第1話 科学部

━━━━1年前


「おーい、助手ー目ェ覚ませ〜」


 心地の良い夢の外側から身体を強く揺さぶられる。


「うーん……今いい所、」

「オ!キ!ロ!」

「ワッ!?」


 耳元で大声を叫ばれ驚きと反射で飛び上がって、そのまま机の上に乱雑に積み上げられた数冊の古めかしい本と共に椅子から転げ落ちてしまう。


「いってー……勘弁して下さいよ、部長」


 そこには白衣を着てニマニマさせる青い目で金髪ロングの女子高生が立っていた。


「起きないお前が悪いんだろー?画期的かつ革命的な私の理論……」

「また、平行世界云々の話ですか?いい加減にしてくださいよ……創作の見過ぎですよ馬鹿馬鹿しい」


「違ぁぁぁあう!!」


 先程床に落ちた本を拾い上げながらそう叫んで俺の目の前に開いてみせる。


「世の中のアホ学者共は本質を見てないッ!数百年……いや、数千年の魔術の歴史を裏付ける証拠を無視して錬金術の技術ツリーだけを進化させたからこの世界の真実にだな……」

「はぁー……」


 彼女の話を聞き流しながら深いため息を着き、窓の外を見るとそこには、夕暮れ時の空をドローンが飛び交い、交差点では自動運転車両が走行していた。


 こんな科学だらけの世界でも部長はまだ魔術やオカルトを信じてる、アホらしい。


「"科学"部、部長」

「また聞いてなかった!!!」

「あの……お客さんです」

「あ……?」


 部室の外には生徒会と書かれた腕章を付けた生徒が気怠げな表情で立っていた。


「ふん……どうせ最終下校時刻を過ぎてるとか何とか小言を言いに来ただけだろう!それより今は、魔術と科学の融合についてだな……」


 部長がそう言った瞬間に扉が蹴破られ、複数人の生徒会メンバーが押し入り、部屋の壁に2列整列する。


「貴様ッ!神聖な部室をっ!!!」


 騒ぎ立てる部長の前に1人の男がゆっくりと歩みを進める。


「科学部長……いや、"元"書記長」

「……なんの用?カル執行部長」


 部長は静かにその男を睨みつけると、執行部長は静かに封筒から紙を取り出す。


「ヴェリタス高等学校生徒会からの通達だ、科学部は度重なる校則違反に加え、期限内に規定の部員数を満たせ無かった上に功績を上げられなかった為に廃部だ」


 執行部長はその書類を部長に手渡すと彼女は静かに溜息を吐く。


「期日までに荷物を纏めて第四理科室を空けておくように」

「……行くよ、助手」


 部長はそう言うと、自分のバックを掴み俺の手を引いて部室を出ようとする。


 その時、執行部長が俺を静かに見つめる。


「悪く思うなよ、これも公共の利益の為だ」


 何か言い返す暇も無く、俺は部長に引っ張れて部室を後にし、屋上へと登っていた。


「偉いぞー今度は殴りかからなくて、100ハカセペイをやろう」


 何かを堪えるような棒読みでそう言う彼女は遠くを静かに眺めていた。


「部長が何もさせなかったんですよね?」

「そうとも言う」


 白衣が風になびき、斜陽は傾ききろうとする中で俺は期待を込めて口を開く。


「さて、これからどうするんですか?」

「フフフ……とっておきの策がある」

「オオッ!」


 召喚魔術のロウソクをプラズマでやろうとして部室が燃えた時も、全自動型コックリさんロボットが暴走した時も、小型原子炉がメルトダウンしそうな時も、部長は必ず解決してくれた……


 こんな所で彼女が、部長が止まるはずが無いのだ


「と、言いたいところだが今回ばっかりはお手上げだ」


「ええ!?この流れで!」

「いや、このままゴリ押しで活動を続けても良いんだが、金の問題があってだなぁ、活動費がでなければ活動出来んのよ」

「そこは部長のスキルで……」

「助手は私をなんだと思ってるんだ!?」


 そう言ってから大きなため息を吐くと、冷静な表情で呟く。


「それに、アイツら生徒会の事は私が一番よく知ってる」


 白衣のポケットから飴玉を2つ取り出し、1つを俺に投げる、もう1つを口に放り込む。


「元々は教師の言いなりみたいな組織だったらしいが、近年の自治教育の悪影響ダナ」


 バリバリと二三度飴を噛み砕き、飲み干すと自分の薄汚れたバッグから本を取り出して開いて見せる。


「また変な……」


 呆れた俺はいつも通り適当にあしらおうとするが、その本に貼り付けられた物に目が釘付けになる。


「綺麗な……羽?」

「そう……これこそがこの世界と違う世界、魔術の世界が存在する証拠!」

「いや、でもこれ偽物なんじゃ……」

「まーだ言うか!じゃあこれを見ろ!」


 そう言って5枚ある羽の内1枚ひっぺがすと同時に屋上から投げ捨てる。


「え!?ちょっ!?」


 羽が風に乗ったその瞬間、そのまま飛んでいくと思われた羽はバチンという音と少しの光と共に消滅する。


「き、消えた……」

「正しくは"戻った"」


 部長が再び本を開くとそこには飛ばしたはずの羽が挟まっていた。


「……テレポートですか?」

「さあ?詳しくはまだ分からない、研究中だ」

「じゃあ!これを成果として……「もうやったよ」


 部長は力無くそう言うと本をカバンにゆっくりとしまう。


「権威を持った学者は自分の立場を脅かす発見を弾圧する……って訳ですか?」

「それだけじゃ無いと思うけどね」


 部長は寂しげに髪を触ってからにカバンを持ち上げて歩き始める。


「……そんな事が許されるんですか?」


 そう呟きた時に、部長はニマニマとした表情で突如振り返る


「ま、何はともあれ、君は私が居ないとダメだもんなー?」

「ッ!……そんな事は!」


 何かを言う前に彼女は微笑みながら「はいはい」という感じで屋上へと出る扉の前へ歩いていく。


 俺は急いでそれを追って走っていく。


~~~~~~~~~~


 校門の前に到着する。


 部長は何故かいつも寮と逆方向のバスに乗るのでここでお別れとなる。


 彼女は俺に向かって片手を上げる。


「じゃ、またね」

「はい、また」


 2人は別々の方向にあるバス停で待ち、それぞれが別々の自動運転の車両へと乗り込む。


━━━━━━━━━━━━━━━


──数十分後 ヴェリタス高等学校 男子寮


 俺は自室の床に荷物を落としベットに倒れ込む。


(今回ばかりは……)


 部長の声が脳内にこだまする。


 マットレスに突っ伏した顔を90度曲げて卓上の写真立てを見ると、そこには2人の白衣を着た子供が親しげに写っていた。


「あの頃は楽しかったなぁ……」


 そう呟いた時に自分の携帯端末が鳴り響く。


 恐らく、部長からの明日からの作戦会議電話だろう。


 ため息と共に手を伸ばしてポケットから端末を取り出すと耳に当てる。


「はい、もしもし」

「もしもし、佐久山 レナさんのお友達ですか?」

「はい、そうですが?」


 電話の相手は聞いた事のないどこか捲し立てるような声だった。


 奇妙に思い番号を確認すると間違いなく部長の番号だった。


 一抹の不安が募る、この前も似たようなことがあった、彼女はよく携帯を落とすのだ、おそらく今回もそうだろう……


「良かったです。落ち着いて聞いて下さい」

「……はい?」




「佐久山 レナさんがお亡くなりになりました」

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