禁欲日記

十月一日

 オナニーやめた。擦って褒められるのはカーリング選手ぐらいだし。


十月二日

 燃えるゴミの日。体が訳もなく震える。重ね着をしたが無駄だった。詮索屋の山田は訳もなく震える俺を許してくれなかった。チュンガハ・フミンミンは一緒に震えてくれた。あいつは良い奴だ。


十月三日

 新しいストレス発散法を考える必要がある。今日は家の中でシャボン玉を吹いた。なかなか楽しいが、おかげでベッドが泡まみれだ。


十月四日

 目覚めから十時間経った今も今朝見た夢の内容が忘れられない。夢の中で俺と坊主とチュンガハ・フミンミンがポルノ談議をしていた。へそ好きの坊主がスマホでスクショを見せながら、画面中におけるへそとペニスの理想的な位置関係について語った後、一体誰の口から発せられたのか思い出せないが、「催眠モノのリアリティ」が話題に上った。俺達は頭を半回転させて議論し、何らかの結論に達したが、機を見て現れた十二人のサラリーマンに囲まれ、針を刺され、議論の結論を盗まれた。チクチクする痛みがチクタクと続き、ぼんやりした頭でなんとか目覚まし時計を掴んでいることに気付くと、開け放していた窓から優しい風が吹いて来た。


十月六日

 アパートの五階からわかる尻のデカさ! ←n年後の自分へ 何のことかわかるかな。


十月八日

 山田が国語辞典を読み終えたと自慢してきた。おめでとうと言う代わりに「次は何読むの」と尋ねた。特に決めてないらしい。『ロリータ』を薦めようか悩んだが、奴がこれ以上厄介な人間になったらたまらないので話題を変えた。山田の関係者は俺に感謝するといい。


十月九日

 小雨。散髪。スタイリング剤の甘い匂いをまとった男美容師の温い手が首筋に当たり変な声を上げそうになったが我慢した。が、おばちゃんの顔剃りは駄目だった。触り方が一々くすぐったい。刃物を持った人間を苛つかせることだけはしないと誓っていたのに。


十月二十一日

 鈴木の妹が昔働いていたコンビニでパンを買った。


十一月某日

 赤ちゃんプレイってどうしてネグレクトされない前提なのかな。←「幸せになりたいからだろ」と山田は答えて俺の平らな後頭部を撫でた。


十一月十五日

 みはらし公園のイチョウの根本に精神科の診察券が何枚も落ちていた。名前も書いてあったが、ここには書かない。


十一月十六日

 ののしり、よがり、吉野ケ里


十一月二十八日

 本日のやり取り

山田  ぐ・ぬ・ぶ・む?

野呂  …………で。

山田  三十秒も掛けるような問題じゃないぞ。


十二月四日

 裸は裸を猥褻だと思わず、セックスはセックスを猥褻だと思わず、人が裸やセックスについて考えると猥褻だということになる。つまり、どういうこと?


十二月某日

 集合写真を画像検索して被写体の関係性を妄想する遊びで一日をつぶした。レズカップルを五十組ほど誕生させた後で頭痛が治り、ベッドを離れた。日没から相当時間が経っていた。昔は水抜き穴に空き缶を突っ込む奴は夜にやっていると思っていたが、一度も見たことがない。


十二月二十三日

 ロシア映画で、旅に出る相棒との別れの挨拶にと男同士で頬にキスし合う場面があり、それを見た瞬間尻がキュッと締まるのを感じた。巾着と同じ要領。


一月五日

 霊園を散策。人よりカラスのほうが多い。花が色々供えてあったが、葉牡丹以外はわからなかった。


一月六日

 田舎のバスの待合所。ベンチの背もたれと向かい合うように正座させられたパンツ一丁の野呂岩志のろいわし。待合所のドアが開け放してあるのでぶるぶると震えている。その様をクスクスと笑いながら彼女はマジックペンでチョコレートの食品表示を肌に書き写す。ペン先の動きに反応して縮こまったりピクッと震える背中がかわいくて、彼女は自分を抑えられない。荒い息を吐きながら棘突起を何度も殴りつける。男は攻撃をやめてほしくてごめんなさいと連呼する。女は攻撃を続けたくてごめんなさいと連呼する。


 湖。幾艘ものボートが浮かんでいる。そこから背広を着た男達がストローを片手に水面を覗き込んでいる。濁っていてよく見えないが、水中では今まさに一人の少女が死にかけている。既に意識はない。まもなく少女が最後の泡を吐く。だからなのだ、男達がストローを片手に水面を覗き込んでいるのは。


 毛むくじゃらの十字架に口付ける乙女。ねぶらーしか。ねぶらーしか。Здравствуйте, новый мир!



ああ、天国の視聴覚室でご先祖様が腹を抱えて笑ってる……お前の痴態で。

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