天使の答え
しめつけられている感覚が消えたかと思えば、俺と少年には少し距離が生まれていた。
「僕がこの願いを叶えてしまうと、僕はこの世界に居れなくなるんだ。ノルマを達成してしまうからね。達成したら、僕は意識を奪われる。なにせ天界では、ノルマを達成した天使は邪魔なだけって扱いだから。」
少し目があったが、すぐにうつむいてしまった。
「ごめん。ノルマを達成したくないし、あなたと遊びたかったから願いを叶えなかったんだ。しかも、天界は僕にとってすごくストレスがたまる場所。だから、遊ぶことに関しては貪欲だったんだ。許してくれないか。」
少年は、地面の一点を睨んでる。悔しさに怒り、そして辛さがこもっているように見える。
「じゃあ、なんで母の真似をしたの? なんで記憶喪失であることを分からせたの? ……なんで完全に周りを知る手伝いをしてるの?」
少年は涙で濡れている顔を笑顔にさせて答えた。
「いつまでもあなたに依存している場合じゃないからだよ。いつかはこの関係も終わりにしないといけない。だからせめてあなたの願いが叶って、そのまま意識が遠のけばなって。でも、僕からあなたの周りのことを教えることは自滅するみたいだから怖くて。」
少年の淡々と流れている涙を、親指で優しくそっと拭う。
「俺に依存してしまうのが怖いなら、俺からは離れればいいじゃん。そして、俺は自分の周りのことは完全に聞かない。そしたらお前は一人で生きられない?」
少年は俺に背中を向けた。
「あなたのことが好きになっちゃったから。だから結局、どうやっても辛いの。あなたと離れるのも辛い。あなたとずっと一緒にいるのも、この関係が壊れる時のことが心配でね。」
少年の細い背中が頼りないように見えてしまう。
「じゃあ、一ヶ月後のいつもの時間にここに来い。一ヶ月毎なら依存もしすぎない、寂しくもなりすぎない。関係が壊れてもなんとなく耐えられそうじゃない?」
少年の頭が奥に倒れる。少年はこっちを見ると、俺の唇に唇を優しくあててきた。
「状況や立場が悪ければ、時間なんて酷い流れ方をするんだよ。」
少年は走って去っていってしまった。
「家に帰るか。」
公園の時計を見てみると、二時を指していた。俺も走って家に向かうとするか。
「はぁ。ついた。」
家の扉の前で息があがってしまった。俺は早く家に入ろうと鍵を手にもって、鍵穴に指した。
「スマートフォン触ろう。」
玄関の鍵を閉める。そしてダイニングテーブルに置いておいたスマートフォンを手にとり、キッチンに腰をかけた。なかなか開かないメッセージアプリを開き、矢野で名前の検索をかけてみる。すると、検索の条件に二人だけあてはまる。
その時、いきなり玄関がノックされた。
「隆明……? ごめんね。今まで辛い思いさせたよね。開けてもらえたりとかできる?」
玄関の扉の鍵を、捻って開けた。すると、母が扉を開いて質問をした。
「こんな私だけど、お邪魔していい?」
俺は頷いた。迎え入れないわけがない。
「お邪魔します。」
母は玄関の扉の鍵を閉めた。
「母さん。これは必要な犠牲だ。」
俺は、母の心臓にあたる場所に包丁を刺した。
「父さんは手紙を残す余裕もなかったし、当分……」
待ってて。ルピナス。
私ハシル。君の想いを… 嗚呼烏 @aakarasu9339
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