二年後

「今日は、僕とあなたが出会った記念日だね。しかも二回目。」

初めて出会った場所でまた待ち合せている。もうこの光景と少年の姿を七百三十回見ている。そして千四百五十九回、食事を共にしている。

「俺、気づいたことがあるんだ。」

少年は、愛くるしい笑顔をこちらに向けてくる。

「どうしたの。って僕が無能であるということかい……?」

少年の笑顔だった顔がすぐくもった。それもそのはず、よくよく考えると少年は二年も願いを叶えてくれてないことになる。申し訳ない気持ちを言いたいことはわかる。でも言わなければこいつは。俺は。

「お前、わざと俺の願いを叶えてないだろ。」

少年は黙りこんだ。次第に少年の顔は青ざめていく。そして、出会った頃の違和感に重なる。

「お前は俺に出会った時、ある言葉で何かを感じさせたよな。俺に。……そう、俺の母の存在だ。」

俺の話が届いているのか。少年の目には涙がうかんでいるし、そんなことは聞くまでもないか。

「その時の俺は『どうしてその言葉を。』って、感覚がえぐられた。その感覚のおかげでお前が只者ではないと、気づけたからいいけどさ。だけど、母の存在は頭に浮かばなかった。」

少年は目にたまった涙をこぼしている。

「でも、お前は気づかせてくれたよな。億月蒼士、いや。矢野隆明に。」

拳を握りながら、頭を小さく揺らしている少年。頷いてるつもりなのだろう。

「億月蒼士ってお前が命名したのに、この二年間の中で一回も使ってないんだ。そこでなんとなく、なんで億月蒼士って名前をつけたのだろうって考えてみた。少し考えてると、億月蒼士の文字を入れ替えると記憶喪失になるって気づいた。そこから記憶喪失について考えてたら、ふと気づいたんだ。そういえば俺、母のことも父のことも俺のこともなんにも知らないなって。俺って記憶喪失だなって。」

少年の目には、また涙がうかんだ。そして、少年は俺の胸に飛びついてきた。

「そしてある日の真夜中に、俺は自分の家の色んな部屋を調べた。そして、母の部屋らしき部屋の机の上に手紙を見つけた。手紙は母からのものだった。そこには俺が矢野隆明という名前であること。俺が記憶を失ったのが酷く辛くて、家出をすると決意したこと。そして今日の夜に、辛さをどうにかすることを目標にすること。それから、今日の夜に辛さがどうにかなったら帰ってくること。これらのことが書かれていた。」

抱擁で身体が強くしめつけられる。

「それを読んだら、母との生活の記憶が少し蘇った。その曖昧な記憶の中に、こんな母の言葉があった。」

力が抜けたのか、抱擁が弱くなった。

「こら、うそをついてはダメでしょう。隆明君。」

少しも俺の胸から動かない少年の姿に、俺も酷く動揺した。

「お前は、この言葉を俺と初めて会った時に言った。俺の名前だけくり抜いてな。あの会話の流れで、くんが使われるというのは違和がある。流石にたまたま被ったなんて言い訳は見苦しい。」

少年の髪が風にあたって、髪型が崩れていく。でも、直そうとする仕草は見られない。

「お前は、俺の周りのことを知っているんだろ? なんでそれを隠しているんだ?」

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