恋と距離

@A2ki_AS

第1話 終わりと始まり

 離れ離れの身であっても、心はいつも寄り添いあう。よく聞くフレーズに過ぎないが、今の僕には特別に感る。指先が綴る彼女への思いは、あの子の心へ触れる前に、僕の中で消えてしまう。踏み出せない小さな一歩は、やがて広がっていくというのに。


 二人の出会いは互いに、まだ記憶も曖昧であった頃の事。物心がつけば、お互いの距離は誰よりも近かったのに、季節の歩みとともに離れていった気持ち達。いつしか二人は話すことすらも忘れ、目線の先は常に他人。昔結んだ約束は、気づけば過去において来ていた。


 安心と信頼を盾にして、現実から目を背けていた僕を、彼女の一言が引き戻した。


「私ね、引っ越すんだ、来年の春。」


突然の告白に言葉を詰まらした。


「東京へ?」


そう尋ねると、小さく首を縦に振る彼女。いつもより少し下を向いていて、普段見ていた笑顔すらも、今日は姿を見せずにいた。


 離れることが分かった時、錆びた歯車は、動き出した。




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