虫歯の理由
saito sekai
1話完結
私は、隣家のお婆さんが寂しそうなので、時々話し相手をしていた。そしてある時、お婆さんは手作りのマフィンを持って来てくれたのだ。
「いつもありがとう。このマフィンは不思議な力があるんだよ。念じて食べると、過去でも未来でも行けるのよ。でも、その時代の自分に接触したり、歴史に手を出したりしたら、元に戻らないから注意だよ」と。
私は、そんなことあるのか信じられない気持ちだったが、過去に行ってみたいと思い、念じて食べてみた。すると、懐かしい世界が目の前に広がって…
「あっ、あれはお母さんだ。若いなぁ…すると自分は小学生くらいか」
私は注意深く、知り合いに会わないように、気を配りながら探索する。歩いている内、気が遠くなり……
気が付くと、今の時代に戻っていた。そしてこの遊びにはまった私は、お婆さんにマフィンを定期的に作ってもらい、時間旅行を楽しんだのだ。
こんな遊び、飽きないなぁ…
そんな毎日だったが、ある時強烈に歯が痛くなり…歯医者にお世話になる事に。甘いものの食べ過ぎで、すっかり虫歯になってしまった。お婆さんは亡くなった。マフィンはもう無い。
私はつくづく思う。大切なのは、過去でもない、未来でもない「今」という時間なのだと。そんな私は、今日も歯医者の予約が入っている。 完
虫歯の理由 saito sekai @saitosekai
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