メーデー!メーデー!仕事なんてやってられるか!

野良ねこ

第1話 どうして俺は働いているんだ

「休みが欲しい」


PC画面の右下を見ると22時を示していた、終わらない作業を延々と繰り返していたがこんな時間になっていたらしい。呟く声に反応する者はここにはいない、それもそのはずでこの部屋には自分しかいないのだ。


「まるで終わる気がしないし続きは明日にするか…」


独り言を吐くと、作業中であったExcelを保存して再度フォルダを起動して確認をした、前に虚ろな目でpcを閉じた後作業中のデータを保存しておらず半日無駄にして泣いたことがあるからだ。


PCをシャットダウンすると機械音が止み室内は一層静かになった、椅子に座ったまま背中を預け大きく伸びをすると、天井にあるむき出しの蛍光灯と目が合い一層うんざりする気分だ。


「進捗50%くらいか、問題がなければ今週中には終わるけど問題が起きないわけがないから来週までは見ておくか、取り合えず帰ろう。」


あらかじめ足元に置いておいた鞄を拾いそのまま室内を出て、エレベーターを使い1階に降り出入口で社員証を掲げ退勤処理をする。1階入り口だけやたら豪華なこのマンションは中小様々な企業が入っており自分の勤める職場は3階の小さな事業所だ。


自動ドアが開くと雨でも降っていたのか重たい湿った空気が外から入り込んで来た、疲れた体を引きずりながら光を背に外へと歩いて行った。


「っしゃっせー」


最寄りのコンビニに入るともはや何を言ってるのか分からない声で金髪にピアスを付けた大学生風の男が声を発した、帰りに寄るコンビニにはいつもこの男がおり、気怠そうな声は出すが無駄なことはしゃべらずサッとレジを通すので疲れた自分にとっては気楽だ。


「今日は一段とだるそうっすね」


ふと声をかけられた、仕事帰りにいつも顔を合わせるが話しかけられたことは無かったので少し驚いたが毎日顔を合わせているのでもはや顔なじみに近い


「あーそう見えました?雨が降ってたみたいで何時もよりちょっと気分が重たいんですよね。」

「低気圧不調ってやつっすかね、これから五月入るんで一層だるくなりそっすしコンビニ弁当ばっかり買わずにたまには女にでも弁当作らせて栄養取りましょ」

「毎日この時間に弁当買いに来るおっさんにそんな彼女いると思ってるのか…?」

「はははー人は見かけによらなかったりもするっすからねー」


そう言って弁当のナポリタンを何も言わずに温め始める店員は会話に夢中だったのか聞くことすらしていない、いつも温めているので構わないのだがそれはどうなんだ。


「そーいやメーデーって知ってるっすか?」


温め中手持ち無沙汰になったのか男が聞いてきた。


「助けてくれー!みたいな信号の奴ですか?」

「いやそっちじゃなくて、MayDayって言って海外では5月の1日に労働状況改善のために行進とか集会したりデモみたいなのするらしいっすよ」

「知らなかったそんなのがあるのか、でも日本では見たことがないな」

「なんかむかーしは日本でもあったらしいんすけど今では禁止らしいっすね」

「そうなんですね、それがどうしたんですか?」

「んや、お兄さんいつも見かけるのにいつも仕事帰りで死んだような目してるんでたまにははっちゃけて暴れたらいいんじゃないかと思ったんすよねー」

「そんなことしたら首になってしまうよ…」

「はははーそりゃそっすねー」


対した問いかけではなかったのかそこで話は終わり、ちょうど温め終わった弁当を袋に入れるとそれを手に取りコンビニを後にした、コンビニを出る前に背後から「体には気を付けるんすよー」とけだるげな声をかけてきた。


「そんなに死んだような目をしていたのか…」


外に出て家に向かって歩きながら独りごちた、殆ど話したことが無い男だったが存外自分のことを憶えており気にしてくれていたことに少し喜びを感じながら帰路へと着いた。


仕事自体は忙しいがやりたいことや趣味があるわけではないのでだらだらと勤めてていたが、男から貰った心配は燻っていた気持ちを動かすには丁度よかったのかもしれない。


「メーデーねぇ」


ストライキやデモはもってのほかだが、環境を変えるために動いてみるのも面白いのかもしれないと一人思い4月末の雲に覆われた夜空の下を歩くのだった。

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