勝手な人ばかりの群像劇。

さて、視点を変えて、

彼女、坂本泉捕まえんとする人間たちと言えば。




あの後、遅れて現れた男、辻神は集まっていた知り合いたちに怒鳴りちらし。

すぐさま探すように命じた。

坂本泉をすんでの所でさらわれて、完全に男は面目丸潰れだった。


人脈が自慢だった男にとって人に聞けばすぐに彼女を乗せた車も、車の持ち主も、彼女の行方も数時間のうちにわかるはずだった。


しかし。

すぐつかめると思った行方がつかめず、どうやら自宅にも戻らず。

そして、翌日、姿を見せず、代行業者を使って辞表を表した、そのことで。

また、彼女につながる縁が切れ、行方探しはより難しくなったことがわかった。



泉が退社手続きを依頼し、出勤を諦めた社内では。朝から数少ない女性社員たちが携帯電話を片手に眉を寄せて、過ごしていた。


特に泉と同じ部署の松坂あかりは、仕事が手につかないのか、打ち間違いをするたびに、だんだんイライラし、無意識に爪を噛みあぁだのもうだの、他のものは誰も話しかけられない位。


「ごめん松坂?」

部長の下地が話しかけるが、どうしたんですかと言葉は丁寧に優しいが睨みつける視線が全く優しくない。


仕事を頼もうもんなら、殺されそうだと内心思いながら、締め切り時間ギリギリの書類を受け、態度に注意せず、力なく立ち去った。

部長何とかしてくださいよ。


「決まってんだろ無理無理。あれなら視線で人が殺せそうだ、下手な恨まれちゃなあ」


また、社外でも

男が1人苛立っていたそばにいる女たちが寄ってくるのも触れるのも、周りに人がいることすら気に障るようだ。


勇気を出して彼に駆け寄る女。


沢山の女達のなかで、派手ないで立ちは心配をするふりをしながら、自分に向けられる優しい言葉を期待して、話しかける。

「いらっしゃい、会いに来てくれたの?」


今男が1番気にかけている女がいるのは知っているが弱っている。


今こそもしかしたらまた私を選んでもらえるかもと期待をしたが、男の頭は逃げた女のことしかないようだった。


男は顔も見ずに一言見つかったかだけ。


顔を見て。来て10分もなくこの場所を立ち去ろうとする。


「せっかくこの場所に来てくれたんだから、少しはゆっくりしていきなよ。みんな探してるよ。見つかるってだから今はご飯でも食べてほら座ってよ。ここにいつものお酒も準備してる待ってたんだから。」


今日の私の予定、夜空いてるよ。指名してくれるなら大歓迎だよと誘うが。


しかし、言葉とともに組んできた腕を雑に振り払い男は見つかったら、呼べと言い捨てて、最近足しげく通っていたバーを出て行った。




あの女どこに消えた人に聞いても、足取りがつかめない

悔しくて、歩けば歩くほど怒りが募り、足は速足になり、つい足元にあった。誰かが捨てた空き缶を踏み、蹴り上げる。


もう一度跳ね返ってきた。それを再度ぐりぐりと踏みつけ、震えて、携帯電話を取り落としそうになるのにも舌打ちをしながら電話をかける。8コールほど相手が出て、その態度も氣に触る、やはり見つからないと言う。


いつもだったら、探さなくても自ら進んで自分の手元に手のひらに女たちは落ちてきて、その中から自分は選ぶだけだったはずなのに、避けられれば避けられるほど氣になって気のない素振りをするのをもしかしたら極度の恥ずかしがり屋で氣持ちを言えないのではないかとせっせとアピールをしてみたのだが。まさか本当に釣れないだなんて。


仲間では、連戦連勝の恋のゲームに、黒星が付くかと半笑いでもちろんモテない男が言うがだが、それでも言われるなんてプライドが許さない。


それに捕まえてしまえば、後は、彼女が自分の持つ溢れんばかりのお金と能力と魅力に氣づくまで一緒にいれば良い話。


「側にいて、俺の魅力に気づかないわけないだろうし、なぁ」


少し何かを想像したらしく、一瞬口元、緩めて、すぐにまた別の自分の仲間のいる場所へ、消えた、彼女——坂本泉の足取りがつかめないか、また既に調べがついている。彼女の自宅、彼女の社内にいる知り合い彼らからの報告も聞かなくてはならない。


