれない。石を押し込む指はわずかに震えていたが、心は冷静だった。


周りは桜の美しい香りで満たされており、それがこの行為の罪悪感を和らげてくれるようだった。私は彼の自転車のタイヤをじっと見つめる。空気が抜ける音が静かに響いた。それは、まるで秘密を共有するような、背徳感のある囁きだった。


彼がこの自転車で坂を下り、いつものように軽やかにペダルを踏む姿を想像する。しかし今日は違う。タイヤが抵抗を示し、彼の日常に小さな影を落とす。それが私の小さな復讐だ。彼がそのパンクに気づいた瞬間、私の心の中のもやもやが少し晴れるような気がした。






自転車のタイヤが空気を失ったまま、彼はそれを引きながら歩いていた。私は少し後ろから彼の横に並ぶように歩みを進めた。


彼が「今日、一緒に帰らない?」と尋ねたとき、私の心は小さく跳ねた。私は彼の自転車の後部を持ち、二人で坂道をゆっくりと下っていった。桜の木々はすでにほとんど花を落としていて、私たちの足元は花びらで覆われていた。その上を自転車のタイヤが軽く音を立てて転がる。


「ホームセンターでやってるかな、これ」と彼は言った。パンクした自転車の前輪を摘む。「多分ね」私が答えると「ポケモンかよ」と笑う。普通の会話をしながら、私のしたことを彼は知らない彼を見て少し笑ってしまう。


彼が何か話し始めた。学校のこと、友達のこと、好きな音楽のこと。彼の話はどれも興味深く、私はただ聞き入ることしかできなかった。彼の声は暖かく、時折響く笑い声は春の風に乗って遠くへと消えていった。


道の終わりに差し掛かる頃、彼は「ありがとう、助かったよ」と言って私に微笑んだ。その笑顔に、私の胸は締め付けられるような感覚に襲われた。彼には何も言えなかった。言えるはずもない。


私たちはそこで別れた。彼は自転車を引きながら、また一人で歩き始めた。私は少し立ち止まり、彼の背中を見送った。彼が小さくなって見えなくなるまで、私はただそこに立っていた。空は青く、春の日差しは暖かい。「ざまあみろ」見えなくなった後ろ姿に、そうつぶやいてから、ふと、自分に言っているようだなと思う。少しずつ高くなる影が今日の終わりを告げる。明日、また同じようになればいいのに、と。私は思った。

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