私ハシル。君の想いを…
嗚呼烏
最高の出会い
「やけに日が眩しいんだよな。あ゙ぁ。」
なにもしたくないけど、なにもしないのは罪悪感と嫌悪感がある。
だとしても、陽気に外に出られたわけではない。謎の重力を感じる身体。嫌なことが起きそうな予感。
家を出るまでのどうとも言えない様を「葛藤」と名付けよう。まさにその言葉が正解だからだ。
だが、なにもしない罪悪感と嫌悪感だけで葛藤していた訳ではない。
「流石に外に出ねえと精が出ねえんだよな。ったく。人間ってのは不登校に厳しいんだよ。」
安心はするが、外の世界より圧倒的に狭い家という存在から一歩も出ないというのも酷く苦い思いがある。
家で浴びる電気と違って、外で浴びる陽の光は厚かましい。そして、公園で呑気に遊ぶ子供の声がうるさい。
「あ゙ぁ? なんだあいつ。」
俺の足はぴたりと止まった。
そこには、公園の少し高い柵に背をあずける少年がいた。
「なんか落ち込んでんな。うつむいちまって、仲間はずれでもおきたのかよ。ってあいつの背中にあんの……羽?」
その少年の背中には、真っ白な羽のようなものがついている。
「コスプレ大会とかにしちゃ、羽以外も頑張れって感じだけど、動画サイトとかにでも投稿すんのか?」
違うか。
動画を撮ってる人どころか、少年に話しかけている人すらいない。
「じゃあ、なんなんだよあいつ。首痛そうなぐらいに深くうつむいてきてる。おまけになんか気味が悪いというか、違和感があるというか。」
この景色に馴染めていない異様な少年をながめていると、鳥肌が立つ。
「あ゙ぁ。こんなん無視しちまったら、今後の夢見が悪いだろうからな。ったく。」
次第に足は少年の方向に向かった。心臓の動きが乱れている気がすると一度思うと、緊張でどれだけ心臓が高鳴っているかがわかる。
手を震えさせながら、少年の肩を二回ほど優しく触れた。
「おい。大丈夫か? 体調悪いなら救急車でも呼んでやろうか? それか仲間はずれにでもなってんなら俺と遊ぶか?」
少年の様子がさっきとは一気に変化し、明るい笑顔を見せてきた。
「なんちゃってな。」
咄嗟にそんな言葉を呟いた。少し怖気づいている自分に呆れを通り越して、少し笑いそうになる。
その時、少年の口が開く。
「やあ。僕が助けるのはあなたか。」
俺の手は震えというより、動きがあった。助けるなんて訳の分からないことをいきなり言われて、説明しがたい感情に襲われる。そして助けると言ってるわりに、助けられそうな元気がある声はしてない。それを含めて、俺は「不思議」を感じている。
「あ、あ゙ぁ? 名前くらい名乗れよな。」
声までもが震えていることに気づいた。そして、自分の今の状態がとても無様だということを自覚した。
「あぁ。僕の名前はルピナス。ここへは人間の願いを叶えにきたのさ。」
こいつはとことん謎な奴だった。願いを実現すると言うなら、俺の願いも実現して欲しいものだ。
「……あ゙ぁ?」
人間という言い回しに疑問をいだく。まるで少年は人間じゃないというような言い回しにも捉えられる。いったいなんなんだ。
「その格好がお前の学校で流行するのかは知らないが、外でその格好はあまりにも酷いぞ。」
疑問を心にしまった。疑問に対して適当な考えで探偵ごっこをしても、仕方がない。しかも少年が人間じゃなかったら、何事もないように話せていないだろう。どうせコスプレ好きな少年だ。
「酷いなあ。あなたって人は。あと、羽は本物なんだけどな。」
変に混乱するじゃないか。でも、設定を大事にするこの少年みたいに頑固な奴が社会で思いもよらぬ奇跡をおこすのかもしれない。なんにせよ、面倒な奴ってことには変わりないけど。
「そうだ。本物の羽だって証明してみせるよ。」
目を丸くした。羽の設定を守りたいと必死になるのはいいが、どうやってそこから言い逃れるのかが気になった。
「どうやってだ?」
少年に絡まれて機嫌が悪くなってきてるのか、声が少しおかしい気がする。
「僕は後ろを向く。だからあなたは左右どちらかの羽を優しく触って。背中に感覚が伝わらないようにね。どっちを触ったかを僕が当てることができたら、羽に感覚が宿っていることが言える。つまり、本物の羽なんだって証明できるだろう?」
不完全だ。すぐに触ってやって、こいつの相手を終わらせてしまおう。俺は少年の右手側の羽にそっと手をあてた。
「あなたが触ったのは右の羽だね。」
五割をあてやがったか。これであたりとか言うと、少年の羽の自慢が始まってしまう。ここは左を触ったってことにするか。
「けっ。左を触った。偽物じゃねえか。その羽。」
少年がにやりと笑っている。そろそろ満足しただろうと思い、少年の横を通る。
「こら。うそをついてはダメでしょう。君。」
足は前に進む力をもっている。でも立ち止まっていた。
「うそ……」
そんなことはありえない。わけがわからない。
「あれ……?」
頭の中の整理が追いついていなかった。そして気づいた時には、目から涙がこぼれていた。どうなっているんだ。葛藤でも不思議でもない感情がこみあげてくる。泣いてる理由はたった一つ。その一つも、何だかわかっている。でも言葉では表しにくい。
「僕は天使なんだ。僕に羽がついている理由。それは僕が天界から降臨した天使で、もし危険な人間とあっても逃げるためさ。」
確信した。おかしいと思っていた考えも、ようやく納得できた。この少年は本物の天使だ。
「あなたの名前を教えてくれる?」
また涙がこぼれた。声がつまって、天使の問いには答えられない。
「まあいい。僕が命名する。今日からあなたは、
小さく首を縦に振って、頷いた。
「僕は君の願いを叶えたら、ノルマ達成。頭のいいあなたには二度の説明はいらない筈。叶えたい願い事をひとつ言って。」
小さく声を出してみようとしたが、上手く出なかった。後ろを振り返ると、少年が愛くるしい笑顔で俺を見ている。
俺は少年に身体を向ける。深呼吸して、心の準備を整えた。そして、大きく息を吸った。
「俺の周りのことを完全に知りたいです。」
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