余興

「五日前の十七時頃あなたはどこで何をしていましたか」

 宇宙警察を名乗る浮浪者を睨みつけ、男は忌々しげに答えた。

「地球にいたよ。墜落したUFOの周りで焚火してた連中からマシュマロをもらう夢を見てたら、ちょうどお前みたいな気違いに叩き起こされたんだ。聞けば、『今日はまだ誰にもこんにちはを言ってない』と抜かしやがる。『そんなことで起こすな。せっかく愉快な夢を見てたのに』って返せば、『どんな夢?』だとよ。なんでお前に教えなきゃいけない」

「で、どんな夢だったんですか」

「もう話しただろ。浮浪者をリンチする夢だ。俺達はタダでマシュマロを手に入れたわけじゃない。余興をやることになったんだ。最初は誰彼構わず殴ってたんだけど、一人が膝を突いたら皆そいつを狙い出した。思い思いに蹴り込んで、あっという間にんだけど、キャンパーの奴らはそこで満足してマシュマロをくれた。ツボが浅くて助かったぜ」

「浅いと言えばベジタボー」

「俺は野菜よりマシュマロが好きだ。よってお前も死ななきゃならない」

「あなたも明日そうなりますよ。血なまぐさい余興はこれにておしまい」

 それが浮浪者の最後の言葉となった。

 男は焚火に近づくと、約束通りマシュマロをもらった。故郷の歌を歌うキャンプ星人の声が聞こえなくなるところまで歩き、夜空を見上げた。星が彼を見つめていた。

 思わずため息をこぼし、肩越しに背後の闇に目を遣ると、数日間温めていた世迷い言を口にした。

「お前らがポルターガイストでも起こしてくれたら明日もマシュマロが食えるのに」

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チュンガハ・フミンミン 呪わしい皺の色 @blackriverver

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