なんとしてもこれだけ時間と金とかけたわけだし、このゲームの勝負にも勝って、甘い夜が過ごせる未来を手に入れたい。


男、辻神章久はタクシーに乗り、また、人探しに戻る。


何よりこれまで培った地位とプライドを盛り立てるなら、ともかくゲームの失敗で格好の悪い姿を見せてなるものかと、タバコの箱握りしめて、何かに当たりたくなる衝動と、戦い耐えようとしていた。


お客さん、どこまで?

〇〇ビル、早くしてくれ。


慌ただしく走り出す様子を、陰から見る人影に氣付かずに。



男が立ち去ったバーに残された女たちは、怒りと悲鳴をあげていた。

彼女たちは、男のためにまた坂本泉のために集まって話をしただけだった。どうせどんなに好きでも時間が経てば飽きてしまうと知りながら、好きな男のために男の代わりに泉を説得し、2人を取り持ち、もしくは泉を男の耳目の届かない場所へ、もしくは他の男のものにして、男が欲しがる価値を消してしまいたかった。


もし泉が男と付き合ってもまだすぐに別れるに違いないし、自分の方が良い女に決まっているので、さっさと付き合って別れて男の氣が済めばまた自分を売り込み1番の女にしてもらうチャンスはある。


欲を言えば、泉と付き合うことなく、失った男の1番の女の座を得たいし、裏でこっそり泉を彼、辻神の世界から排除したい、したいし1番良いのは手を下さず、泉自身が別の場所へ移るなり、男を見つけるなり、自分の恋敵にならない事。


そう思って。

かつて男に袖にされた女たちは、泉詰め寄ってみたもののそのせいで逃げられたと好きな男に責められ。


今も、たった1つまみでも、彼の寵愛を得たくて、携帯電話を片手に泉の足取りを探して。

でも、どれだけ時間をかけても。

結果が出なければ。


男はは冷たい。


好きだからこそ、憎い。

そして、男をこんなにも振り回す、坂本、泉と言う人間が腹わたが煮えくり返るほどに、憎い、憎くてたまらない。


「ねぇどうしましょう?

見つからないし、辻神さま帰っちゃったし。

私たちあんなに辻神さまのためにしたのに、怒らせちゃったし、もう完全に嫌われちゃったかもしれない。」


自分よりも数ヶ月後に男と付き合った後で、1月で別れた同僚須田ひよりが、バーのオーナーである自分にすがりついてくるが、それが氣持ち悪くてたまらない。


「あなただけじゃないでしょ?

あなたの辻神さまじゃないでしょ。

ここにいるみんな、そう思ってる。泣く位だったら、何か役に立つ情報でも集めて報告したら」


自分を捨てて、次の女に行く、その女がまさか当時バーに働き始めたばかりの、須田ひよりだったことを。

オーナーになる前先輩としていた、自分を簡単に裏切った女を、また、男のために今も雇い女磨きに忙しい自分。


忘れていないあの時の悔しさを、思い出しながら、那谷美穂は、ひよりを引き剥がす。


手を叩いて、みんなを仕事に戻す。

「開店時間はとっくに過ぎてる。崩れた顔直して準備して店開けるよ」



最初の客は初めての客だった。

誰からの紹介でと聞くと、スーツ男は名刺を1枚見せて、目を通すのを見ると、すぐにしまった。


「城戸さんのお知り合いなんですか?」

「えーまぁ親父の友達の飲み友達なんです。」

「あら、珍しい。あの方、あまり友達がいないって嘆いてらっしゃったから。」

「親父の友達はかなりの酒好きで— —」



この日は、何故かこの客を除き。

客足がなく。


閑古鳥がなく中。

バーの女たちは、辻神章久のために終始携帯電話をいじり、ときに電話口に大声で話しかけたりしながら過ごしたが。


その後も連日人入りが悪く。

だからこそ、捜索活動にいそしむが日にちばかりが過ぎる。




坂本泉が雲隠れしてから五日。

未だに彼女を探し出さんと歯噛みする人間たちは変わらない現実に足踏みを続けていた。


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