親友は不滅だった。

天然無自覚難聴系主人公

第1話 事故

 タイヤが擦れ、不快音が耳に響く。視界に迫るトラックが音と共に近づく。周りの音は何も聞こえない。まるでこの音しか鳴っていないかのようにすべてを奪われる。思考も、体も動く事が出来ない。


 ただ一身に衝撃を味わい不快な音が消える。


 周りは騒めく程度の事態ではない。大量の血が流れ、その中に一人の男が倒れ込んでいる。彼には辺りがやけに静かだと感じている。身振り手振りの挙動はうるさいと言うのに声だけが、音だけが静かだ。


 意識が遠のいていく中、自分の状況を理解する。


 ……こんな所で死んじまうのか。


 全身の感覚が無い。視界に映る赤い血が自分の死期を悟らせる。


 ……まだ、何もしてないのに……大人の階段も登ってねーよ。


 キスってなんの味がするんだろうな。


 転生とかしちゃうのかな。


 段々と意識が遠のいていく。視界も暗く、音は聞こえない。


 俺は神様になるはずだったのに……


 水星人だし、血は出ない予定だったのに……


 働きたくないから、将来は石油王になって食って食って太って見たかったな……やっぱり、太るのはやだな。


 まだまだやりたい事いっぱいあるのに、死んじまうのか……


 視界も真っ暗になり、感覚も、全てが消えた。


 死んでられるかよ──



 ***



 僕がコイツが死んだのを知ったのは夕食の時だった。たまたま流れて来たニュースで、聞いた事のある名前だなと思っていたら親友だった。


 その日は喉を何も通らなかった。親友が死んだのだ。もちろん最初は疑った。電話をしても応答は無い。何かの勘違いを願った。


 何回も、何十回もかけてようやく繋がった。けれど、聞きなれた声ではなく、震えたか細い声が返ってきた。


 そして言われた。『うちの子は死んでしまった』と。


 泣き崩れ電話越しに響く泣き声。これを現実と受け入れてしまった途端、涙が止まらなかった。



 ***



 学校を一日休み、何とか心を入れ替えて登校する決心が着いた。


 アイツの座っていた席にはもう誰もいない。昼ご飯の時にアイツはもう居ない。

 心鬱のまま教室のドアを開ける。少しの期待を持ちながらも、嘘だった夢だった見たいなハッピーな世界を。アイツの席には人が座っていた。


 もう、自由席になってしまったのか……


 けれどその後ろ姿は見たこともない。腰まで伸びた長い髪は一本一本丁寧に、光沢を帯びているのではないかと思う程手入れされており、清楚な雰囲気が漂う。大きな二重、整った輪郭。まるでモデルの様な美しさがある。


「おっ? やっと来たか! 今日は遅いな」


 知らない人、見たこともない人。だけどどこか親近感がある。


「誰だよ」


「親友の名前を忘れたのか!? まことだろ!」


 いや、アイツは男だ。女じゃない。ふざけているのか?


 段々と怒りが積もる。こいつは舐めている。死んだ奴になって、煽ってくる。気持ちが悪い。


「お前は允じゃない」


「確かにな、允は合わないな……じゃあマコは? 可愛いだろ?」


「黙れ。お前は誰だよ。允を語るな」


「……小山こやま まこと。好きな部位は脚。足ではなく、『』と書いた『脚』の方が好き。」


 思い出す。脚について急に語り始めたアイツを、


「太股が柔らかいとかでは無く。完全な黄金比を求めている。太股と脹脛の比率、脹脛の山の位置、立った時の膝、座った時の太股の肉、それら全てを見た脚が、好き。健康的で、適度な運動をしていないと手に入らない。究極の脚を探し求めている。」


 そのまんまだった。アイツが俺に教えてきた脚の見方と。


「けど、允は死んだはずだろ……」


「フッフッフ……私は神になる人だぞ!? 宇宙からやってきた水星人だぞ!? 簡単に死ぬとは思うなよ。想いは……不滅だぁぁぁぁあ!!」


 本当に懐かしい気がする。最後に会ってから一日しか経っていないのに、死んだと聞いてからとても遠くに感じた。


 また、こうしてくだらない事を話せるとは思っていなかった。


「分かった。お前は転生したんだな? 自称神の自称水星人」


「その通り! 私は死なないさ」


 ちょっと違う日常がまた始まった。



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