切れた緊張、音からの開放。

朝起きて。

雇い主な早起きを見て。

現実に戻る。


夢じゃなかった。

あれ現実か。いやまだ夢の中だとおやすみしてしまいたい、そんなことを借りた部屋の扉を開けたり閉めたりして悶々していた所、家主に見られる。


「寝ぼけてんのか、大丈夫か?」


息すら感じる近さに寄った顔の瞳が、まつ毛が、長くて綺麗だったが。あたしの鼻息かかるって言うか、瞬間的に息を止めてて。

離れて廊下を歩いて行く背中が視界から消えるまで、息を止めてたから。

「あ、わりい、眼鏡ないとあんま見えなくて、そこどいて、便所行きたいから」


姿が消えた途端。

むせる。咳き込む。

リターンして来た男、に、また

大丈夫かと労り近づかれまた息を止めた、に氣付いて。なんとか息を吸う。


「は、はぁっ!?ち、ち、近い。近い。」

下がると見ようとまた、なんか近づいてくるし焦点あってるような、ないようなぼやっとした目とスウェット姿を見て。

ゆるさや、乱れ具合に、見てはいけない大人な空気すら。


や、やめて。

大丈夫、大丈夫だから、が伝わらない。

ともかく眼鏡、掛けてくれ。めくれた服の裾をきちんとしまって、臍取られるぞ?



昨日ついでに買ったと言う食パン、菓子パンジャム、数種類を並べて顎でしゃくる仕草をする上下スウェットの服の男。

好きなのを食べてくれ。お金は取らないぞ。疲れ目ですか?両目の目尻を鼻を挟む様にしたり、眉毛と目の上、押さえてみたりして実家の父親みたいな仕草。


「あんたのおかげで、ひっきりなしな電話疲れだ。愛されてんな?メールと書類とあんたを雇うだもんで辞めた元の勤め先からももう連絡がいろいろ来てるらしいぞ。」


眼鏡をかけた姿は。

シールを集めて、お皿がもらえるキャンペーンを良くするパン会社がする朝の食卓を舞台に笑顔のお兄さんみたい。

嫌な話を爽やかな顔で言うことじゃない。


じゃあこれをとメロンパン続いてもう1個と勧められてあんぱんをマグカップいっぱいのコーヒー。喉でむせる。

苦いと文句を言うとわかってないなと仕草付きで、また何かのCMのようだ。良い大人の男が人差し指だけ伸ばして、ちっちっちとするのも絵になるから、余計に嫌だ。


この味がわからないなんてお前も舌が悪いのか

よくよく覗くと混ざっていないインスタントコーヒーの粒がかき混ぜると出てきて、どろどろしていた。

牛乳はいれない、砂糖もないと言う。


水で薄めて飲むしかないか……。



思考停止する奴等ばかりだなあと、

感想を言いながら、契約書を差し出される。


こっちは、辞める代行関連。

こっちは、例のファンクラブと男関連、で

最後にこれ、うちで働く雇用契約書。


沢山ある。

いや、いやこんな沢山ある?

と言うか、辞める奴、男や取り巻き女達の、ために読むべき書類がやたら多い。


次に辞める代行関連。

最後でいいと言う雇用契約関連の書類の少なさよ。数枚?


「君を知らない今うちに募集している仕事はない、だから、仕事を作るんだな。

内容は追って決める。昼食代これで、頼んで食べて。何かあったら今日からこのスマホで、トラブルが終わるまで使え。社用だ。」


これまでのやつはこちらで預からせて貰いたいと言われ、初仕事だ、早くとせかされながらデータ整理。


見せられないものは消してから渡してくれ。もう10分ちょっとで出かける前にと無茶振りするのだが、残念。全てできている。

と言うより、充電するたびにエグい数の着信、メールsns の数。

なりすぎて消していても着信拒否しても、別の電話を使い、メルアドを使い、

頭が狂いそうで。


解約しようとしていた時だった。



「最初の方のとか、結構、来たメール類増えすぎて消しまくっているから証拠にはならないかも?」


「いやいや、見るたびに二桁でドン増えるのってモテるねー、大丈夫。あとは専門家に丸投げ、一旦してみな。休めよ、じゃあ、夜9時に帰る」


人がいなくなれば、静かな部屋の中鳴らない。携帯電話とすることのない用事がない。何もない。テレビをつけてみる。もう何年もこんな時間にのんびり過ごして行ったことがなくてどうしたらいいかわからない。


どうしたの?

ふと、懐かしい声。二度と忘れて痛かった顔が近付いてくる、逃げないと。早くそう早く。


「嫌っ!ああ?ここ、人んち、だ。」

彼は帰ってきていない。

大事ない、大丈夫。見られていない。


氣付いたら窓の外は真っ暗。カーテンを閉める目が疲れか、ピリピリしていて、洗面所に。


嫌な夢、夢の中だけじゃなく泣いて寝落ちしていたらしい。

昼食べ損ねて、夕飯、にはまだ早いけど。

白御飯食べたいなぁ。


カツ丼をかきこみつつ、ハンバーガー店の、ポテトをつまみ、シェイクを飲む。


よく、食うなあ、と言う家主が帰宅し、エコバッグの中身を広げる。


あ、ポテチ!

コーラもあるぞ?


美味しー


泣きながら食べんなよ。



まだ切羽詰まっているけれど。

氣が緩むと。

泣きたいじゃなくさ、涙が出ます。

止まらない、前触れもない。


悲しいも悔しいも恐怖も、全て詰まってパンパンでもう。

蛇口がこわれたのかな。

力も入らない。


私、壊れた?



働く、より休む仕事だな。


まず、有給やるから1月休めよ。

毎日、昨日書類書いた、彼の会社内のカウンセリングルーム通いを受けることが決まった。

彼と、ともに。


昼食ぐらいには、手の開けた彼が送って、また会社に戻ると言う。


おまえ、顔青い。

そう、帰宅したら家主が入って来たその音が、くる人が怖い事に、ばれて、カウンセラーさんに来て貰うのはやめになり、私から行くならまだマシかと、計らってくれた。


カウンセラーさん、と言うより話し合い相手がいるといいよな、と。

姉の友達だと言う、仲間さん、を紹介して、

顔合わせを見て、彼は仕事に行った。



はじめまして。

話は聴いてない。貴方の口から話を聴くわ。

仲間、亜希子さんは、趣味はネットでの対戦ゲーム、後、猫がいるから、気楽なら猫も呼ぶよ?と笑い。


最初から予感。

この人なら、話を聴いてもらえそう、受け止めて貰えそうな氣がして。



最初の対面時間は早くすぎ。

次の約束をお願いした。



随分顔明るくなってないか?

驚き顔に、笑いかける。

そりゃ、美人だから。


はあ?





帰ると。

ベッドが、あって。

しずかで。喋り疲れた、話したい話はある沢山あるけど。



疲れてる、瞼が下がるまま。



おやすみなさい。



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