第3話 中二病そして馬鹿
昼休み、廊下が騒がしく。様子を見に来たが、どこかで聞いたことのある設定に引きつけられる。眼帯をつけ、ブレザーを羽織るその姿は誰もが目も引くものだった。
「そう、我こそが!! 世界最強にして世界最恐!! 悪魔と天使の混血の我には過去も未来もすべてを見透かす伝説の邪眼……! 真理の眼が隠されている! この封印が解ける時、世界は終焉、ラグナロクを迎える! だが安心しろ、我こそが!! 勇者という偽りの仮面を被った──」
廊下を通り越し、隣のクラスまで聞こえる中二病感満載の永遠と続きそうな挨拶を無視してマコに彼女の事を聞く。
「そうだね、彼女も允の思想の一人、何の思想かは言わなくても分かるよね……」
アイツはよく分からない単語を口にする時があった。『セラフィルムナイト・ウナクール・トイレットペーパー』などとトイレットペーパーの真の名前とやらを教えてくれた事もある。ちなみに真の名前を知る事で契約ができるとか言っていた。
どこか懐かしい感覚を思い出しながら静かに教室に戻ろうとするとさらに声を張って騒ぎ出す。
「──!!こ、これは……共鳴!? まさか近くに居るというのか!?」
左目を抑えながらよろよろと近づいてくる彼女の行動に近くの生徒の注目が集まり、そして近寄られた自分にもその嘲笑うような視線が集まる。正直言って今すぐ逃げたい。
「き、貴様……貴様も力を持っているのか!?」
「いや、僕はどこも痛くありません」
全く会話に乗ってこない返答に彼女も少し黙ってしまう。コホンとわざとらしい咳込みをし、こちらに目配せをされるも無知のふりをして無視する。
これでも親友の思想の一人、正面からの否定は良くなかったかと少し反省をしている所に顔面にグーパンが顔面を目掛け飛んでくる。避け切る事も叶わず、目の近くに直撃し、目を手で覆う。
「やはりな!? 貴様の眼も疼きだしたか……!」
こ、こいつ……!! 殴りたい! 今すぐ殴り飛ばしてやりたい!!
手で隠れた左目の奥には明らかな殺意がこもっている。ゆっくりと睨みを効かせながら顔を上げ、その殺気を孕んだ視線と赤くなった目に恐怖でも覚えたのか一歩、二歩と思わず身を引き、身体をすぼめる。
「い、いや……あ、当てるつもりは……」
ゴニョニョと口元が動き何かを言っているのは分かるが内容までは聞き取る事は出来ない。そんな所にも腹が立ち、自慢の邪眼を潰して漆黒の闇に閉ざしてやろうかなど物騒な事を考え始めたところでマコが止めに入る。
「まぁ、落ち着こ? 溜まってるなら私で発散しても良いよ……?」
語弊しか招かない意味深な言い回しのマコの発言にも触れずに怒りを抑える。あくまでも女子だ。女子に怒りで手を上げてしまったら男として生きる価値は無い。そう無理矢理自分に言い聞かせ心を静める。
「き、貴様は……淫乱クソ野郎」
「…………」
「……くふっっ!! 言葉の攻めでも良い……!」
ダメだ……!! 允の思想は全部ダメだ!!
前も後ろも頭のおかしい允の思想に挟まれ、すっかり周りからの視線はこのおかしい二人と同じ視線を受け、肩身がどんどん狭くなっていく。
「ところでお前どっから来たんだよ」
「……どこから来たか。そうだな、この星の遥か彼方。ディメンションを超えて来た。そう……我こそが!! 銀河系最高峰の他次元の使者! 幾度となく──」
思いついた言葉を言ってるだけの奴だった。多分意味は分かっていないだろう。つらつらと長い返答だがその一割、ましてやどこが答えなのかも分からない始末。
「隣のクラスらしいね」
「分かったのか? さすが同族だな」
素直に喜んで良いのかというギリギリの褒め言葉にマコも少し引きつった笑みを浮かべる。ヤバさで言えばマコの方が断然上であるにも関わらずだ。
「で、何しに来たんだよ?」
「ふふふ……よくぞ聞いてくれた。我の天命、定め、運命、宿命は限りなく原点に近い。放浪者ということだ」
「……特にないらしいよ」
初めてマコが役に立ったと思った瞬間だった。良くやったと親指を立てるとドヤ顔で答えてくれる。
「はっ!! 思い出したぞ……! 貴様も『陰潜みし、漆黒の章典』に命を捧げないか?」
何を言っているのか理解が出来ない。何を言ってるかは分かる。しかし何を言っているかは理解は出来ない。
「マコ……? 簡単にして」
「グループに入らないか? って言ってる」
「え? 嫌だよ?」
目をまん丸にして、口をポカーンとしながら動かなくなった。当たり前の答えを出したが彼女にとっては予想打にしていない回答だったのだろう。
おろおろと狼狽え始め、どうにかしてほしそうにこちらを見る視線と潰された左目の視線が交差する。
何か重大な事に気づいたように少し固まる。ふらふらと落ち着かなく狼狽えていた挙動も収まり、自身の腕を掴みチラチラとこちらを確認する。
「そ、その……目はごめん……」
きっと彼女は謝ることに慣れていないのだろう。中二病は彼女の意思の根本となるもの允がこうあれと想像していた姿。彼女は悪くない。
答えを待つ彼女の口元は垂れ下がり、不安そうにチラチラとこちらを確認する。その様子は愛くるしく感じる程だ。この謝罪は誠意のこもったもの、段々と強張った表情を解いていき、笑みへと変わる。
分かりやすくそれに吊られて彼女にも笑顔が戻る。そんな緩んだ表情に気づき気恥ずかしそうに冷淡とした表情に戻す。安堵が抜けきれなく嬉しそうなまま彼女はもう一度口を開く。
「どうだ? 貴様も『影潜みし、漆黒の章典』に入らないか!」
きっと彼女は明らかに手応えを得ていただろう。だがそれはフェイクである。先程まで笑みを浮かべていた顔は真顔に戻る。そして分かりやすくそれに吊られて笑みが失われていく。
「……イヤだ。許してやるが入らない」
「どうしてぇ! わた……我がこんなにぃー! 一人しか居ないんだよぉぉお!」
きっと記憶の内で僕なら入ってくれると允が言ったのだろう。そして裏切られこの有様。頭を下げる事をしたというのに意味無しとは相当屈辱的だろう。
半泣きの顔には流石に心を痛めるが面白い。そんな状況に笑みをこぼすと服をぐわんぐわんと腕を振り回させる。肩にかけていたブレザーが落ちるも関係なしに続く拷問と周りの視線に折れる。
「よ、よし……やはりな、天命は変えられないのだ」
允の思想には驚かされるばかりである。誰一人まともなキャラがいないのだから。
親友は不滅だった。 天然無自覚難聴系主人公 @nakaaki3150
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