イノブタと天使

四百四十五郎

イノブタと天使

「イノブタは、イノシシとブタの間に生まれた子供で、それぞれの特徴を持っています」


 生物の授業中に放たれた一言が、生まれつき翼が生えていた私の心を掴んで話さなかった。




 私の名前は天村あまむらミカエ、高校1年生の女子。


 背中にはなぜか純白の翼の生えており、お節介焼きな性格のせいもあって『天使』という仰々しいあだ名が付けられている。


 私の家は母子家庭で、母さんは父さんのことを絶対に話そうとしない。


「私って……もしかしたら天使と人間のハーフなのでは……?」


 そんな仮説が頭の中に浮かんだ。


 この身体も、人間の頭に輪っかがない要素と天使の背中に翼が生えている要素が合わさった結果なら納得がいく。


 


 翌日、私は聖なる力(推定)に目覚めた。


 「コスプレした姉ちゃ~ん、オレとホテルで朝まで語り合おうぜ~」


 デパートに出かけ際に金髪の男性からあまりにも露骨すぎるナンパを受けた時、それは発現した。


「あ、あれ……?さっきまでここにいたはずなのに」


「あれ……?さっきといる位置が違う」


 なんと、危機感を持つと瞬間移動する力に目覚めてしまったのだ。


「……もしかして、マジモン?」


「まあ、翼に関してはマジです」


「……触らぬ神に祟りなしっ!じゃあな!」


 ナンパ男が私の存在に恐れおののいて逃げていく。


「あれはもしかして……聖なる力?」


 聖書で見たことがある。


 天使は人間離れした力を扱うことができるのだと。


「……やっぱり私の父さんって、天使なんだ」


 疑惑が確信に変わった私は、すぐにでも母さんを問い詰めるべく、家に急いで帰宅することにした。




「ミカエ、その通りよ。あなたの父さんは人間ではないわ」


 私に問い詰められた母さんが、しんみりとした顔で真相を告げる。


「……母さん、父さんについて教えてくれないかしら」


「……あの人とは17年前、市民ホールで行われた手品ショーで出会ったわ」


 母さんが思い出に浸るような顔をして、父さんのことを話し始める。


 というか、天使も手品ショーとか行くんだな。


「舞台の上にいた、あなたと同じくらい真っ白な翼を持っていてとても男前だったあの人を見たら、私はもうひとめぼれだったわ」


 マジか。観客じゃなくて手品する側だったのか。


「私はガマンできなくてね……ショーの終了後にこっそり楽屋に忍び込んで、一夜の過ちを犯してしまったの」


 おい、シンプルに犯罪じゃん。


 というか、相手側の天使もよく了承してくれたな。


「それで、名前とかは……」


「教えてもらえなかったわ。だってあの人、寡黙だったもの」


「……そっか。色々教えてくれて、ありがとう」

 

 だが、これで父さんを特定できる情報が揃った。


 白い翼を付けたマジシャンなどこの世にせいぜい数人しかいないし、ネットで検索したらすぐに父さんが見つかるだろう。


 私は自室に戻り、パソコンに向き合い始めた。




「いないな……白い翼のマジシャン……」

 

 特定は難航した。


 白い翼のマジシャンが数人どころか1人もいなかったのだ。


「うう……」


 ディスプレイには白い鳩が大量に映っていた。


『マジシャン 白い翼』と検索した結果がこれである。


「……ん、待てよ」


 その時、私は気付いてしまった。


 マジックに使われる鳩は大抵真っ白なハトである。


 そして、先ほどの母さんの話でも父さんが『手品師』だとも『人間』だとも言っていない。


「いやいやそんなわけないでしょ……私は『危機感を持つと瞬間移動する能力』もあるんだし……って」


 ハトを用いた手品は大抵の場合、瞬間移動に見せかけるタイプのものが多い。


 もしもそれが、ハトが自前で持っていた能力だとしたならば……?


 そして、私が目覚めてしまった能力。


「もしかして、私の父さんって……」




 イノシシとブタのハーフがイノブタなら、私はハトニンゲンなのかもしれない。

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イノブタと天使 四百四十五郎 @Maburu445

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