第2話 夢そして変態は変態
学校のチャイムが会話を終わらせ、各々が自分の席に戻る。まだマコは脚をもぞもぞしている状態だが、本望らしい。だが目の前の席であまり欲情しないでいただきたい。
「はい、じゃあまず転校生紹介しまーす」
確かに允ではないため、転校生という扱いを受けても何ら問題は無い。教室中の視線がマコに移り、欲情中だったマコは少し慌てる。
席を立ちあがり教室の前で自分の生い立ちを説明されるがやはり意味が分からない。しかしなぜかクラスはそれを疑う事もなく受け入れる。この世界の概念を書き換えられたのかもしれない。
「実は今日は転校生がもう一人いるんだ」
マコの登場でざわついていた教室が更にざわつき始める。マコに目配せをし、何か知っているかと聞くも彼女も分かっていない様子。だが、今日来るという事はおそらく允がらみの人物だろう。
先生が教室の外に向かって声をかける。スリガラスに身長の低い影が薄っすらと映り、ゆっくりと扉が開いていき、そっと姿を見せたのは映った通り身長が低く、童顔の美少女だった。マコと同様に整った顔立ち、ボブカットの髪型が更に幼さを出す。少し眠そうな目は何かを見透かす様な視線でこちらを覗く。大事そうに両手で抱える一冊の本は英語の題名の分厚い本だ。
「……
苗字が小山。つまりはそういうことだろう。そう、また変な奴が増えたという事だ。あの見た目も全て允の趣味なのだろう。
允の思想が登場すればするほど允の株が下落していくが、まだ許容範囲内だ。
「おい、あの夢って人も允の思想の一つなんだろ?」
「そうだね。正直言って彼女が一番何しでかすか分からないよ」
少しマコの表情が暗くなる。彼女もまたマコのように特殊な能力を持っているに違いないが、マコの特殊能力がハズレ過ぎるので大した能力でないと予想する。
「気を付けてね。この調子だと神様になった思想が出てきたりしちゃうかもね」
允ならやりかねないと思い、少し苦笑いを浮かべる。そこまで来ると許容範囲外だ。手に負えない。
自己紹介も終わり、さっそく何かあるかと思って警戒するが何事もなく自席で突っ伏して眠り始める夢に少し安心し始めた。
だが一時間目国語の時間の事、それは突然に起こった。すべてが見えるようになった。少し違う。実際には服だけだが突如として透けて見えるようになった。
黒板に書かれていく内容を写している時、瞬き一つでクラス全員の服が消え去った。思わず顔を伏せるも、教壇に立つ茂雄先生(男)の体をはっきりと見てしまった。そんな最悪の気分と共に疑問、そしてその答えが瞬時に出る。
夢のせいだろこれ……! なんで透けるんだよ!?
前の席に座るマコに状況を端的に伝え、欲情させないように頭の中を無にしてどうするべきかの結論を聞く。
しかし、ダメだった。この現象を受けた人はどうやら僕以外にもいるようで、会話の節々に感じて言葉が詰まっている。
「……ッ!」
「やめろマコ! 授業中だぞ!?」
勿論この状況の犯人は夢である。誰しも一度は考えたことがあるのではないだろうか。
『服が透けて見える展開』……そう、それは允も夢見ていた事である。しかし彼自身がそんな力に目覚めるわけも無く、体験できずに命をお落した。そしてそんな暇な授業中などによく考える事を夢は具現化することが出来る。
服が透け、全身が露わになっているとは誰も思わない。皆が気付かない中、自分だけが見えているという優越感。それに浸り、夢は後ろの席でニヤニヤとする。度合いは違えど同じ允の思想であるため彼女もまた変態だ。
授業中にも関わらずに悶絶しだすマコをどうにかしようと薄目で辺りを見回す。一番後ろでニヤニヤとする夢、そしてもう一人マコに不純な視線を送り、ニタニタとするクラス陰キャ。あの二人は確実に黒だろう。
「んっ……! んン……!」
まだ小声のため教室に響きバレる事は無さそうだが、彼女は允の欲の化身。『一回ぐらい目隠しして虐められたい』とか言っていた奴の煩悩を凝縮した痴女のため、羞恥プレイに目覚めるかもしれない。
何が起こるか分からないこの状況に一瞬たりとも気が抜けない。かと言って授業中なので取り押さえに行くことも出来ない。
考えてる暇などない。今すぐ夢をどうにか──そこに響く鐘の音。授業の終わりを告げるチャイム。戦いの始まりを知らせるチャイムが響く。
同時に立ち上がり後ろを向く。転校生の席は一番後ろ。しかし、いち早く危険を察知し、夢が教室を飛び出す。
「鬼ごっこか!? おもしろ──」
夢を追い勢いよく教室の外に飛び出すも目に飛び込んできたのは馴染みのある校舎内ではなく知らない空間が広がっていた。違う――学校が変形している。天井に黒板があり、床の隅には逆さまの机。階段は空に伸び、何処かの教室が横倒しに突き刺さっている。上下反転、変な穴まで開いている始末。物理法則をフル無視したぶっ壊れ能力だ。
「確かに学校で鬼ごっこしたいなとか考えたことあるけど……!?」
タイムリミットは近い。色々とシチュエーションを話しているマコだが、実際は雑魚だ。
確かに允も『俺は、脚で十分堕ちると思う』とか言っている程のクソ雑魚(未経験)だったな……
夢に有利な風に変動する校内の手すりを滑り降り、壁を蹴って急回転したり、学校中を駆け回る。一度は全力で学校を走り回ってみたかった。そんな夢がかなった瞬間でもある。
しっかりと透視の効果はある。通り過ぎる女子の服も透けている。しかし、彼の脳内ではそんなことよりも学校鬼ごっこが楽しかった。無心でただ夢を追いかけた。幸い允と同程度の運動能力しか持ち合わせていないため、その差は段々と埋まっていく。
「──遅いんだよっ!」
階段を飛び降り夢の手を握る。飛び降りた勢いを殺しきれずに夢の腕を巻き込んだままその場に倒れ込む。視界に映っていないだけで実際はしっかりと服を着ているはずだが、身体の上に倒れ込む夢姿から、直で当たっているような感覚を起こしてしまう。
「さ、さあ。も、戻してくれ……」
挨拶の時のような眠たそうな表情からぱっちりと目が開き、少し笑みがこぼれる夢は静かに頷き、もう一度瞬きすると校内も元に戻り、透視能力も消える。一件落着の溜息をこぼし、夢にこんな事を二度としないように言い聞かせながら一緒に教室へ戻る。
「あぁ~……そうえば、アレだな。透視能力無くても脳内で好き勝手出来るもんな……」
多少痙攣しながら机に突っ伏しているマコを哀れに思う。
「あっ……っあ……」
恨むならこんなことを考えていた允を恨んでほしいものだ。
「べ、別にこの能力……感度値とか、範囲とか何ならオンオフ切り替えられるんだよね」
「お前は変態って事か……よく分かった」
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